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池田精堂さん・西條 茜さん 2/2

答えのない問いに向き合い,本質を見つける時間

西條 茜《Coquille》(2019)陶磁器 35×20×65cm 撮影:来田猛

interviewer二人とも大学院まで進みましたが,6年間の学生生活で思い出に残っていることは?

池田 指導教員の中ハシ先生とのやり取りはよく覚えています。大学院の時,一生懸命書いて提出した研究計画書になかなか合格をもらえず,4・5回は突き返されましたね。「お前の考えている小難しいことを,中学生でもわかるように書き直してこい」って言われて。当時はめちゃくちゃ悩みました。

interviewer教員からすると,学生自身に考えさせようと厳しいことを言う時もありますが,学生にとってはきついですよね。

池田 しんどい思いして,吐き出すように書いた文章を,また突き返されて,書き直して…その繰り返しでした。でも,その経験ってすごく大事だったなって,今では思えます。答えのない問いに対して,こんなにじっくり向き合ったのは人生で初めてだったと思います。

interviewer西條さんはどうでしたか?

西條 私は大学院の時にRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート/イギリス)へ交換留学に行きました。その時の経験から今も影響を受けているし,得たものは大きかったです。留学中,同じアパートの学生に教えてもらい,今も頭にある言葉があります。「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉で,イギリスのジョン・キーツという詩人が,未解決のものを受容する能力として著書で記述している言葉です。これは当時,答えをすぐに求めすぎていた自分には救いでした。不確実な状況に対して,それに耐えて,本質を見ていくということが大事なんだと。

interviewer池田さんも西條さんの1年前に,同じくRCAに留学していましたよね?

池田 RCAには,作家としてバリバリ活躍して,マーケットで売ろうという学生がたくさんいて,正直僕にはあまり刺激はなかった。でもロンドンは,文化が集まった最先端の街。その街で出会い,後々繋がるものはたくさんあった。たとえば,ロンドンのピカデリーサーカスで空中ブランコのショーを観たんですけど,その時のカンパニーのリーダーと,後に偶然京都で遇ったんです。「あの時に実際に観ました!」って。そこで,今のパフォーマンスに繋がる現代サーカスの情報を得ることができました。

二足のわらじをどう履いていくのか

ERIKA Relax × 池田精堂「道具とサーカス」ART LEAP 2019(神戸アートヴィレッジセンター)撮影:松見拓也

interviewer卒業後はどんな活動をしていたのでしょうか?

池田 大学を卒業してからも現代美術を制作していたのですが,「これを10年,20年やっていくのか,作るモチベーションは続くのか」ということに悩んでいました。その時に,ギャラリーで仕事を一緒にしていた人が,「40,50年ひとつのことを続けられる人もいれば,そうじゃない人もいる。あることを15年して,その後違うことにシフトチェンジして,また15年やって,それを何回か繰り返すという人生もあるんじゃない?」という話をしてくれて,心がふっと軽くなりました。その後もいろんな展覧会の仕事をしていく中で,いろんなアーティストと話す機会があり,「二足のわらじをどう履いていくのか」という視点を持つに至りました。つまり僕の場合は自分の作家活動と展示の仕事です。そのために,技術や価値観に含みを持たせるというか,いろんな選択肢をもちながら,自分のやっていることにどうやって飽きがこないかということを一番大事にしようと考えられるようになったんです。

interviewer他のアーティストのサポートと,片や自分のアーティスト活動と両方あるわけですが,自分が前に出ることと,後ろに回ることについてはどうお考えですか?

池田 僕は,作家として自分の名前が出ることはどうでもいいと考えています。むしろ,どうして作ったものを人に見せなあかんの?とさえ思っていて,自分が作家として何をやりたいのか悩んでいた時もありました。自分が本当にやりたいことってなに?と考えたときに,自分は,誰かが使うとか,誰かに影響を与えるとか,第二者,第三者の存在が常に頭の中にあって,そこで面白いと思えるアイデアが出てくる,ということに気づきました。展示会の仕事も,単純に白い壁に作品を並べていくわけではない。展覧会はストーリーなので,入ってまずどの作品に出会うのか,展示会場から出た後に何に印象が残るのか,その作品同士の関係性など,その空間のなかで,現場の人と作り上げるというところが強い。その際に自分の持っている能力をどういう風に活かすのか,というのは自分の作品でやっていることと似ていて,こういうことを続けていきたいって思ったんです。

interviewer作家としてもサポート側としても,それが池田さんの中で同レベルだから,展示会の仕事もクオリティの高いものが出ているのだと思います。今はまだ陰に隠れて見えないけれど,池田さんがかかわる仕事にはおそらく通底する何かがあって,トータルで見るとこれが「池田精堂」という仕事なんでしょうね。

池田 中ハシ先生のゼミの中で「自分のオリジナリティを確保するにはどういう方法があるのか」という話題が出たことがありました。その時に「オリジナルの道具を作って,それを使いこなす,創造するという段階を何回も踏めば,必ずオリジナリティのあるものが出来上がるんじゃないか。」というひとつのこたえが出たんですね。これはすごく記憶に残っていて,僕はこれを今も実践しています。過去に自分が思い描いていた美術作家像と,現在自分が面白いと思っているところの明確な違いはそういうところに興味がおかれるというところだと思います。

僕は,人の展覧会を仕上げることにこだわりがあるのではなく,その過程にこだわっています。出来上がった展覧会をみて,作家が不満な顔をしていたとしたら,それは自分の創意工夫が足りなかったということ。

今では,アクア(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)以外にもいろんな他府県の美術館に呼ばれるようになって,京都芸大以外の人ともかかわることが多くなってきました。

アーティスト・イン・レジデンスでオランダに滞在(2019)

interviewer西條さんは卒業後どんな活動をしていましたか?

西條 私は京都芸大を離れてからは,海外のアーティスト・イン・レジデンスを利用しました。焼き物の街に行って,その歴史やその場所についてのリサーチを重ね,そこから得たインスピレーションをもとに日本に帰って展覧会をする,というサイクルができています。学生の時は,自分の中でだけで制作が成立していたけど,卒業後はやりたいことが大きくなったり,複雑になってきたので,それが難しくなってきた。だから,どういう風に社会と繋がって制作を続けていくかを常に考えています。アーティストって孤独な仕事だけど,今は続けていく方法を現実的に見つけられてきたと思っています。

interviewer西條さんは,在学中からツリーハウスを一緒に制作してくれる友人がいたり,周りに恵まれて,いい影響を受けている印象があります。今も京都芸大の卒業生とシェアスタジオで制作していますよね。

西條 大学の時の友人とは今も続いていて,ノウハウや情報を交換しながら,お互いに助け合ったり,いい刺激を受けています。周りの助けもありながらも,「どうやってプロジェクトを成功させるのか」を考えることを楽しめています!

interviewer今後の夢や目標は?

池田 10年後どうしてるかはわからないけれど,自分の作家活動としての幅を広げたいと思っています。自分のパフォーマンスを続けていくとしたら,1か所でやっていくのではなく,ツアーみたいなことをしたい。

西條 21世紀の今も未知の場所がある。世界のいろんな窯元,焼き物をみて,世界の焼き物を制覇したいです。そこから自分の作品のインスピレーションを得て,これからも創り続けていきたいです。

不確実な世の中を一緒に生きていこう

interviewer京都芸大を目指す受験生へ一言。

池田 受験生の頃,僕は課題ばかりしているとつまらなくなってしまうと思い,府立植物園に行って自由にスケッチしていました。そのおかげか実技試験のときには開き直れて普段と同じように落ち着いて試験に臨めました。受験本番は,自分の状態や周りの雰囲気など,いろんな要因があるので,どんな課題が出されても平常心でいられるよう度胸をつけておくといいと思います。

西條 確実なことなんて何もない。答えをすぐに求めず,耐えて本質を見つける力が大事だと思います。答えが出ない間って怖い。だけどそれを楽しめたら,新しい景色が見えてくると思います。不確実な世の中を一緒に生きていきましょう。

インタビュアー:森野彰人(陶磁器専攻教授)
(取材日:2021年2月19日・本学 大学会館交流室にて)

Profile:池田精堂 【いけだ・せいどう】

1985年生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。2012年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(イギリス)へ交換留学。京都を拠点に活動パフォーマンス/コンテンポラリーサーカスユニット「tuQmo」代表として活動。また,フリーの美術インストーラーとして,国内の美術館やギャラリーにて展覧会の企画・造作物制作・設営等に携わっている。

Profile:西條 茜 【さいじょう・あかね】

1989年兵庫生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻(陶磁器)修了。2013年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(イギリス)へ交換留学。「空洞」でありながら「リアリティのある表面」という陶磁器の特徴に着目する一方で,世界各地にある窯元などに滞在し,地元の伝説や史実に基づいた作品を制作している。