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神護寺所蔵 国宝 釈迦如来像想定復元模写研究

研究の背景と目的

仏画の現状模写研究を行った経験から截金の繊細で美しい表現に魅せられ、その技法について詳しく研究する為、その最盛期と評される院政期の仏画を対象とし制作当時使われていた技法、画材等を推測し、作品が完成した当初の姿を再現する想定復元模写研究を行う事とした。研究対象作品には院政期仏画の中でも截金はもちろん、美しい彩色を持ち、さらに保存状態の良い神護寺所蔵「釈迦如来像」(以下神護寺本とする)を選択した。

研究方法

神護寺本の目視観察を重ね表現を確認するとともに、類似作例の科学調査結果や論考を照らし合わせ、先行研究で指摘された表現技法が実際に用いられているかを調査した。観察の結果、使用されている可能性が高いと考えられた技法については試作を行い再現性を確かめ、再現可能であると判断した技法で全図での想定復元模写を制作した。

想定復元模写制作

原本と同寸に印刷した手本を元に上げ写しを行い、現在の姿から確認できる線描と截金文様を写し取った。完成した白描画は画絹が制作中に縮むことを想定して縦方向に3%拡大複製し、朱線で欠失箇所を補った。完成した想定復元白描画を敷き写しにて画絹に転写し、類似作例の科学調査結果や目視調査を元に推定した色材を用いて裏彩色、表彩色、截金を行い、全体を調整して仕上げた。図像は基本的に原本に倣っているが、天蓋のみ完全に欠失しているため、類似作例を元に復元を試みた。

結果および考察

現在の神護寺本は経年により古色を帯び、穏やかな色調を呈しているが、鮮やかで濃い色彩と強い輝きをもつ箔が多用され、さらに補色が隣り合うように配色されるなど、制作当初は現在の姿から想像されるよりも非常に強い印象を持つきらびやかな画面をしていた可能性が高いことが想定復元模写から読み取れる。一方で、ただ鮮やかな色を並べるだけでなく、ハイライトである照暈を用い補色の反発を防いだり、箔の上に彩色を行うことによって平面的な箔を彩色の立体表現に取り込むなど、画面全体が調和するよう細かな工夫がなされている。また、赤い衣などに金箔のみの截金とは異なる黒化を伴う截金が確認され、こうした箇所では金箔と銀箔を合わせる仏師箔による截金を使用することによって箔の色を使い分け表現の幅を広げていた可能性がある。さらに、細かく階調を表すことで色彩豊かに見せる暈繝彩色では裏彩色や染料等を活用し階調を作ることによって顔料の重なりが厚くなることが避けられており、顔料の発色を活かしながら保存にも適した彩色構造を持っていることがわかった。

結論

想定復元模写によって色鮮やかできらびやかな神護寺本制作当初の姿の一つの可能性を示した。さらに、彩色文様や截金文様などきらびやかな荘厳が施されている神護寺本であるが、それらをまとめ上げるための一見しただけではわからないような微細な工夫が随所に施されていることが制作の中で判明した。こうした表現や工夫を明らかにすることによって、その根底にある平安時代末期の繊細と調和を重視する美意識が具体性をもって見えてきた。

2019年度 大学院市長賞 大学院 美術研究科 保存修復専攻 修士2回生 東郷 有里 TOGO Yuri

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