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【学長メッセージ】京都市立芸術大学・大学院の新入生のみなさんへ(入学式式辞にかえて)

2020.04.10

 美術学部135名,音楽学部65名の学部生のみなさん,大学院美術研究科68名,音楽研究科25名の修士課程のみなさん,そして美術研究科9名,音楽研究科1名の博士課程のみなさん,総勢303名のみなさんの入学ならびに進学,誠におめでとうございます。京都市立芸術大学はみなさんを心から歓迎いたします。

 世界中に広がる新型コロナウイルス感染症の猛威は,未だ静まることはなく,日々状況は厳しくなっています。本学においても感染予防対策のために,入学式を取りやめることにしたのは,大変心の痛む思いです。今年は東京でのオリンピック・パラリンピックイヤーとして,スポーツだけではなく日本国内各地で様々な文化的催しやイベントがあるはずでした。今は,美術館や演奏会も,閉館,中止,非公開となったところも多く,皆さんにとっても楽しみにしていたものが,次々に取り上げられていく毎日でしょう。日本だけでなく,世界中がこの未曾有の事態に翻弄されています。
 学生の皆さんの安全と健康を確保するために,新年度の始め方について検討と議論を続けた結果,入学式の中止に加えて授業開始の延期を決定しました。この状況に,新入生で一人暮らしを始めたみなさんや,ご家族の不安はいかばかりかとお察しいたします。現在,大学では,学生の健康,安全を確保できるよう授業の環境と実施方法等を検討して準備しています。その間,皆さんにも,周知されている感染症対策を守り,引き続きご自身や周りの人々の健康に配慮した生活を送って頂けますようお願いいたします。皆さんの,節度ある態度と協力に教職員一同感謝しています。
 さて,そのような中,みなさんが入学された京都市立芸術大学は,今年,創立140周年を迎えます。長い歴史を持ち,芸術界・産業界に優れた人材を送り込み,わが国のみならず世界の芸術文化に貢献してまいりました。現在も毎年,多くの学生や卒業生たちから,国内外で活躍している報告がなされています。皆さんも合格発表の日から自分もそういった先輩たちに続き,芸術の道に進むのだという興奮を少なからず感じておられることでしょう 。今から皆さんが学ぶ京都芸大,そして京都という都市(まち)がどのようなところなのか,まず少しご紹介しておきたいと思います。

 140年前に京都芸大が創立されたのは,実は逆境の中でのことでした。幕末からの戦災や遷都により,京都は急激な人口減少と産業の衰退に見舞われ,画壇もまた疲弊するという,長い間都であった京都にとって未曾有の事態でした。そのような中,当時の若い画家たちが,自分たちの手で画壇や京都の産業に資する人材を育てる体制を生み出そうと企図することで,復興への道を模索します。その成果としてできたのが,日本初の試みとなった本学の元になる京都府画学校の設立です。
 そしてまた音楽学部は,まだ戦後の復興期であった1952年にやはり全国初の公立音楽大学として京都市立音楽短期大学が設置されたことを端緒とし,のちに美術学部と統合して今に至ります。開学の趣旨には「京都市が市民の音楽熱の熾烈なる実状に鑑み,名実ともに国際文化観光都市にふさわしい教養ある社会人としての音楽芸術家を育成せんがため」とうたわれています。もうすぐ70周年を迎え,その活動はますます充実してきているところです。
 こうした歴史を見るとき,京都の人々の芸術への理解と期待,あるいは芸術家たちの志の強さを感じ,そして京都芸大を140年間支えてきた京都のまちの懐の深さと進取の気性に思い至ります。

 京都も京都芸大も長い歴史を持つということは,その時々の厳しい状況を乗り越えて,活動を続けてきたということに他なりません。多くの人を惹きつける観光都市でもある京都ですが,その根底にあるのは,こうした京都の人々のメンタリティなのだと思います。本学でも,こうした特権的な環境を十全に活用すべく,産学連携,学外連携を通じ,京都という土壌から伝統や革新的な要素,情報,刺激を受け取って,それを作品や演奏,研究に昇華させ,さらに京都の人々,京都を訪れる人々に,その成果を発信していこうとしているところです。

 昨年には,京都市交響楽団との協定により,プロフェッショナルな演奏家たちに学ぶ機会を学生たちに提供していただく機会を設けています。協定により,京都市交響楽団との連携をこれまで以上に密にすることになれば,将来演奏家を目指す学生たちにとって,プロの現場での練習や体験が,得難い学びになると考えています。
 さらに,この3月に京都大学との協定を結び,今後,教育連携を深めてまいります。教育や人材育成で緊密な協力・連携を行い,双方の学生にとって,刺激的で,意義深い取組が生まれるよう進めていきたいと考えているところです。
 また,京都芸大独自の芸術家支援のための「のれん百人衆」という制度を通して,京都の企業の方々にご寄付をいただき,学生たちの活動にご支援いただいております。ご支援くださる企業は年々増えてきて,様々な学生たちの学び,活動をご支援いただいております。
 この他にも,様々な研究や教育の取り組みで,京都のまちと京都芸大との繋がりは,今も脈々と続いています。みなさんが京都から吸収したものを,また新たな芸術や研究に展開させてくれるように,本学の教職員が導いていきます。それが,公立大学として建学以来の少人数教育を貫くことを理解し,140年の間支え続けてくださっている,京都市と京都市民に還元できる大きな果実であると考えています。

 この春,京都市立芸術大学で,高い志を持った仲間たちや,教員であると同時にアーティストや研究者である教授陣と出会い,そこでお互いに啓発しあいながら芸術を学び,創造力を磨くことを期待して入学された皆さん。今の社会の状況は,安寧な時代の学生たちが経験したことのないほど厳しい状況かもしれません。しかし皆さんには芸術があります。たとえ,行動や生活に制限があっても,皆さんの内にある想像力や創造力は無限に自由であり,むしろ不自由な状況下のあなたを支える大きな力になるはずです。自由と不自由は,見え隠れしながら常に在ります。価値観が多様化し自由に見える現代社会の中にも,息苦しさ,生きづらさを抱えることがあり,不自由や抑圧があってもそこにしか生まれえない豊かな精神の活動はあるのです。人々の心に訴える芸術や,新しい価値観を生み出す研究は,どのような状況下でも歩みを止めないのです。私たちは現在のような忍耐の時に,アートの必要性を信じて前に進んでいきます。
 今この難しい時にも,あなたは成長し,変化し続けているのでしょう。この社会も同じです。そして芸術には変化に対応していく柔軟さがあり,困難を乗り越える力があります。それを信じて,この試練の時にできることを見つけて続けていきましょう。今まであなたの中で育ててきた好奇心や挑戦する気持ちを失わないように。この苦難を乗り切った先の新しい時代,未来を作り上げていくために 。

 最後になりましたが,今日まで応援し支えてこられたご家族の皆様に,心からの感謝を申し上げます。
 新入生の皆さんをこの沓掛キャンパスにお迎えできる日を楽しみにしつつ,そして皆さんの人生にとって,実りある学生時代をこれから送られますことを祈念して,私からの歓迎のご挨拶とさせていただきます。


令和2年4月10日
京都市立芸術大学 学長 赤松 玉女