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木下洋二郎さん

在学生が、多方面で活躍する卒業生に本学の思い出や現在の活動についてお話を伺う「卒業生インタビュー」。コクヨ株式会社のデザイナー、木下洋二郎さんへのインタビューを前半と後半の2回に分けてお届けします。インタビュアーは、美術学部デザイン科の高橋類さんと松田優さんです。

1.ものづくりのきっかけは 夏休みの工作

木下洋二郎さん

interviewer幼少時代はどのような子どもでしたか?

木下 家がお菓子屋で、裁ちばさみがあって、広告の商品を切り抜いて父親、母親にプレゼントするような子どもでした。後から思えば、手先を動かすことに興味があって、そういうことが原点になっているのかもしれません。本格的にものづくりのきっかけになったのは、出身が大阪の岸和田なので、小学校5年のときに夏休みの工作でだんじりを作ったら、みんなに「すごいな」と言われたことではないかと思います。

interviewer京都芸大を選んだのはなぜですか?

木下 高校時代はサッカーに明け暮れて勉強は全然していなかったので、高校2年のときの進路面談で先生から「木下君は進学より進級を考えなくてはいけない」と言われてしまいました(笑)。親からは「お金ないから国公立しか行ったらあかんで」と言われたのですが、当時の成績でどうやったら国公立の大学に行けるかを考えていた時に、共通一次試験の資料を見ていたらボーダーラインが低いところがあって、それが京都芸大でした。そのとき、工作とか絵を描くのが好きだったことを思い出して、高校2年の冬から予備校に通い、面白くてそこからのめり込みました。予備校で美術の入試対策をやっていると、あまり勉強した記憶はないんですがほかの科目の成績もよくなって、無事進級できましたし、大学にも現役で合格することができました。

interviewer大学生活はどのように過ごされましたか?

木下 勉強の話ではないんですが、やっぱり芸大祭は面白かったなと思います。クラブなどには属さないフリーで集まったメンバーで、もらってきた廃材を使って模擬店を作りました。バーにして、本格的な内装のカウンターを作ったり、椅子を作ったりして徹夜していました。そういうことをやったのもインテリアに興味があったからで、今の仕事につながっている面が多少なりともある気がするし、そもそもその時も椅子を作っていて、今もずっと椅子を作っているんですよね。

芸大祭の模擬店では仲間とバーを出店(左から2番目)

interviewer大学生活で印象に残っているエピソードはありますか?

木下 学生はみんな個性的でしたね。2回生のデザイン基礎の授業で、ある日机を開けたら筆箱も鉛筆も全部真っ白に塗られていたことがあるのですが、塗ったのは後ろの席の学生で、理由を聞いたら「塗りたかったから」って(笑)。そいつはその時期、何でも白く塗ることにハマっていたらしく、僕も「塗りたいんならしゃあないな」と思って白い鉛筆を使い続けましたが、そんな人がいっぱい集まっていました。

interviewerプロダクト・デザイン専攻を選ばれた理由は何かありますか?

木下 どちらかと言うと絵を描くよりも工作のほうが好きで、その中でもなんとなく「デザインってかっこええんちゃうか」という程度の印象で決めたと思います。木工には興味がありましたが、先ほどお話ししたような自分でだんじりを作った経験や、祭りで実際にだんじりに触れるような体験を通して、木の素材感が好きだったということも理由としてあります。

 

※ 現大学入学共通テスト

2.大学の課題で椅子の魅力に気付き 家具を作る仕事へ

interviewer専攻の授業はどうでしたか?

木下 自分で考える力は養われたかもしれないです。よくも悪くも好きなように自分で考えてやるという独学精神みたいなものが身に付いた気がします。自分で考えて、自分で学んで、必要なことは自分で調べる。それは今の椅子を作る仕事にもつながっていると思います。世の中のセオリーに違和感を持って、その違和感とは何かということを自分で掘り下げていくような感じでしょうか。仕事をやっていても、周りの人たちに比べたら考えている時間が多いんじゃないかと思っています。逆に、ああだこうだ言われるのは結構嫌かな。それはもしかしたら大学の影響かもしれないです。
今の仕事にすごくつながっているのが、3回生のときにあった椅子を作る課題で、そのときの評価がよかったんです。それで、椅子も含めた家具が面白いなと思って興味を持ち出して、家具のショールームに行くようにもなりました。授業の課題で興味持ったということは間違いなくて、そこから家具の世界に行きたいと思ったし、今となってもそれがきっかけだと思えるので、大学時代に色んなことをやった中で自分の興味を見つけて今に至っています。

interviewer課題の中に興味を持つきっかけがあったんですね。

木下 そうです。いろいろなことをやってみたけれどこれというものが見つからないということは結構あるし、自分はラッキーだったんだと思いますが、直接仕事につながったのはすごくよかったと思います。そのときの評価が悪かったらこの道に進んでいないかもしれないです。だんじりも周りが褒めてくれたからこっちの道かと思ったし、自己評価と周りの評価がつながったから「やっぱりここかな」と思えたという気はします。

本学作品展の観賞をする木下さん

interviewer特に椅子に興味を惹かれた理由はあったんでしょうか?

木下 後から思い返せば、ということも含めて言うと、椅子とか家具は、外観と構造がイコールで、内部と外部がイコールで、すべてをデザインできます。構造がデザインだし、使い心地まで含めてすべてデザインだし、プロダクトに関わっている感覚が圧倒的に大きいんです。そこがすごく魅力に感じました。それと、椅子を作るときには、体に密接するプロダクトとしての機能性、心地よさなどの身体的・物理的な面だけを考えるのでなく、座るとはどういうことだろうという思想的な側面や、人はなぜ座るのかという哲学的な側面、脳と体のつながりがどう動くかという運動工学的な側面からも考えることになります。そういったさまざまな領域のことがぎゅっと凝縮されるプロダクトですが、一方で造形的な美的観点ももちろん必要なので、そういう魅力を感じています。

interviewer私も課題で段ボールの椅子を作りました。考えれば考えるほど、どんな場面で使うのかとか、課題との兼ね合いでどうするかということでも悩んで、今もまだ悩んでいるくらいです。

木下 デザインをやる人は椅子が一番難しいプロダクトで、面白いプロダクトだって言う人が多いと思うんですけど、いろいろな要素を詰め込めるというか、逆に考えないといけないプロダクトだからというのはあるかもしれないです。「30年もよく椅子作ってますね」と言われますが、最近はもう椅子を作ろうというより座ること自体に興味対象というか主体を置いています。「矛盾のマネジメント」と言っていますが、人の骨格は歩くことを最適化するための骨格なのに、座るという行為自体がそれに反する動きで、必ずどこかに矛盾が生じるんです。その矛盾の中で何を優先して解決するか、という発想になるので、今回足りなかったのは何かを考え、また次に作るときのモチベーションにつなげることを続けて30年です。

インタビュアー:高橋類(美術学部デザイン科2回生*)、松田優(美術学部デザイン科2回生*)*取材当時の学年
(取材日:2023年2月11日・本学にて)

Profile:木下 洋二郎 【きのした・ようじろう】 コクヨ株式会社 デザイナー

大阪府岸和田市出身。1990年に京都市立芸術大学美術学部デザイン科プロダクト・デザイン専攻を卒業し、コクヨ株式会社に入社。オフィスチェアを中心に、家具全般の先行開発およびアドバンストデザインを担当。人間工学や脳科学の視点から行動観察を行い、デザインとエンジニアリングを融合した開発手法でコクヨのイノベーションをリード。ドイツiFデザイン賞金賞、Red Dotデザイン賞Best of the Best、グッドデザイン賞金賞など、受賞多数。