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妙因寺ドルジェチャン殿の天井画における無量寿九尊マンダラ現状模写研究

研究の背景と目的

蘭州永登県は黄河の上流の南岸に位置し、古来シルクロードの拠点の一つとして多くの民族が往来した都市である。妙因寺は、中国甘粛省蘭州市永登県にあるチベット仏教寺院であり、現在も当県連城地区における著名な寺院である。本研究は、チベット仏教美術の無量寿マンダラの研究と保存の一助となることを目的とし、妙因寺ドルジェチャン殿の天井画の中にある無量寿九尊マンダラの調査と復元模写を行ったものである。

研究対象

妙因寺は、もとは大通城金剛持寺と称したが、明時代前期の宣徳二年(1427)三月二十二日に妙因寺と改められた。大経堂以外の建物は七堂伽藍の形式を保っている。ドルジェチャン殿は、妙因寺の主殿であり、元は金剛殿と呼ばれていた。四世土司である魯鑑が明時代の1471年に夫人の李氏とともに発願し建てられたことが知られている。殿内の天井画は明時代の制作を留めている。ドルジェチャン殿の回廊の天井画は全132 面あり、藻井(天井の中央)にある天井画は60 面である。また、作者及び正確な制作年代は知られず不明である。

今回の模写研究は、ドルジェチャン殿の天井画の中にある無量寿九尊マンダラを対象にした。無量寿(阿弥陀)は大乗仏教における諸仏のなかでもっとも代表的な仏の一つである。本論文で扱う無量寿九尊マンダラは明時代の制作と考えられ、この時代のチベット仏教図像の東方への伝播を考える上で重要な作品であると考えられる。

研究方法

本研究では、妙因寺ドルジェチャン殿の無量寿九尊マンダラについて現地調査を実施し、保存状態、基底材、彩色材料、彩色技法の考察を行った。また、その結果に基づく現状模写制作を行った。

結果および考察

本図画面は、縦横64cm の板に描かれている。天井画には人為的な破壊はないが、近代以降は修復されたことがないので、埃、煤、剥落などの自然劣化の問題が深刻であった。文化財に対する保護の意識が行き届いてないことがわかった。顔料の剥落が画面全体に見られ、比較的汚れの少ない木枠に近い部分と汚れている中央に近い部分では色の鮮明度が違う。

天井画には全部で140 面のマンダラがあり、大きさ、図像の基本構成はほぼ同じである。基底材の板上には、白色の下地が全面に塗布されていた。彩色材料は、目視による観察と同地域、同時代の壁画の分析研究を参考にすると、白群、藍、石黄、朱、鉛丹、アタカマイト、鉛白あるいは白土と赤の染料が使われている可能性が考えられる。細部の描写には、重ね塗り、暈しなどの技法がみられた。

今後、本図及び同地域や同時代の作例を調査し、本研究の成果と合わせて妙因寺ドルジェチャン殿のマンダラの復元を目指したい。

2017年度 市長賞 大学院 美術研究科 保存修復専攻 修士2回生 扎西 才譲 ZHAXI Cairang

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