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令和4年度学部卒業式並びに大学院学位記授与式を開催

2023.03.24

令和5年3月23日、令和4年度美術学部・音楽学部卒業式並びに大学院美術研究科・音楽研究科学位記授与式を執り行いました。御家族の皆様、関係者の皆様には,動画のライブ配信で御視聴いただきました。

美術学部133名、音楽学部56名、美術研究科修士課程70名、音楽研究科修士課程29名、美術研究科博士課程7名、音楽研究科博士課程2名が、教職員に温かく見守られ、卒業式並びに学位記授与式に参加しました。

今年も趣向を凝らした自作の仮装で出席する学生が多数おり、答辞の際には講堂内に笑いが溢れるなど、本学らしい和やかでアットホームな卒業式となりました。

卒業生・修了生の皆さん、本当におめでとうございます。

教職員一同、皆さんのご活躍を心から期待しております。

令和4年度卒業式式辞

本日、ここに集われた美術学部133名、音楽学部56名、そして大学院・美術研究科修士課程70名、博士課程7名、音楽研究科修士課程29名、博士課程2名、総勢297名の皆さんが、卒業ならびに修了されますこと、誠におめでとうございます。京都市立芸術大学を代表いたしまして、心からお祝い申し上げます。また、ご来賓の皆様には、お忙しい中ご臨席いただきましたことに深く感謝申し上げます。

動画ライブ配信でご視聴いただいておりますご家族や関係者の皆様には、今日まで学生たちを支えて下さり、また京都芸大の教育にご理解とご支援を賜りましたことに、厚く御礼申し上げます。

さて、本日の卒業式・学位記授与式は、3年ぶりに音楽と美術の、学部と大学院がこうして一堂に集って開催することができました。この3年間は、私たちも含め、世界中の人々が同時に、新型コロナウィルス感染症の蔓延と戦ってきたと言えます。医療関係者のみならず、小さな子どもから大人まで、自分を守ると同時に、周りの人たちを守り一緒にこの困難を生き抜くことを考える、そのような体験をしてきました。皆さんの学生生活はその真っ只中にあって、さまざまな制約を受けることが避けられませんでしたが、昨年の秋には芸大祭を大学構内において対面で行ってくれたり、また学生や教員、研究者の国際交流がすこしずつ活発になるなど、制限が緩和され、ようやく長いトンネルの出口が見えてきたところです。

しかし、昨年からはまた新たな困難があります。ウクライナとロシアの情勢が、未だ解決の糸口も見えぬまま、世界中に影を落としています。日本にいる私たちは、直接の当事者ではありませんが、連日届く戦場のショッキングな画像・映像に圧倒されることになりました。そして私たちも災害当事者だったコロナ禍と大きく違うと感じるのは、この戦争の始まりから一年を過ぎた今、私たちはその凄惨な画像や情報などに感覚が麻痺し慣れてしまい、その裏にあるもの、その先にあるものに想像を巡らす力が萎えてしまいそうになることです。このウクライナ戦争についてだけでなく、情報化社会と言われる今、一方的に受け取る膨大な情報によって失われていくのは「想像する力」です。私はそれが恐ろしいと感じています。

このような状況にあって、一つの歌を思い出します。ジョン・レノンの代表曲<イマジン>です。きっとみなさんもよくご存知だと思います。<Imagine、天国はないって想像してごらん>と始まるあまりにも有名な曲ですが、この歌が生まれたのは1971年、もう50年以上前になります。この曲の歌詞は、オノ・ヨーコの詩集から、その夫であるジョン・レノンがインスピレーションを得て、二人で共作したものです。ジョン・レノンは20世紀を代表する音楽グループ、ビートルズのメンバーであり、皆さんもその活躍や楽曲をよくご存知でしょう。その妻のオノ・ヨーコは、1960年代からコンセプチュアル・アートの先駆者として作品発表をつづけています。作品制作だけでなく、平和運動家としての側面や、音楽や詩で表現するなど、幅広い活動をしています。最も影響力のある現代アーティストのひとりとして、国際的な賞も受賞しています。

さて、<イマジン>の歌詞の内容を簡単におさらいしておくと、<天国や地獄も国家も宗教もないと、想像してごらん、みんなの頭の上にあるのは青空だけ。その下にただ、今日を生きる人々がいる。人々が所有欲を持たず、みんなと分かち合う世界を想像してごらん>といった内容です。当時の社会背景にはベトナム戦争の泥沼化や混乱があり、反戦・平和を求める内容ですが、それとともに、想像すること、夢見ることの大切さを優しく説いていると感じます。

この歌が生まれてから半世紀以上が経ち、私たちの世界は全ての技術が進化し、高度に情報化しつつあり、複雑化しているといわれます。同時にダイバーシティー、多様な価値観を尊重し合うと、世界中で宣言されています。宣言をしなければならないということは、その実現がとても難しいということでしょう。多様な価値感を尊重し合うと言いながらも、手元に届く膨大な情報にさらされて、惑わされ、煽動や流行に踊らされてしまう。そのために結局わかりやすい単純な二項対立に飲み込まれてしまい、衝突や争いが激化したり、差別や虐げられる存在がうまれたりしている。そんなことが21世紀になった今もさまざまな場面で繰り返されています。

イマジンの歌詞は、<私のことをドリーマー夢想家だというけれど、みんなが一緒に夢見てくれたら、世界は一つになれる>と締め括られます。私は、ここでいう夢想家こそが、芸術を志すものの役目と言えるのではないかと考えます。一方的な情報に流されず、一旦立ち止まって判断保留にし、自分の立ち位置を少し浮き上がらせて、想像力を大きく羽ばたかせる。理想の姿を夢見て、それを社会に伝えることができる。50年以上前にアーティストであり夢想家である二人によって生み出された<イマジン>は、色褪せることなく、時代を超え、地域を超えて、今も影響力を持っています。そんな夢想家つまりアーティストは、いつの時代にも必要な存在なのだと思います。冒頭でコロナとウクライナの話をしましたが、平和や安全という、あって当たり前なことが、こんなにも難しいと感じる今だからこそ、想像し夢をみて、社会に発信することの意味は大きいのです。

コロナ渦を学生時代に体験し、困難な時代といわれる今、社会に一歩踏み出す皆さんには、いつの時代も平等に<頭の上には、青空が広がっている>ことを忘れないで欲しいと思います。そして京都芸大で学びそれぞれが身につけた力、磨いた個性に自信を持って、前に進んでいただきたいと思います。

最後になりましたが、京都市立芸術大学は本年2023年秋に、新キャンパスに移転いたします。皆さんにとっては、慣れ親しんだ教室や思い出深い校舎が移転してしまうことに寂しい気持ちがあると思いますが、ぜひ新校舎での展覧会やコンサート、図書館などを機会があるたびに訪れていただき、開かれた「テラスのような大学」として発展を目指す、京都芸大を応援いたただきたいと願っています。

それぞれの道で様々な立場で活躍する皆さんと、再びお目にかかれることを期待しつつ、私からのはなむけの言葉といたします。本日はおめでとうございます。

(注)< >は、John Lennon氏/Yoko Ono氏の『Imagine』より引用

令和5年3月23日
京都市立芸術大学 学長
赤松 玉女