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京芸の授業風景を紹介します!第四弾は日本画専攻の模写授業の様子です

2013.07.17

 京芸の授業風景を紹介する第四弾は,日本画専攻2回生の模写授業です。

 この授業では,本学芸術資料館に収蔵されている「お手本」の実物を使用し,あげ写しと言われる方法で模写をします。

 元来,写すという行為が絵を描き学ぶことの基本であることから,130余年の歴史を持つ本学には,土佐派の粉本(ふんぽん/下絵・模本・写生類の総称)や明治期の幸野楳嶺,望月玉泉,竹内栖鳳をはじめ多くの先人達の絵手本などが残されています。以後,入江波光,林司馬らがその伝統を継承しつつ,独自の日本画の創造に生かしてきました。2010年に開催された本学創立130周年記念展「京都日本画の誕生」に,入江波光・村上華岳・横山大観の模写作品が並んでいたことをご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。その流れは,石本正がすすめたヨーロッパ中世絵画の研究に伴うイタリアでの模写事業,近年の中国の敦煌などをはじめとするアジア諸国との研究交流事業などにも受け継がれています。

 現在も,模写の課題は写生と共に基礎課題にとり入れられており,学生が日本の絵画を知る入口になっています。模写制作を基盤として日本画を学びたい学生は,3回生から,模写のクラスを選択することができます。

【お手本配布】

 

 さて,模写に関する講義の後いよいよ資料館蔵の肉筆のお手本を選びます。このお手本は,主に江戸中期の円山応挙写生図鑑を昭和中頃に模写されたもので,作られた目的を鑑みると,学生がこうしたお手本を直に実物を模写できる得がたい機会と言えます。扱いに緊張しつつお手本を間近に見ると,その生々しい筆使いに,作者の性格までもが伝わってくるようです。

 

【骨描き】

 

 繊細な骨描き(こつがき)では,新聞紙で作った棒を芯にして本紙を巻き,上げ下げしながら写していきます。

 やり直しはできない上に,気持が直接出てしまう作業です。

 

【彩色(さいしき)】

 

 骨描きのあと,胡粉(ごふん/貝がらから作る白色顔料)や初めて使う棒絵具(顔料と呼ばれる色のもとになるものを蜜蝋などで固めたもの),天然緑青(りょくしょう/孔雀石から作る緑色の岩絵具)などの絵具を使用して彩色します。これまでの自分の線や色の塗り方がいったん初期化し,様々な情報が新鮮に感じられるときでしょう。

 学生達が制作している背景に見えるのは,前期の課題の一つである「地面を描く」の写生や本画です。写生と模写は,対極にあるようですが,どちらも対象に向き合い描く行為です。こうした課題を繰り返し,描くための基盤をしっかりと作っていくことで,それぞれが描くべき世界に踏み込んでいきます。

 「いたどり」の図は円山応挙写生図鑑の模写,「ひたき」の図は台湾故宮博物院に収蔵されている宋元画の模写です。

 応挙は写生を重視した画家として知られていますが,様々な時代の画家はそれぞれ写生とどのような関わりにあったのでしょうか?応挙からつながる円山四条派,そしてその先には,どのような画家が育ち,現代につながっているのでしょうか?

 また,中国宋元画と日本画はどのような関係にあるのでしょうか?そこで描かれる対象やその組み合わせには意味があり,背景にはその国の風土,生活,思想や宗教感も隠れていそうです。風土を考えるとき,画材や素材との関係も見えてきますし,地域や時代と空間や奥行きの関係にも何かありそうです。

 

【完成作品】

<完成作品の一部。目をひく肖像画は,重要文化財の一休和尚像(室町時代,東京国立博物館蔵)の模写。>

 一週間をかけて,こつこつ描いた完成作品。2回生にとって,限りなく広がる絵の世界に思いを馳せ,「自分がその中でどこを見てどこに立つのか?」などと思案することは少し先のことでしょう。しかし,画家にとって知るということは描くことであり,色々な地域や時代のものを見て描くことで,作品の魅力,作家の息遣い,技法の手順や地域の風土,時代の空気などを感じることができるのです。

 とはいえ,優れた完成作品からは,そのような一切とはなぜか無縁にも感じる美しさや心地良さがたちあがっているように感じました。

 

 京都芸大で継承されてきた模写を基盤とした日本画教育の伝統。それは,関西にある他の芸術大学にも広く普及し,様々な形で教育研究に生かされていますし,近年その重要性はますます高まっています。

 

(文:日本画専攻 小池一範准教授)