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京蒔絵-その歴史と特色について-

―(論文要旨)―


 日本人の漆器離れが進む現代においても日本各地には依然として数多くの漆器産地があり、素材や技法に特色のある漆器がそれぞれの地域で作られ続けている。その中でも特に知名度の高いものに、経済産業大臣に「伝統的工芸品」として指定された23の地域の漆器がある。これらの地域が漆器の産地として成立するまでの流れを追ってみると、漆工技術や技法の伝播の面で各産地の間に様々な関係性が見られた。さらにそれらをまとめることによって、漆工芸が全国へと拡大していった一連の流れを明らかにできると考えられる。しかし現段階ではその関係性を示す根拠が各地に伝わる伝承や伝説に依るところが多いため、1つ1つの産地の歴史や漆器の製作工程・技法の特徴を細かく調査し、その中から得られる具体的な証拠によって裏付けしていく必要がある。その調査の第一段階として、本学とも縁のある京都の漆器に目を向け、調べを進めた。


 「京漆器」は京塗や京蒔絵とも呼ばれ、1976年に伝統的工芸品の指定を受けた日本を代表する漆器の1つである。その起源は古く、桓武天皇による794年の平安遷都まで遡るとされる。その後京都が都として栄えると、漆工の分野でも多くの技術や技法が生まれ、発達をみせた。本論ではそれらの技術・技法の中から平安時代に誕生した日本固有の漆工技法である「蒔絵」に特に注目し、考察を行っている。


 まず第一章では、著者が国内における漆器の現状を知る上で重視した国指定の伝統的工芸品について触れ、その成立に至るまでの時代背景と指定の基準について述べている。次に伝統的工芸品の1つとして指定されている京漆器の起源や技法、またそれらを育んだ京都の風土について述べている。


 続く第二章では、奈良時代に中国から伝わった技法を源流とする蒔絵の歴史を代表的な遺例や文献上の記述をもとに時代を追って示している。特に平安時代から安土・桃山時代にかけては蒔絵の基本三技法である「研出蒔絵」「平蒔絵」「高蒔絵」の出現とその技法的確立や発展を中心に、従来あまり言及されていなかったいくつかの点ついて論じている。江戸時代以降では蒔絵意匠の多様化という現象を軸としつつ、幕末から明治維新といった社会の急激な変化のなかで京蒔絵がどのような展開を見せたのか当時の風潮を踏まえて論じる。また現在の京蒔絵に通じる事例として江戸時代から現在まで続く京漆器の老舗である「象彦」に注目し、その漆器製作の特徴について述べている。


 第三章では第二章で述べた平安時代の蒔絵から象彦の蒔絵までの一連の流れを把握した上で、現在の京蒔絵が抱える問題について考察している。著者が象彦への取材を行う中で明らかになった京蒔絵の持つ特色の弱体化という事実に対し、その原因を探った上で今後の研究の方向性を定めたまとめを行う。

2011年度 市長賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 4回生 上田 祥吾 UEDA Shogo

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