京都市立芸術大学芸術資源研究センターが行う研究会「アーカイブ研究会」では,今年度〈シリーズ:トラウマとアーカイブ〉と題して,連続的な講演と議論の場をもちます。
シリーズ第1回は,アーティストの裵相順氏をお招きします。
概要
〈シリーズ:トラウマとアーカイブ〉について
芸術資源研究センターが行う研究会「アーカイブ研究会」では,今年度〈シリーズ:トラウマとアーカイブ〉と題して,連続的な講演と議論の場をもちます。
公的な歴史や大きな物語からこぼれおち,それゆえ忘れ去られていく出来事とその記憶については,その記憶を聞きとり,引きうけ,わがこととして受けつぐ試みが,近年多くの場面で行われ,論じられています。
今回考えてみたいのは,忘れ去られつつあり,かつ忘れてはならないと思われるにも関わらず,差別や暴力の経験,負の記憶に結びついているために,あるいは今それについて語ることが新たな暴力や差別を引き起こしかねないために,思い出すことや語ること自体が現在でも困難であるような出来事とその記憶―トラウマ的な記憶―についてです。
たとえば,差別の経験や,国と国のあいまにある中間的な場所の記憶などについては,それについて語る・想起する・言及するこ と自体が,当事者にとってはもちろん,アーティストや研究者にとってもむずかしいという現状があります。しかしながらだからこそ,そうしたことがらについて語り,聞き,話すための場所が必要だとも言えます。
では実際に,こうした経験と記憶については,どのような試みやアプローチが可能でしょうか。本シリーズでは,記憶をアーカイ ブする装置としての芸術やフィクションの可能性に注目してみます。集団的というよりも個的な記憶,言語的・歴史的史料というよりも,フィクションや視覚的資料,そしてさまざまな「モノ」などに焦点をあてるこうした実践が,いまどのように可能なのか。異なるフィールドを対象に,忘れられるべきではない経験と記憶についての研究や表現活動を実践してこられた方たちをお迎えし,語ること,想起すること,聞きとり・引きうけ・受けつぐことの可能性とその具体案について,考えてみたいと思います。
シリーズ第1回について
夢でも行きたかった大田、朝鮮大田生まれのある日本人は終戦後、引き上げてから亡くなるまで一度も大田に行かず、遺骨の一部を大田のある山に入れてほしいと遺言を残した。その遺言を聞いた息子も今では八十二歳になっている。それで逆に日本で生まれ朝鮮の人と結婚し、終戦後、韓国の釡山に行った日本人の女性は一〇四歳になり、今も韓国にいる。
私は二〇一五年から約三年間、韓国中部の大田にある小さな街「蘇堤洞」を調査し、故郷と国籍が一致しない日本人たちへのインタビューを行うなど、数年間にわたって誠実な調査や記録を重ねた。インタビュー対象者は 八〇〜九〇歳と高齢で、彼らと自分が共にいられる時間はあまり残っていない。
激動の近代日韓史を生き抜いてきた彼らの語られることなかった記憶や想いを聞く行為から作品に至るまでの複雑な気持ちに向き合っている。それを作家として作品に繋げていくプロジェクトでもあった。(作家ノートより)
フライヤー
講師プロフィール
裵相順(Bae SangSun)
1997 年成均館大学美術教育科( 美術教育専攻) 卒業。
2002 年武蔵野美術大学造形研究科美術専攻修了。
2003 年ロイヤル・カレッジ・ オブ・アート( 版画専攻) 交換留学生。
2008 年京都市立芸術大学 大学院美術研究科博士( 後期) 課程満期退学。
2005 年と2008 年, 日本のVOCA「現代美術の展望- 新たな平面の作家たち」の展示に選ばれ,韓国と日本を始め,多くの国際的な展示に参加した。現在は京都を拠点に制作し,活動している。
タイトル | 第25回アーカイブ研究会「《シャンデリア》自作を語る̶近代歴史の中で生き残った人々の話から」 |
日時 | 2019年10月8日(火曜日)17時30分から |
会場 | 京都市立芸術大学 芸術資源研究センター |
事前申込 | 不要 |
参加料 | なし |
問い合わせ先 | 芸術資源研究センター
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参照ページ
イベント会場
日本、京都府京都市西京区大枝沓掛町13−6 京都市立芸術大学