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【教員によるコラム】震災のあと私が出来ること (漆工専攻准教授 安井友幸)

2013.08.26

 2011年7月,東日本大震災から4か月あまり瓦礫撤去の作業が進む中,大学の復興支援の企画で訪れた宮城県の女川町で,かつて建物の敷地であった場所から陶片を見つけました。

 生活の一部であったうつわが一瞬の出来事によって無用の物へと変わっていく。これを再生することで,何か出来ないだろうか。破壊された街がよみがえる様に,また復活の願いを込めて何かを。

 とりあえず,その年の9月にもう一度行く機会があり,その時もいくつかの陶片を預かることになりました。漆の技術には割れた陶器を漆で接着する金(きん)継(つぎ)と言うものがあります。色んなタイプの陶片を集めてきて器などを再生する呼び継というものもあり,それでうつわでも作ってみようかと考えましたが,漆で接着するには相当な手間と時間が必要で,何も出来ず次の年の春になりました。

 そこで,その場で集まった人たちで容易に出来るような方法はないかと考え,以前私の妻が少し習っていたステンドグラスの技法を使ってはどうかと言う事となりました。

 ステンドグラスは,銅のテープをカットしたガラスの縁に巻き,その間にハンダを流しこむことで形が作られていくもので,預かってきた陶片の縁に銅のテープを巻き,陶片と用意した色ガラスを合わせ,ステンドグラスの技法によるオーナメントやうつわを春休みから学生中心に作成することになりました。皆さん即興的に楽しくやってもらえた様で,私の居ない間にも大作のうつわも完成していました。

 2012年8月,出来上がった作品を持って,宮城県女川町の被災地を高台から望むカフェに行き,カフェを切り盛りするご夫妻にうつわの贈呈とオーナメントの設置をしました。

 カフェのご主人がうつわを持って「今日はこれで一杯やるっぺ」と酒盛りの準備。

 

 私が「ハンダを使っているので,食事には良くないかも。」という問いかけに,「今日だけなら全然大丈夫!」 ととても喜んでもらえたようでした。

 

 また,このカフェのご主人は地元の獅子舞を熱心にされているようで,カフェにも獅子頭の展示が。ここの獅子舞は「女川港大漁獅子舞まむし」というもので,このまむしの獅子頭は震災時に流されてしまったそうです。

 昨年は段ボールとティッシュ箱で作った「子まむし」で何とかやってきたが,自分たちの獅子頭をもう一度復活させようという想いで,自分たちで獅子頭の新しいデザインをし,完成を待ちわびている最中,職人さんが完成前に入院をされ,仕上げの漆塗りも出来ておらず,金色のスプレーで2012年の春の祭りは何とか凌いだそうです。

 私が漆塗りを専門としていることは以前お伝えしていましたので,是非仕上げて欲しいとの依頼が。獅子頭は大概桐の木で出来ており,頭髪は馬の毛を使うらしいのですが,仕上げは漆塗りのものがほとんどで赤・黒・金などの配色は漆好きにはたまらない逸品です。

 それからと言うものいろんな地方の獅子頭が急に気になり出しました。この地域ではコンビニの開店にも舞われるらしく,地域を上げて無くてはならぬものでもあるようでした。悪いところを咬まれると治るとも言われており,みんな喜んで咬まれるようです。

 夏休みに大学院の学生と一緒に下地をやり直し,漆塗りの仕上げと金箔を貼りました。学生が分担した下あごの部分は舌を彫り直すなど,自分ならこうしただろうと言う気持ちで頑張ってくれたようです。その後,私と同じく獅子頭に興味が湧いてきたとか。染織の日下部先生にも型紙にてまむし柄の紋を制作してもらい,紋を表面に押し完成させ引き渡しました。

 秋のサンマのころには女川の瓦礫を受け入れてくれた東京都にお礼として日比谷公園にて焼きサンマとつみれ汁をふるまい,この獅子舞も参加したようで,大いに盛り上がったらしいです。

 このようなかたちで私の漆の技術が生かされ,地域に根付いたものを復活させる手助けが出来たことで,自分の作品制作とはまた違った喜びを感じました。これからも私が出来ることを探して積極的に関わりたいと思っています。

                                             漆工専攻 准教授 安井友幸

 

※ このコラムは,2013年3月発行の同窓会誌「象」33号に掲載されたものです。

 

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