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日本におけるアンフォルメルの受容 ーフォートリエ,デュビュッフェ,ヴォルスに注目してー

 本研究の目標は、画家個人に焦点をあてた影響関係の考察によって、日本におけるアンフォルメルの受容と当時の時代背景とを再考することにある。調査対象は絵画作品に絞り、特にアンフォルメルの代表的3人といわれるジャン・フォートリエ(Jean Fautrier, 1898-1964年)、ジャン・デュビュッフェ(Jean Dubuffet, 1901-1985年)、ヴォルス(Wols, 1913-1951年)に注目して、その受容の様相を考察した。
 アンフォルメルとは、フランスの批評家ミシェル・タピエ(Michel Tapié, 1909-1987年)が提唱した概念であり、日本には1956年「世界・今日の美術展」の開催とともに伝わった。そのとき出品された作品は、人間の解体された姿、物質感のある画面、勢いづいた流動的な線が特徴的であった。翌年にはタピエが来日し、日本の作家を次々にアンフォルメルの作家として評価した。一連の作品群とタピエの活動が当時の作家を刺激し、1950年代後半から1960年代には様々な分野でアンフォルメルの影響が現れた。日本の美術批評家たちは、アンフォルメルを「不定形」「物質」「行為」といった言葉で解釈し、影響を受けた作品の多くを西洋の模倣として低く評価した。
近年の研究では、アンフォルメルの評価が早急に下されたために、同時代の全世界的に興った表現主義的な絵画運動について理解を深められなかったという見解が出されている。特に受容に関しては、個人単位で影響関係を検証する試みがなされている。本研究は個人に着目する受容調査に倣い、当時の様相を日本の固有の背景をもとに実証的に検討した。
 本論文は三つの章で構成される。第一章ではアンフォルメルの研究史を振り返る。特に具体美術協会の近年の研究を取り上げて、受容を検討するために、その作品や活動の最上の
達成について考察する必要があることを明らかにした。第二章では、日本におけるフォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスの特に1950年代に日本で展示された作品に注目し、その達成を制作意図から検証した。フォートリエは油彩画の伝統からの脱却のために、デュビュッフェは社会にある格差への反抗のために、ヴォルスは対象を捉える視点の問題から発想を得たためにその制作はおこなわれた。それぞれ関心は異なっていたが、その達成は絵画における主体と客体の転換であり、共通したものであった。第三章では、当時の日本作家を受容の大きさの程度によって分類することを試み、特に難波田龍起(1905-1997年)、小野忠弘(1913-2001年)、麻生三郎(1913-2000年)を取り上げた。難波田は一時的に技法に影響を受けた事例として、小野は長期にわたって制作動機に関わる影響を受けた事例として示した。麻生は今までその受容はないとされてきたが、周辺の画家の交流から受容の可能性を考察した。
 結びとして、受容とは影響を与える側の一方向的なものではなく、影響を受ける側の関心や認識に結びついておこなわれる両方向的なものであることを示した。また、それらの関心や認識が、日本の固有の環境や伝統から生じたことを考えると、日本においてアンフォルメルが受け入れられた理由には、その素地がすでに備わっていた可能性があることを検討した。
 以上、本論文で検証してきたのは、1950年代の表現主義的な絵画運動、特にアンフォルメルの画家の一人ひとりに焦点を当てた絵画活動の様相の一側面である。それらは決して、固有の環境や伝統から切り離されるものではなく、また、前後の時代から切り離されるものでもなかったといえる。

2017年度 市長賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 学部4回生 佐々木 愛 SASAKI Mana

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