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中村 淳二さん 2/4

2.大学は一つのことを究める場所

interviewer_music大学に入学当初,将来のことを考えていましたか。

中村 入学した時点でオーケストラ奏者以外の選択肢は考えていませんでした。当初は教職課程も取っていましたが,授業のために練習時間を削られるのが嫌で半年でやめました。私としては大学にはフルートを吹くために来たのであって,授業を受けに来たわけではないと思っていましたから。高校までは決められたカリキュラムを全てやるわけですが,大学という場所はやりたいことをやるところであって,一つのことを究めるために来るところです。私の場合,大学は自分が演奏家になるために練習して技術を磨く場所と位置付けていましたから,授業は必要最低限のみとし,ほぼ練習に時間を費やしていました。でも今にして思えば,卒業後の進路については教員やレッスンプロ,アンサンブルとして活動していく道もあり,オーケストラ奏者はその内の一つに過ぎないわけですから,とても視野の狭い考え方をしていたなと思います。

interviewer_musicその当時の練習はどうしていたのですか。

中村 曲は好きで練習していました。大嶋義実先生に言われてという部分もあったかもしれませんが,いくつかあったコンクールを目標に練習しました。コンクールは好きでしたから積極的に受けましたが,結果は全くといっていいほど伴いませんでした。それからオーケストラの授業が好きでした。当時,京都市ジュニアオーケストラに4年間在席していたので,色々な指揮者の方の下で演奏する機会に恵まれ,オーケストラの面白さを知りました。私の場合,オーケストラの方がソロよりもはるかに楽しいんですが,最近はソロの方が好きだという人も多いですよね。どうしてオーケストラに気持ちが向かないのか聞いたところ,ソロは楽しいからと言うんですが,でも,マーラーやブルックナーのような聴く者はもとより演者の魂をも揺さぶる交響曲に出会えるのはオーケストラしかないのかなと思っています。

interviewer_musicオーケストラとソロとでは臨む際の心持ちは違いますか。

中村 ソロの時は自分が演奏家であり,指揮者にもなり,自分で音楽を作らないといけませんから,万全を期すことはもとより,考えに考え抜く必要があります。今度のリサイタル(2016年10月16日開催)は計画に一年を費やしました。元々,私はレパートリーが少ない方で,あまり冒険するタイプではありません。それに一つの曲をずっと深く掘り下げていくのが好きなので,性格的にソリストには向いていないと思います。

interviewer_music大学の授業で印象に残っているものはありますか。

中村 龍村あや子先生の音楽美学の授業はよく覚えています。ロマン派についての授業で,龍村先生ご自身の経験や聴かれてきた音楽を踏まえての講義内容でした。ただ残念なのは,聴く側の我々に基礎がないから,その内容を受容する器が備わっていなかったんですよね。ですから,恐らく龍村先生の授業を今受けたら,積極的に質問していると思います。他には山本毅先生の音楽学特講でのミサ曲の解釈も印象深いです。教師であり牧師でもある山本毅先生からバッハのすごさを教えていただきましたが,単に歌詞の意味を学ぶだけでなく,その宗教的な背景等も踏まえた解説を大学の講義で聴くことができてとても良かったです。

interviewer_music芸大祭には参加されていましたか。

中村 1回生の時は,何もわからないまま先輩に使われましたが,2回生と3回生の時は,学祭期間はいつも空いていない練習室が空いていたから好きなだけ練習できると思い,とにかく練習していました。それから4回生の時は演奏会の係を担当しましたね。でも,「沓掛亭」でおにぎりをずっと握っていた記憶もあるから,そういう意味では普通に参加してたのかな(笑)。

interviewer_musicピッコロを吹かれてる姿がイメージとしてありますが,学生時代から吹いていたんですか。

中村 そうですね。吹いていたことが多かったかもしれませんね。そもそものきっかけは1回生の前期の時の定期演奏会の曲目が「展覧会の絵」だったんですが,3回生がいなくてピッコロを吹く人がいなかったから,1回生から駆り出すことになり,私が吹くことになったんです。ふつうだと1回生は定期演奏会には合唱ぐらいでしか出れないですが,私の場合は1回生から皆勤賞です。とてもいいタイミングでしたね。

interviewer_music大嶋先生との思い出は何かありますか。

中村 今になってみて大嶋先生が仰っていたことは大切だったんだなと感じることがよくあります。私は先生から音の立ち上がりについて細かく指摘されたんですが,そこはオーケストラではすごく大切なところです。タイミングを合わせる時に,ふわっとしてしまうと,その時点でタイミングがずれているということになりますよね。セカンドフルートというのはファーストフルートが出るタイミングを予知しながら演奏するわけですから,後からついていくよりも先に出る感覚で音を出した方が同じタイミングで出られるわけです。その瞬間から音が出ているというのは,その瞬間からハモれるということを意味するということがようやくわかってきたところです。

 それから,ある日,大嶋先生のところにムチンスキー の「3つのプレリュード」を持ち込んだことがあるんですが,大嶋先生はムチンスキーについての予備知識こそあれ,その曲のことをあまりご存知ではなかったんです。でも,ご存知でないにもかかわらず,とても的確にアドバイスしてくださるのでそのことに驚くと同時に,大嶋先生が持つ楽譜から読み取る力の強さを感じました。その他にも,大嶋先生は吹けないだろうと思ってジョリヴェあたりを持ち込んでみてもさらっと吹いてしまうのが悔しかったです。もちろん,それは大嶋先生がしっかりとした土台を積み重ねてこられたからこそなせることなんですけどね。ただ,どうしてあれ程にバロックに対して情熱を燃やしているのかは解りませんけど(笑)。

インタビュアー:大村優希惠,鎌田邦裕(ともに音楽研究科修士課程器楽専攻(管・打楽)1回生*取材当時)

(取材日:2016年10月12日・本学音楽研究棟にて)

Profile:中村 淳二【なかむら・じゅんじ】フルート・ピッコロ奏者

1986年京都府生まれ。2009年京都市立芸術大学音楽学部音楽科管・打楽専攻卒業。卒業時に音楽学部賞,京都音楽協会賞を受賞。卒業後は関西のオーケストラを中心に客演奏者として研鑽を積み,2010年に名古屋フィルハーモニー交響楽団に入団,2014年にNHK交響楽団に移籍し,現在同団フルート・ピッコロ奏者。第15回松方音楽賞受賞。第17回びわ湖国際フルートコンクール第3位。第12回フルートコンヴェンションコンクールピッコロ部門入選。