悲しいことに、世界の各地で、紛争から戦争へと移行する動きが出ている。多くの人々に甚大な被害が発生し、経済や環境にも多大な影響が出ている。それぞれの国民がいわれのない理不尽な暴力に晒され、人が人として生きるために持つべき権利である人権を奪われ、特に多くの子ども達が命を奪われている。悲しみの連鎖が、憎しみの連鎖となり、終わりなき悪循環に陥っているように見える。
さて、このような事態に芸術は何ができるのか?
どの国や地域にもローカルな独自の文化と呼べるものが存在し、時にその違いが争いの原因になることもある。私たち表現者に戦争を直接止める力があるわけではない。しかし、芸術には、人と人の間に入り込み、関係を紡ぐ力がある。それぞれの文化の違いを認め、尊重し合い、時には受け入れ、融合し、時には併存へと導くような動きを後押しすることができる。そうした芸術の力こそが戦争の抑止に有効に作用すると信じている。
私たち芸術家、芸術系大学は、芸術の戦争プロパガンダ的使用や搾取に対して、敏感に感知し、暴力に訴えることに関してはっきりとNOを突きつけ、融和、共存に向けた様々な手法の発明に努めなければならない。
まずは、理不尽な環境に置かれている方々の安全と無事を願うとともに、私たち自身が想像力と創造力を駆使して、状況に真摯に向き合うことを始めよう。
私は、紛争や戦争という暴力に、断固として反対の意志を表明する。
小山田徹(京都市立芸術大学理事長・学長)