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第159回 定期演奏会 出演者インタビュー(日紫喜惠美准教授)

第159回 定期演奏会を前に,当日ソプラノ独唱を務める日紫喜惠美准教授にお聞きしました。

interviewer_music先生は今プロとして活躍されていますが,そもそも声楽を始めたきっかけは何ですか?

ターニングポイントになる舞台がいくつかありました。 1つ目は,中学生の頃にテレビで映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観て衝撃を受けたことがきっかけで,学校で小さな舞台を作り,演じたことです。

interviewer_musicその頃は既に声楽を習い始めていたのですか?

いいえ。でも合唱部には入っていました。そして高校生の頃までバンドでヴォーカルを務めていて,声楽を習い始めたのは,大学受験直前の高校3年生のときでした。

interviewer_music他にはどのようなターニングポイントがありましたか?

2つ目は,京都芸大生のときのミュージカルの舞台です。入学当初は,クラシック音楽にのめり込んでいたわけではありませんでした。しかし京芸にはオーケストラがある。指揮者もいる。美術学部もある。何かできないかなと思いついたのがミュージカルです。早速先輩に「ミュージカルをしませんか?」と声をかけたのが,今のGMG(芸大ミュージカルグループ)の始まりでした。そこで「サウンド・オブ・ミュージック」を公演し,マリアを演じたのですが,舞台をみんなで作る楽しさを味わったのが印象深いですね。それからはオペラなどの多くの舞台を踏んで,どんどんクラシック音楽にのめり込んでいきました。

interviewer_music先生はプロの音楽家になるまで,何か苦労されたご経験などはございますか?

父から,音楽の道に進むことを反対されていたことですね。国家公務員の父は,「地に足が付いていないから」と否定的でした。私が中学校教員を辞めて大学院に進学しようとしたとき,「自分の人生設計はどうなっているんだ」と言われて,どうすれば説得できるのかを考えたんです。だから,1年後はこうなる,3年後はこうなる,10年後は…と書き出して父に見せました。それから今まで,それを一生懸命叶えてきました。そのときは「どうして反対されるんだろう」と,とても辛かったけど,そうやって思い描いている姿を口に出すことが,自分のエネルギーになっていたんだと思います。

interviewer_music確か野球のイチロー選手も,小学校の卒業文集でそのように書き出していましたよね。

彼は「天才」と言われているけど,きっと自分に色んなノルマを課してきたんでしょうね。例えばオリンピック選手も,その舞台では輝いて見えるけど,それまでに積み重ねてきた日常がある。声楽も同じで,聴衆に喜んでもらえるように,ウォーミングアップをしたり,知識を貯めたり,それらを自分に課し続けることが必要です。とても難しいけれど(笑)。それが苦しいのではなく,楽しいものでないといけませんけどね。

interviewer_music現在プロとして活躍される中で,音楽家として心がけていることはありますか?

今,自分自身が中堅世代となり,これからいかに音楽家を続けていくのかが課題です。ソプラノ歌手は,加齢とともに声の音域が下がり,役柄を変えていくことが一般的なんですが,ソプラノ歌手のエディタ・グルベローヴァは,72歳になった今でも高音が全くぶれないんです。彼女のようになるには,楽器としての体を維持していく必要があります。私の目標は,彼女のように72歳になってもきちんと歌っていられるようにすることですね。今の京芸の学生たちにも,それぞれ目標がありますよね。目標のために,自分に厳しくしつつも楽しみながら,努力を続けてほしいと思います。

interviewer_music音楽家である一方,京芸ではたくさんの学生を指導されていますね。指導者として心がけていることはありますか?

例えば音楽家であれば,オペラをする場合,自分が演じる役を主に深く追求しますよね。もちろん他の役について考えることはありますが,そこまで深くはない。指導者はそうではなく,すべての役や性別,あらゆる事柄全てを把握していなければなりません。その上で総合的に学生たちを育てていかなければならないので,もっと勉強が必要だし,自分自身も欲深くなります。しかし,あらゆる人たちへのアプローチができるし,作品も深く追求することができるので,とても恵まれていると思います。 かつてオペラにおける一歌手として自身の役を追求していたけれど,今はたくさんの人たちと1つのものを作り上げることが私にとって使命でもあります。役柄が何重にも重なった感覚で大変ですが,面白い仕事です。

interviewer_music今回の演奏会ですが,先生がプーランク《グローリア》について考えておられる解釈や思いはありますか?

プーランク《グローリア》は宗教曲ですが,バッハやモーツァルトによって継承されてきたような伝統的なものとは少し違います。プーランク独自の作風が前面に出ていて,それが作品の魅力にもなっています。 歌詞を外して聴いてみると,まるでオペラのように華々しいです。フランス語のイントネーションが音型に表れていたり,音の跳躍が多かったり,世俗的な旋律が多いです。プーランクが立ち会った録音でも,宗教曲が歌われる際に禁止されているポルタメントやビブラートが多くみられます。つまり,この作品はオーソドックスな宗教曲から逸脱しているんです。 例えば日本人の作家・遠藤周作は,敬けんなクリスチャンでしたが,王道的な聖職者ではなく,学がなかったり名前も知られていないような人が心の底からチラッと見せる善意に神が宿る,そんな考えを持っていました。「神はこうである」と正解を振りかざすことを否定しながらも,神を純粋に信じている。プーランクに似ているんです。 しかし,いわゆる「ちょいワル」の一面がありながらも,敬けんな信仰心も感じ取ることができます。この作品のソプラノ独唱で例えると,「罪人である自分」を歌うときには,音の跳躍はなくなり,まるでつぶやくような旋律になります。そこで改めて自分の内側を省みる。そのようなところに,プーランクの本心があるような気がするんです。 一般的な宗教曲を書いても,自分にとっての神はそこにはいない。だからこそ独自の色を全面的に出したんだと思います。この作品には,信仰心や音楽観を含めて,プーランクの生き方が詰まっているんじゃないでしょうか。

interviewer_music先生にとって作品の聴きどころはどんなところでしょうか?

プーランクがこの作品を書いたのは晩年です。友人が次々と亡くなっていく中,死と向き合う時期に作曲されたんです。その作品を青春まっただ中の京芸の学生が演奏するのは,とても面白い対比ですよね。そこでベテランの尾高忠明先生がどんな色を出してくださるのか。さらに私が加わることでどう変化するのか。とても楽しみです。 また,今回の演奏会ではモーツァルト,プーランク,エルガーとタイプの違う作曲家が並んでいますが,そんな取り合わせの妙も聴きどころの1つだと思います。そんな中で私がソプラノで参加することは面白いことなのではないでしょうか。

interviewer_music先生が舞台に立たれることは,学生にとっても良い刺激になると思います。ありがとうございました。

インタビュー・写真:桒田萌(音楽学部音楽学専攻3回生)

水上純奈(音楽学部音楽学専攻2回生)