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平家納経・厳王品における装飾技法の研究——想定復元模写を通じて

論文要旨

 厳島神社に所蔵されている「平家納経」は、平安時代末期に平清盛(11181181)が一門の繁栄を願ったために奉納した、平安時代の美意識の粋を集めた極めて優れた装飾経である。表紙と見返しに絵が描かれ、本紙にも表側のみならず裏側にまで装飾が施され、紙染めや箔装飾などの料紙の装飾技法と絵画が一体となった数少ない遺例であり、この時代の美術に関する総合的な価値を有している。

 本研究の主対象である「厳王品」は「平家納経」に共通して用いられている技法を加え、特有の表現も見られる代表的な一巻である。本研究においては「厳王品」における典型的な大和絵の見返し、表紙と本紙の華麗な装飾技法について考察し、想定復元模写を通じて、「厳王品」に用いられた個々の装飾技法を再現し、それらが融合した当初の姿を復元することを目的にする。

 「平家納経」は昭和四十七年(1972)の修理を最後に、約半世紀の間、公開も制限されてきたが、植物染料の褪色、銀箔の酸化、絵具の剝落などの劣化は避けることができない。一方、「平家納経」の公開機会が限定されているため、保存状態がよい部分であっても作品の科学調査が行われる機会には恵まれていない。「平家納経」にはいくつか模本があるが、模本は基本的に本作の現状を写しているため、それらから制作当初の装飾模様と鮮やかな色彩を推測するのは容易なことではない。従来の「平家納経」に関する研究では、歴史的背景、写経の解説、書道、装飾技法の分類など広範囲に論じられてきたが、一巻ずつの装飾技法の表現について詳しく検討したものはまだない。また、多数の文献は理論的視角から装飾技法を考察するため、実際の模写作業の経験から見ると、技法の表現について文献資料とは違う見解も散見される。

 第一章では「平家納経・厳王品」の見返し、表紙及び本紙における経絵主題と装飾技法を述べる。また、材料と制作技法による試作を行うことで装飾技法の再現性を検討する。検討の結果を「厳王品」の想定復元模本の制作に反映する。第二章では「厳王品」の各部の想定復元模写及び巻物を仕上げる作業においての各工程の手順、制作方法、制作材料などについて述べる。

 本研究における想定復元模写にとって最大の困難は、科学調査が欠ける状況下で、原作が制作当初に用いられた材料と制作技法を検証することである。復元模写にあたっては、紙染め、砂子装飾、箔装飾など装飾技法の条件による装飾効果の違いと再現可能性を検討し、試作を行った。今回の実験と想定復元で得られた成果を、今後の伝統的な装飾技法の継承のために役立てて行きたい。

2020年度 同窓会賞 大学院 美術研究科 保存修復専攻 修士2回生 盧 琬京 LU Wanjing

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