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東京国立博物館蔵「普賢菩薩像」の図像と表現技法研究

研究対象作品について

国宝 東京国立博物館蔵「普賢菩薩像」は優美な彩色と繊細な截金の技術の高さから、平安仏画の造形美が爛熟を迎えた院政期12 世紀の傑作であり、単なる装飾・技法的な美しさにとどまらず宗教画としての気品をも備え、日本の仏画を代表する作品として知られている。

研究目的と方法

美麗を極めた本図であるが、経年劣化による彩色の変色や剝落・欠失、過去の修理による改変などにより、描かれた当初の姿からは大きく変化していることも否めない。特に画面下部の画絹が大きく欠失し、図様の識別をすることができないため、類作との比較などによって失われた図様を解明する必要性がある。

本研究では、実技的な見地および調査資料に基づいて研究を行い、失われた図様の白描想定復元模写を作成することで、当初の表現技法や画面構成について可能な限り明らかにした。また、現状模写制作を通して、截金と彩色の技法の理解と習得を目指した。

研究の内容
  1. 本図の表現技法と美術史的位置を明らかにするため、日本と中国における普賢菩薩の作例を集め詳細に検討した。普賢菩薩の姿を説く経典をもとに、同時代の類似作品と比較しながら、図像に関する検討を行った。
  2. 原本の現状調査で、図様と材料技法の詳細な観察と考察を行った。肉眼における図様の確認に加え、展覧会場において色見本と比較することで、可能な限り正確に図様と色彩を認識した。
  3. 目視調査で得た情報に基づき、原本の制作年代に則した顔料を推測した。また様々な産地の鉱石を選んで、当時の色目に近い岩絵具を自分で製作した。  
  4. 現状模写制作を通して本図の技法検証を行った。用いられた材料や画面上に込められた様々な効果を見出すことができた。模写では材料の性質を理解し、画面の中で効果的に原本の風合いと魅力が再現されるよう努めた。
  5. 現状模写を行った上で、現存部分の表現を基に欠失・剝落箇所の復元を試み、白描の想定復元の作成を行った。描かれた当初の白描の印象を取り戻すことができた。
まとめ

東博本「普賢菩薩像」を対象に、可能な限りの情報収集と多角的な検証を行った。表現技法について実技的な視点から、これまで経験してきた模写や古典絵画の彩色知識などを利用し、実技的な立場から材料と技法について現状模写を行い、彩色と截金を高度に融合・調和させた当時の美意識を明らかにできた。  また、復元白描の作成から、制作当初の線描を復元した画面状態を観察することが可能となり、原本の制作当初の状況が理解できた。平安時代の仏画にみられる繊細な白描表現を再現することで、白描が作品に与える影響と、その役割の重要性を認識し、当時の美意識に迫ることが可能となった。

2018年度 大学院市長賞 大学院 美術研究科 保存修復専攻 修士2回生 王 夢石 WANG Mengshi

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