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京繍 ー 基本技法を中心として ー

―(論文要旨)―


 「京繍」は1976年に通商産業省(現在の経済産業省)に指定された伝統的工芸品である。1987年には「京繍」が商標登録されている。それはつぎのように指定された条件に合致したものが「京繍」であるとされている。技術・技法に関しては、1「 染糸を使用する場合においては、糸染めをした後、糸巻きをすること。」、2「より糸は、「こまより」又は「手より」によること。」、3「「繍」は、「手繍針」を用いる「繍切り」、「まつい繍」、「駒使い繍」、「刺し繍」、「渡り繍」、「霧押え繍」、「割り繍」、「菅繍」、「組紐繍」、「相良繍」、「割付文様繍」、「芥子繍」、「肉入れ繍」、「竹屋町繍」又は「鎖繍」によること。」である。原材料に関しては、1「「繍」に使用する糸は、絹糸、漆糸、金糸、銀糸、金平箔糸又は銀平箔糸とすること。」2「「繍下地」は、絹織物又は麻織物とすること。」である。このように、決められた条件下で制作されたものが、「京繍」の伝統的工芸品として認められることとなっている。 しかし、日本の刺繍はここ40数年前に生じたこのような「京繍」だけでは収まらない長い歴史を有している。日本最古の現存する刺繍作品であるとされる飛鳥時代の「天寿国繍帳」をはじめ、各時代で様々な優れた刺繍作品が制作されてきた。そのような長い年月の果てに「京繍」という現代の伝統的工芸品が存在していることを本論では論じたい。


 まず、第一章では、「京繍の発祥について‐日本における刺繍の歴史からー飛鳥時代から明治時代まで」とし、日本の刺繍の歴史を概略的に触れる。飛鳥時代の「天寿国繍帳」や鎌倉時代の「阿弥陀三尊来迎図」、江戸時代の「興福院掛袱紗」などについて触れ、明治時代の産業として刺繍が成り立つまでを論じる。


  第二章では、「京繍の基本技法」とし「京繍」の技法がどのようなものであるか、基本的な技法を紹介し、刺繍を始めるための道具や準備、またその制作方法について論じる。「京繍」をはじめとする日本の刺繍は、刺繍を始める前に必要な伝統的な独自の道具を揃える必要があり、針や糸、刺繍台、はさみ、目打ち、駒など伝統的に用いられている道具について説明をし、その準備ついても述べる。とくに糸の準備については、刺繍する用途によって糸の撚り方を変えるため、糸をどのように撚るかは重要な点である。また「京繍」の基本技法の紹介については、「京繍」の伝統工芸士による指導のもと、多くの発展・応用技法の元となっている次の八つの技法を採用することにしている。それは、「まつい繍」・「霧押え繍」・「繍切り」・「割り繍」・「刺し繍」・「相良繍」・「駒詰繍」・「菅繍」である。一つ一つの技法について説明するとともに、それが施された実際の刺繍作品がどのようなものか示している。


 第三章では、「京繍の可能性について」論じる。現在の「京繍」は、伝統的工芸品として和装や和装小物を中心に施され、きものを着る人々を中心に今なお用いられることが多い。しかし、染織品の加飾技法である刺繍の一つである「京繍」も日本におけるきもの文化・染織産業とも進んできた歴史があるため、きものを着ることが少なくなった現代では衰退していっているといっても過言ではない。昭和10年に約6200名程度いたとされる「京繍」の従事者数も、平成17年には300名程度と減少傾向であることは否定できない。このまま衰退を迎えるだけの状態を維持するのではなく、現代における刺繍業の在り方について考察し、伝統工芸でもある「京刺繍」をどのように次の世代に繋いでいくのかということを実際の現場から感じることや、業界や業態の問題点・課題を見出して論じたい。

2009年度 市長賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 4回生 長艸 真吾 NAGAKUSA Shingo

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