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山根明季子さん 4/4

4.作曲家として

曲作り

interviewer_music作曲という行為に至るまではどのような過程ですか。

山根 今だといついつにコンサートがあるのでお願いしますっていう依頼があって、それまでにアイデアを温めながらいろんなものを聴いたり見たりしつつ、締め切りが近くなると書きます。

interviewer_musicデッサンであったり、ネタ帳みたいなものに普段からアイデアを蓄えておられるんですか。

山根 手帳とかにこういうのでいこうっていうイメージを結構書いたりしてますね。清書は、ぶっつけ清書というか下書きなしでフィナーレに向かうことが多いです。ただ私の場合、全破棄することがけっこう多くて、書いては消してという感じです。これは非効率的で改善すべき点です。

interviewer_music曲の題名は、最初につけるか最後につけるかどちらですか。

山根 両方あって、この曲はこの名前でいこうって最初から気に入っているときもあるし、この曲はこういう曲なんだけど、もっとしっくりくるタイトルがあるはずなんだけど、と最後まで引き伸ばす場合もあります。

 「Dots Collection」の場合は、最初「Dot」でした。結局出す段階になって、「Dots collection」の方が語呂がいいなと思って変更しました。当初、英語タイトルだけだったんですけど、日本音楽コンクールの要綱に邦題って書いてあったので、「水玉コレクションにしよう。どうせ通らないだろう。」ぐらいに思って付けました。(笑)

interviewer_music「水玉コレクション」っていう題名がかわいくて意味深な感じで、惹きつけられます。邦題が先だと思っていました。

山根 けっこうインパクトのある言葉なので、いろんな方にも覚えていただいています。この間、国立音大に久石譲さんがレクチャーに来られた時にご挨拶したら「あっ水玉の人」って知っててくれてました。水玉は便利だなと思います。

interviewer_music山根さんの音楽は、音楽を分類していなくて、ポップスもクラシックも、現代から近代、さらには古典までも、全部を音として捉えて、音で遊んでおられる感じがするんですけど、いろんなジャンルの音楽への距離っていうのはどんな感じですか。

山根 全部等距離ですね。現代音楽ってこういうものだって枠を決めてしまって、その中でやるのってすごく窮屈じゃないですか。私もあまり知らなかった頃、こういうものじゃないとだめなのかなっていう葛藤する時期もあったんですけど、やっぱり色んなものに触れると、そういう価値観の軸で音楽を考えるべきではなくて、とにかくやりたいことをとことん追求してどれくらい面白くできるかっていうことが大事で、それができるフィールドが現代音楽だと思っています。ですので、色んな音楽を好んで聴きつつも現代音楽というフィールドでやらせてはいただいています。

interviewer_music普段、生活の中でどんな音楽を流されているんですか。

山根 曲を書いてるときも流しています。今度ニューヨークでやる曲で、正倉院のハープ「箜篌」(くご)っていう昔の楽器があるんですけど、それと笙の二重奏を書いているときは、パンクロックを聞きながら書いていました。聴くことと書くことがまったくセパレートしていて、電車の中や喫茶店の中とかでも書くこともあります。

interviewer_musicマイブームはありますか。

山根 大変なんだけど、やっぱり子どもと過ごす時間っていうのは、すごく気分転換になっています。あと作曲していると全然体を動かさないので、パワーヨガをすると気持ちがいいです。ジャズダンスを小学校の時にやって、高校の時はヒップホップのダンスクラブだったんです。体を動かすのはもともと好きで、今はコンテンポラリーダンスを見るのがすごく好きです。身体性っていうのは思考としてはまだ開拓していないんですけど、何かあると思いますね。

interviewer_music作曲家としての喜びや楽しみ、逆に苦しみはどうですか。

山根 まず、自分が書いた音が現実世界に立ち現れた瞬間はもう幸せなことこの上ないです。「あぁぁ」っていう感じです。隣で演奏家がちょっとさらっているだけでもとっても嬉しいです。それはもうやめられない。そのためにやっているようなものですね。それで、さらに聴いてくださる方から何らかの共感をもらうと、やっと世界に繋がったと感じます。

interviewer_music下書きなしに曲を書かれて、それが実際に弾かれたときにイメージは一緒ですか。

山根 それはいろいろあるんですけどね。それは私のソルフェージュ能力不足というのもあって、私の勉強不足だし、リハーサルのときにそれを一緒にやりながら変えていくこともありますし、あとはプレーヤーの音楽性が私の想像していたものと違ったりとか、そういうことも繊細な表現をしようと思うと調整が必要で、そこは、プレーヤーの持ち味をどう生かすかを考えて調整するのですが、それがすごく楽しいですね。一人でやる芸術じゃないからこそ、毎日、学ぶこと、発見があって、すべてが自分の思い通りにいかなくても、だからこそどうすればそうなるか、勉強の毎日です。

interviewer_music苦しいことや辛いことはありますか。

山根 作曲に関しては、もちろん実際どう書いていいか分からないとか、時間がないとかありますね。でも全然喜びの方が大きいですね。自分で自分の時間をコントロールしないと駄目になるよっていう、それだけです。

interviewer_music生みの苦しみっていうのはありますか。

山根 もちろん、ありますね。若いときはそれは強かったですね。だけど、大丈夫です。経験とか勉強とか、いろいろチャレンジして見えてくることが多いので楽しいですよ。常に自分にとっては、実験ですね。どう科学反応が起こるか。もちろんそれで聞いてくれた方に冷たく当たられると辛いです。「あれ、私こういうことが言いたいんじゃないんだけどな」っていうことが批評文で書かれていたりとか。それでも、聴いてくれたんだという一反応としてありがたいんです。

interviewer_music私は生みの苦しみから抜けられないんです。音になったときはすごい幸せなんですけど、まだ喜びが勝らないですね。

山根 そのハングリー精神は、自分を成長させてくれると思いますよ。もっとこうなるべきだって理想をどんどんやっていける限り、いつか道が開けますよ。何をやりたいかっていうのが一番大事。まったく無視するのは良くないんですけど周りの評価の平均というか、全員がイエスという音楽が果たして面白いかっていうとそうではないと思うんです。評価が全てと思っちゃうと自分の作曲が楽しくなくなると思うんですよ。いかに面白いものを聴くか、創る
かという分野においては、周りの評価を気にしてそれに合わせることはやってもしょうがないですね。

interviewer_music作曲したり音楽発表しているときがやっぱり生きてるっていう実感があるときですか。

山根 そうしないと周りと繋がっている実感がありません。それで初めて生きていられますね。作品を通じて表に出さないと、自分と世界が切り離されている感覚というか。そうやって作品を聴いてもらって反応があったり、音に出して実際に自分が聴けることというのが生きている実感で、それが幸せです。

今後やりたいこと

山根 究極的には自分がこれで死んでもいいって思えるような全てに満足した曲を書いて聴きたいっていうのはあるんですけど、常にもっとこうしたいというのがあるから続けているんだと思います。具体的にやりたいこととしては、オペラを今まで書いたことがなく、色んな複合芸術として表現しうるものなので、一度やってみたいですね。

京芸生と未来の京芸生へのメッセージ

山根 自分のやりたい道へ向かって、思う存分やりたいことを広い視野をもってやってください。

 京都芸大はやりたいことが思う存分できる学校で、やったらやっただけ反応が返ってきます。何でもチャレンジして色んな経験をすることが大切です。皆さん、自分の中に“表現したいこと”が眠っているというか、あると思うんですよ。そういう自分が一番表現したい、楽しいと思えるような居場所を色んなものにぶつかって、色んな経験を自分のできる範囲で重ねて見つけていって欲しいですね。

インタビュー後記

インタビュアー:音楽学部 作曲専攻 4回生 藤原杏子

(取材日:2012年2月9日)

 以前、作品展でお見かけした時の雰囲気、写真やプログラムノートの文章から受ける印象とはうって変わり、山根さんはとてもほんわかとした可愛らしい方でした。その上、物事に対する深い見解と強い芯を持っておられ、お言葉の一つ一つから強さを感じました。

 山根さんのインタビューの中で、特に印象に残ったのは「人からの指摘を前向きに受け止め、個性を自覚する」という言葉です。芸術を学ぶ人は、常に新しいものを創り出したいという思いが強く、自分の作品の癖や特徴を指摘されると、欠点を当てられたような気分になり落ち込むこともあると思います。しかし、その指摘された部分を「それこそが自分の個性だ」と受け止め、強みにしてしまうというのです。この発想をお聞きした時は、まさに目から鱗でした。

 ポップな毒性を持つ独特な音楽の背景にある、山根さんの人間性を垣間見られ、今までよりいっそう尊敬の感情が高まりました。貴重な体験をさせて頂けたことに心から感謝しています。

Profile:山根明季子【やまね・あきこ】作曲家

京都市立芸術大学作曲専攻卒業、大学院音楽研究科作曲・指揮専攻修了。
日本音楽コンクール第1位、芥川作曲賞など受賞。作品は国内外で上演されている。
現在は東京を中心にフリーランスに活動。代表作《水玉コレクション》等。