閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

平成31年度京都市立芸術大学入学式を挙行しました。

2019.04.10

 平成31年4月10日,平成31年度京都市立芸術大学入学式を執り行いました。

 美術学部135名,音楽学部65名,美術研究科修士課程62名,音楽研究科修士課程24名,美術研究科博士後期課程6名,音楽研究科博士後期課程2名の総計294名が,門川大作京都市長をはじめ来賓の皆様,保護者の皆様,教職員に温かく見守られ,入学式に参加しました。

 また,開式にあたって,音楽学部在学生が歓迎ファンファーレ「ポール・デュカ作曲 バレエ音楽《ラ・ペリ》より」を披露しました。新入生はそれぞれの思いを胸に抱き,期待に満ちた表情が輝く晴々とした顔で参加されていました。

 新入生の皆さん,御入学おめでとうございます。皆様の大学生活が,実りある人生の1ページとなりますように。教職員一同,心よりお祝い申し上げます。

 

 

2019年度 入学式式辞

 本日ここに集われた美術学部135名,音楽学部65名の学部生のみなさん,大学院美術研究科62名,音楽研究科24名の修士課程のみなさん,そして美術研究科6名,音楽研究科2名の博士課程のみなさん,総勢294名のみなさんの入学ならびに進学,誠におめでとうございます。京都市立芸術大学はみなさんを心から歓迎いたします。足元の悪い中,ご臨席いただいたご家族のみなさまにも,お祝い申し上げます。

 また,門川大作京都市長をはじめ,経営審議会,教育研究審議会,美術教育後援会,音楽教育後援会,美術学部同窓会,音楽学部同窓会のご来賓のみなさまにも,ご多用のところご臨席たまわりましたことに,教職員を代表して深く感謝申し上げます。

 みなさんが,入学された京都市立芸術大学は,開学以来139年という長い歴史を持ち,芸術界・産業界に優れた人材を送り込み,わが国のみならず世界の芸術文化に貢献してまいりました。毎年,多くの学生や卒業生たちから,国内外で活躍している報告がなされています。皆さんも今日から,自分もそういった先輩たちに続き,芸術の道に進むのだという興奮を,少なからず感じておられることでしょう。私も,40年程前に今のみなさんのような気持ちでこの大学に入学した内の一人です。

 そして今年度入学するみなさんは,本学の平成最後の新入生であり,令和の最初の一回生になります。文字通り新しい時代を切り開き,担ってくれる世代です。私たちは,皆さんのこれから始まる芸術への道を,しっかりと応援していきます。

 今年も北は北海道から,南は鹿児島県から新入生をお迎えすることになりました。中には千年の都・京都に憧れて,本学を志した方もいらっしゃるでしょう。私もそんな一人でした。

 京都は世界的にみてもユニークな都市であり,ますます観光客が増えています。その美しさや面白さ,奥の深さ,新鮮さが,SNS を通して世界中に広がっているところです。世界中から憧れられる京都で学ぶということは,いわば特権的な環境を手にしたということだと言えます。ぜひ在学中に,あちこちに足を運び,古い京都・新しい京都を体験してほしいと思います。若いみなさんの感性は,出かけるたびに,街や自然の豊かな色や音,奥深さを発見することでしょう。そうして吸収したものを,また新たな芸術に展開させてくれるように,我々が導いていきます。それが,公立大学として建学以来の少人数教育を貫くことを理解し,支え続けてくださっている,京都市と京都市民に還元できる大きな果実であると考えています。

 さて,皆さんは本学のホームページをご覧になったことがあると思います。そして,そこに貼られた大学移転のページをご覧になったこともあるでしょう。現在の沓掛校舎は緑豊かな,制作・研究に打ち込める環境ではありますが,建物の耐震性やバリアフリーの問題などもあり,これらを解消するために,そして未来に向けて大学が一層飛躍していくために,JR 京都駅の東に位置する崇仁地域への移転を,京都市に決定していただきました。現在は,2023 年度に予定されるキャンパス移転を目指して,大学と京都市,設計者が対話を重ねながら,作業を進めているところです。私は,この沓掛校舎への移転を控えた頃,美術学部のあった今熊野校舎で入学しました。移転に向けてたいへんな時期,先生方が様々な課題に取り組んでおられました。現在のそわそわワクワクとした学内の雰囲気は,あの頃に似ているかもしれません。

 今回の崇仁への移転については,多くの教職員が協力して,移転の基本計画として,まず京都芸大が果たすべき3つの役割をまとめ,ホームページでも公開されています。芸大が果たすべき3つの役割,まず一つ目は,「芸術であること」 つまり,伝統を引き継ぎ,かつそれを問い直しながら,常に新しい価値観を社会に提示していくことです。二つ目は,「大学であること」つまり自由で独創的な研究,本校の特色である横断的教育を通して人と人,人と自然の新しい繋がり方を提示し,実践していくこと。そして三つ目が,「地域にあること」つまり多様な文化的背景を持った人々と共存し,活性化し合いながら,新しい歴史と創造的な地域社会を作っていくことです。この三つの役割が宣言され,そしてその全体のコンセプトとして出されたのが,「テラス」というキーワードです。

 この4月1日に学長に就任した私は,就任に当たって,移転計画としてまとめられた,この三つの大学の役割と,「テラス」というキーワードを改めて,私なりに考えてみました。そしてこのことは「移転後」に始まる芸大の役割として現在と切り離されたものでは決してなく,まさに今ここにある私たちの「京都芸大のあるべき形」として捉えられるのだと考えました。だからこそ今日入学される皆さんに,このことについてお話ししておきたいと思います。

 そもそも京都市立芸術大学は,美術も音楽も,厳しい入試を課して少数精鋭を育てる,言うなれば閉じた機関であります。しかし,教員も学生も同じような粒ぞろいでは,刺激が足りません。ここに,異質なもの,あるいは多様なものの見方やありようを取り入れることによって,新たな化学反応を起こしたい。京都が,一方では軸をしっかりと保って伝統を守ることもしつつ,他方では分け隔てなく人材を育て,外に開いて様々な文化を受け入れ,独自の文化を作り上げきたように,です。

 「テラス」は建物の一部でありながら,外に向かって広がる空間です。ここではそよ風を感じながら,日向ぼっこやおしゃべりができ,雨や風の日には,建物の中に入って,外の湿度や風の音をじっくり感じ,観察することができます。そこは優しい空間であり,外に一番近い内側であり,中に一番近い外側でもあります。建物につながっていて,閉じたり開いたりが自在にできる場所としてあります。

 「テラスとしての大学」,これは建築や空間としてのテラスというよりも,大学のありようとしてのことをいっています。外に向かって開かれた場所,壁や垣根がなくて多様な人々が往来できる場所。そしてその多様な往来を活発にするのが,その中心にある「芸術」です。

 京都芸大は近年,多くの催しを,大学の内外で行うようになりました。大学のなかに市民の方々が足を運ぶ機会がますます増え,大学の外でも,展覧会やコンサート,さらには企業,研究機関との連携事業を活発に展開しています。沓掛や西京区での音楽活動や,移転先である崇仁でのプレ事業,また学内の各部署の協力や連携も広がっています。例えば音楽と美術の教員の共同プロジェクト,伝統音楽研究センターと学生との繋がり,学科教員による音楽・美術の共通授業の模索や,芸術資源研究センターのプロジェクトや研究活動などが挙げられますが,これらは学部や専攻,学科と実技の垣根を超えてそれぞれが協力することで,結果として学内外をつなぐ交流の場,つまりテラスを作る行為そのものになっているとも言えます。

 現在可能性を探っている,他大学との連携教育は,まさにインクルーシブな教育実験であるといえます。みなさんのような実技系大学の学生が,他分野において専門的で高度な研究をする他大学の学生と出会う時,お互いにどんな学びができるのか,時には向こうのテラスを借りて,そしていずれはこちらのテラスにお招きして,お互いを刺激するようになればいいと願います。ここで私が言うインクルーシブな教育とは,そこに集う全ての学生のための教育です。専門や知識,経験が異なるレベルの学生が一緒に学ぶうえでは,個別の能力に丁寧に配慮しながら,みんなで同じ時間と空間を共有して学びあうことが重要です。その両方を実現するためには,環境の整備,参加者への配慮,対応に手間ひまもかかるでしょう。しかしこうした機会は,学生たちにとって新しい刺激に満ちた学びの場になり,他の専門性を持つ人に芸術をより深く知って,活かしてもらうきっかけともなり,また芸術家を育てる大学の有り様にも影響を与えることになります。

 交わる相手は学生だけではありません,テラスとしての大学は,性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無など社会の多様性に関わります。あらゆる人々に開かれ,異なる文化間の相互交流や創造的な社会実験が可能となります。繰り返しますが,そのような活発な交差・交流を可能にするエンジンにも当たるのが私たちにとっては「芸術」です 。そしてこうしたテラスとしての大学を機能させ,風通しをよくし,学びを広げ,さらに深めるためには,教員,職員,学生,みながそれぞれの立場で,自分の場所や考え方を少しずつオープンにしていくことが大切になってくるでしょう。そして一番大切なことは,テラスで受け取った刺激や情報をそれぞれが持ち帰り,しっかりと専門的で高度な独自の芸術作品や研究に昇華させていくこと,これが大学としての最大の使命としてあるのです。

 小さい規模の大学でありながら,真に多様な価値観を認め合う寛容な大学においてなされる芸術,研究,教育こそが,京都芸大が社会に還元できる最も大きな公共の利益であると考えます。そのためにも,学生のみなさんとともに,大学をさらに充実させていくことをお約束したいと思います。

 以上私が考える「テラスとしての大学」のお話しをさせていただきました。

 皆さんは今日から学部で,または大学院で,本学が誇る教授陣に学び,また先輩や仲間たちの仕事に刺激を受けながら,アーティストとしての,また研究者としての自らの世界を作り上げることを目指していきます。テラスのような自由に開かれた空気の中で,学生時代という得難い時間の中で,どうか京都市立芸術大学のよさを存分に生かして,皆さんにとってかけがえのない大学生活が,充実したものになりますよう,心からお祈りいたします。

 最後になりましたが,入学式にご列席いただいたご家族の皆様,学生たちは夢の実現のための一歩を今日踏み出しました。彼らの成長を今後も,見守ってくださるようお願い申し上げます。全てを信じて見守ってくれるご家族の存在は,何よりもこれからの彼らの支えになります。本日は本当におめでとうございます。

これをもって,お祝いの言葉とさせていただきます。

平成31年4月10日

京都市立芸術大学学長

赤松玉女