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【特別研究】被災地の方とともに。生きるための手遊び(工芸)を探す~人は手を動かさずにはいられない~

2011.07.25

 皆さん,不安や心配事で何かをせずにはいられない衝動にかられた経験や他の方と一緒に作業をすることで自然とその人たちと仲が深まった経験はないでしょうか。
 手を動かすことには,それ自体に,気持ちを落ちつけたり,ともに同じ作業を行うことで人と人を繋ぐなどの効果があるように思います。
 今回は,京都市立芸術大学美術学部の,日下部准教授を代表として,長谷川教授小山田准教授安井准教授による,そういった手仕事(以下「手遊び(てすさび)という。」)を行うことによる心の充足等の効果から,工芸の新たなあり様の確立を目指す研究(※)をご紹介します。
 また,この研究は,「被災地の方が,今の生活の中で本当に必要としている物やことは何なのか。」を教員と学生が真剣に考え,実践するものでもあります。

 被災地では,仮設住宅への入居に伴い,これまでのコミュニティが分断されてしまったり,個人が孤立化し,大きなストレスを抱え込んでしまうなどの状況が発生することがあります。
 そこで,この研究では,教員と学生が,今年の9月に宮城県女川町を訪れ,仮設住宅に仮設カフェを設置し,そこにお住まいのお年寄り等がお茶を飲み,お話をしながら手遊びをしていただく場を提供します。
 仮設カフェで,お茶を飲み,お話しながら手遊びをしていただくことで,単にお茶を飲むよりも自然と心が落ち着いたり,手遊びをしている方同士の仲が深まり心配事などを話し合うことで個人がストレスを抱え込まないなどの効果をねらいます。
 また,お年寄りが何かを作っていれば,子どもたちは,「何してるの?」と興味を持ちます。お年寄りが子どもたちに作り方を教えることで,世代をつなぎ,技をつなぎ,物を作る精神をつないでいくことができます。

 京都では,伝統工芸の世界で,技術者の高齢化や後継者不足が課題となっており,地域では核家族化等によるコミュニティの希薄化が課題となっています。
 この研究では,仮設カフェで,お年寄りが子どもたちに技術を伝えたり,手遊びされる方同士が交流される姿などをフィールドワークさせていただき,その成果を京都に持ち帰り,これらの京都の課題の対策に還元したいと考えています。

 この7月に教員が,女川町に事前の打合せに行ってきました。
 そこで,仮設住宅にお住まいの方から,「暑くなってきたのでドアを開けたいが,中は荷物がいっぱいで開けるのが恥ずかしい。暖簾がほしい。」という声がありました。
 その声を受け,仮設住宅の取りまとめをされている方に相談したところ,「仮設住宅を平等に運営していくためには支援物資は全ての世帯にいき渡る数が必要である。また,白の布を玄関にかけるのは低抗があるので,暖簾はできれば染めてほしい。」とのことでした。
 京都に帰り,京都の染色材料を扱う老舗「田中直染料店」さんに相談したところ,「被災者のために何かしたいと思っていたが何をしてよいかわからない状況だった。是非協力する。」と快く染める前の暖簾を60枚も無償でご提供いただきました。
 被災地で必要なものは日々変わっていきます。早速,教員と学生が,いただいた暖簾一枚一枚に想いをこめて染め,仮設住宅にお住まいの方への手紙とともに女川へお送りしました。

 9月に何をするかは,今後,女川の方と相談し決めていきます。
 今回お送りした暖簾にお名前や思い出を染め抜くなど,仮設カフェで女川の方と時間と空間,そして技と精神を共有したいと考えています。

※ 本研究は,本学独自の「特別研究助成」制度で採択された研究です。
 「特別研究助成」制度とは,教員の自発的な特別研究を積極的に推進し,研究教育水準の向上を図るため,学長の定めるテーマに基づく研究内容を教員から募集し,学長を委員長とする委員会において提出された研究内容を審査し,採択された研究に対して,研究費を助成する制度です。