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令和5年度学部卒業式並びに大学院学位記授与式を開催

2024.03.25

令和6年3月25日、令和5年度美術学部・音楽学部卒業式並びに大学院美術研究科・音楽研究科学位記授与式を本学堀場信吉記念ホールで執り行いました。

美術学部126名、音楽学部63名、美術研究科修士課程58名、音楽研究科修士課程24名、美術研究科博士(後期)課程7名、音楽研究科博士(後期)課程3名の卒業生・修了生が、教職員に温かく見守られ、卒業式並びに学位記授与式に参加しました。

キャンパス移転後初となる今年度の卒業式・学位記授与式は、例年のように趣向を凝らした自作の仮装で出席する学生がおり、卒業証書・学位記授与の際にはホール内に笑いが溢れるなど、本学らしい和やかな式典となりました。

卒業生・修了生の皆さん、誠におめでとうございます。

教職員一同、今後の皆さんのご活躍を心からお祈りしております。

令和5年度卒業式・学位記授与式式辞

本日、ここに集われた美術学部126名、音楽学部63名、そして大学院・美術研究科修士課程58名、博士課程7名、音楽研究科修士課程24名、博士課程3名、総勢281名の皆さんが、卒業ならびに修了されますこと、誠におめでとうございます。京都市立芸術大学を代表いたしまして、心からお祝い申し上げます。また、松井市長はじめご来賓の皆様には、お忙しい中ご臨席いただきましたことに深く感謝申し上げます。

さて、本日学部を卒業される皆さんの多くは2020年の春に入学されました。あの年の春、世界は大きな試練に直面していました。新型コロナウイルス感染症の拡大とその予防のため、人や車の往来が消えた世界中の街の光景。京都府下の大学においても施設への入構が禁止されるなど、厳しい感染予防対策がとられ、入学式を中止することとなりました。みなさんは、先生にも同級生にも直接会うことがないまま、大学生活を始めることを余儀なくされました。例年ならば新入生を迎えて賑やかな春に、ひと気がなく静まりかえったキャンパスは、あまりにも寂しく、新入生はじめ学生たちの気持ちを思うと心が痛みました。
その後もSTAY HOMEの呼びかけのもと、特に大学生が活発に活動することが感染爆発を引き起こすと懸念されたことや、また人を集める演奏会や展覧会など芸術活動全般が、不要不急と言われたこともありました。
このような未曾有の事態での大学生活に疑問を持ったり、さらに、ワクチン接種では、副反応やその効果に対する不安を感じながらも、周囲の人々や高齢者を案じて、悩んだ方も少なからずおられたと思います。義務や禁止でない限り、何事も立ち場や意見が違えば、行動も多様で自由が守られるはずですが、自分の考え以外を排除するような風潮が目立ち、行動制限以外にも見えないプレッシャーを感じるような重苦しい日々が続きました。
昨年ようやく行動制限が解除されたものの、今年の年頭に能登半島での震災があり、みんなで一年の幸せを祈る元旦に、自分の家や街から、家族からも、離れて暮らさざるを得ない人々の姿がありました。被害に遭われた方々には改めてお見舞いを申し上げます。

こうしたパンデミックや自然災害などの予期せぬ困難のほかにも、現代社会においては、日々直面する多くの問題が複雑に絡み合い、これが正解と片付けられない難題ばかりです。
世界に目を向けると、対立や侵略、人権侵害がリアルタイムで起こり、どれも簡単に解決できず、終わらない議論の繰り返しです。人々の悲惨な状況に画像を通して接することは、自分が被害者にも加害者にもなっているような、いたたまれない気持ち、無力感に苛まれます。
悩みのつきないこの時代に生きて、溢れる情報に流されず、良き方向に進むためには、まずは自分自身の価値観や倫理観を持ち、自らの判断力を養うことが大切です。そのためにも、皆さんが本学で培ってこられたような多角的な視点に立って想像する、すなわちイメージする力や、創造力、つまり新しい価値を生み出す力が、ますます求められています。
コロナ禍による行動制限の中で、みなさんはさまざまな場面で何を選択するかに迷い、自分の役割を意識し、社会の中での芸術の在り方について考えるなど、内面に向き合う機会が多くあったと思います。授業での知識やテクニックの習得だけでなく、芸術が、困難を乗り越えようとする人々に寄り添い、問いかけ、生きる力を鼓舞してきたと改めて実感できたのではないでしょうか。そのことは、自身の制作や演奏、研究に邁進する勇気を与えてくれただろうと想像します。

皆さんにとって最終学年にあたる昨年の秋、本学はこの地に移転しました。この移転は、単なるキャンパスの更新というだけでなく、京都にとっても大学にとっても大きな意味を持つものです。それは、京都の華やかな中心部、玄関口であり、また一方で差別を受けた複雑で重い歴史があるという二つの背景を併せ持つこの崇仁地域に根ざして、京都の歴史や文化、また他の機関とつながりながら、芸術を世界に向けて発信していくというミッションです。
新しいキャンパスでは作品展や演奏会、セミナーなどに、以前にもまして多くの人々に訪れていただいています。コロナ禍や引っ越しによって制限があった期間に気持ちをよどませることなく、新しい環境に柔軟に適応して進んでくれた皆さんの活動は、この場所で芸術と社会の関係を築いていく、まさに第一歩となりました。息苦しいこの時代に、それぞれの芸術を懸命に探し続け、生み出し続ける学生の姿は、未来を照らす光と感じます。どうか、これからもそれぞれの道を楽しみながら探求し続けてください。そして、個人の領域にとどまらず、一歩踏みだす姿勢でいてほしいと願います。ポスト・コロナと移転という二つの変化の体験が、これから皆さんの中でどう育てられ、表現されていくのか。私は、皆さんの今後を心から楽しみにしています。

最後になりましたが、学生たちのご家族や関係者の皆様にもお慶び申し上げます。コロナ禍では自宅にこもってオンライン授業を受けている姿や、ひとり下宿をする学生の健康を、さぞご心配されたことと思います。こんにちまで学生たちを信じて支えて下さり、また京都芸大の教育にご理解とご支援を賜りましたことに、心より御礼申し上げます。
そして旅立ちの日を迎えた皆さん、それぞれの道で活躍する皆さんと、再びお目にかかれることを期待しつつ、私からのはなむけの言葉といたします。本日はおめでとうございます。

令和6年3月25日
京都市立芸術大学 学長
赤松 玉女