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笹岡由梨子さん

在学生が、多方面で活躍する卒業生に本学の思い出や現在の活動についてお話を伺う「卒業生インタビュー」。現代美術家の笹岡由梨子さんへのインタビューを前半と後半の2回に分けてお届けします。インタビュアーは、美術学部油画専攻の橘葉月さんと林美紅さんです。

1.初めて没頭できたものが美術

笹岡由梨子さん

interviewer幼少期はどのようなお子さんでしたか?

笹岡 物心がついた頃から絵は観るのも描くのも好きでした。お絵描き教室にも通わせてもらって、美術館にも行っていました。古いルネサンス期の絵やマティスとかピカソの絵画を見るのが好きだったかな。幼稚園でもずっと絵を描いて遊んでいました。外で遊ぶのは好きではなかったですが、結構アクティブだったと思います。基本的には家にいて、何かものを作ったり、壊したり、そういう遊びをずっとしていました。

interviewer高校は普通科に通われていたんですか?

笹岡 そうですね。私は少し潔癖で水泳が苦手だったので、水泳をやらなくてもいい高校に進学しました。絵は好きでしたが、高校では美術の授業もなかったし、自分でも美術をやる気はなかったんです。卒業後は外国語大学に行って外国の人と結婚する、みたいな漠然とした将来を思い描いていましたね。

interviewerどういったきっかけで美術系大学を目指すようになったのですか?

笹岡 高校生のとき、趣味で絵を描いていたら、絵がうまいという噂が広まって、先生が「美術系の大学に行ってみたらどうか」とパンフレットを親に渡してくれました。そこから美術系大学に行くためだったらと勉強も頑張るようになって、人生で初めて没頭できるものが見つかったという感じかな。

interviewer先生が才能を見抜いたんですね。

笹岡 はい。それまでは美術系大学って何か一握りの人しか成功できないような印象があって、進路の選択肢になかったんです。先生が勧めてくれたことで状況が一転しました。両親は最初、将来のことを心配して、絵は趣味で続ければいいのではないかという意見でしたが、祖父母が賛成してくれたおかげか、これだけ没頭できることがあって美術以外の成績も上がったのだからやらせてみたらいいかと思ってくれたようです。先生には感謝しています。

interviewer京都芸大に決めた理由は何でしょうか?

笹岡 関西圏で、有名な作家さんや活躍してる人を輩出している大学といったら、やっぱり京都芸大しかないなと思いました。当時は入試倍率がすごく高かったので1浪してしまったんですが、画塾に通うかたわらで受験勉強も頑張って、晴れて入学することができました。

interviewer大学生活はどのように過ごされましたか?

笹岡 油画専攻に入ったときは、やはり先生たちの迫力というか、すごい!作家さんが教えてる!って感動して、何とか褒めてほしいと思って頑張っていた記憶があります。
私は学生時代、本当に息抜きが下手で、妙にストイックなところがあって。休憩したほうが明らかに効率が上がるのに、自分がちょっとでも羽を伸ばすことに対してひどく恐怖心があり、うまく休んだり遊んだりができませんでした。不器用な大学生活を送っていましたね。

2.今の表現にたどり着いたわけ

interviewer在学時に起こった東日本大震災により、制作への意識が変わったり、何か感じたりしたことはありましたか?

笹岡 大学生活に馴染んできた最中、大きな震災が起きてしまい、周囲では現地に赴いて何かする人もいれば、何をしていいか分からなくなった人や、制作する意欲を失ってしまう人もいたりしました。
当時から私は、美術で世の中は変えられると本当に信じていたので、「今こそ、美術の力が必要なんや」と思って心を燃やしていました。本当は見たくない津波の映像を何度も見ていると、映画みたいだなと強く思って、同時にそれはおかしいなと思って。実際に目で見たものはリアリティーしかないけど、映像というフィルターを通したとき、少しでも自分の想像を超えたものは全部映画のように見えるのだと思いました。これまでは編集され尽くしたものを見ていたんだということに気付かされ、それがすごく気持ち悪いと感じました。
そんなとき、わざとらしく粗く編集してあるCGの映像とか、仕掛けが丸分かりの合成の映像を見て、とても癒やされたんです。そこから、嘘だとすぐ分かるような下手な合成みたいな表現を始めました。現在のような表現方法にたどり着いたのは、あの大震災がきっかけだったと思っています。

interviewer印象に残っている授業やゼミはありますか?

笹岡 油画専攻での大喜利みたいなゼミですね。今まで描かれたことのないモチーフを描いてきなさい、みたいな無茶ぶりのお題を短期間でやってこないといけないんです。当時はそのゼミが苦痛で…何回もスベるから。スベるのってやっぱり怖いから手が止まりがちだけど、強制的に続けていくうちに、それを怖がらなくなりました。

interviewer今年はゼミの授業で心霊写真を作ったんですが、画像の大喜利みたいになっていました。でも、今の学生は批判されることを恐れる人が多い気がしています。

笹岡 確かにそうかもしれないですね。今の学生さんはみんなすごく器用なんですが、インターネットで調べたら正解が分かるので、大失敗もしないし、何か既視感がある作品を作りがちなのかもしれないです。他の作品を参考にしていると、見ればやっぱり分かってしまいます。あの人の作品を参考にしたんだなということが分かってしまうと、見る側は冷めてしまいますよね。ミステリーがないのは、作品としては結構致命的ではないかと思います。

interviewerゼミでの大喜利は、そういうことに対してはすごく有効なのではないかと思ったりします。

笹岡 今年から別の大学で教員としてしっかり教えるようになるんですが、大喜利ゼミをやって鍛えていこうかなと思っています。スベり慣れるというか、失敗しないと成功しないということ、どう恥に慣れるかみたいなことを、当時それで鍛えられて学んだから、今の学生さんにも経験してほしいですね。

インタビュアー:橘葉月(美術学部美術科油画専攻4回生*)、林美紅(美術学部美術科油画専攻3回生*)*取材当時の学年
(取材日:2023年3月24日・笹岡さんのアトリエにて(アトリエ設計/施工:たま製作所))

Profile:笹岡 由梨子【ささおか・ゆりこ】現代美術家

1988年大阪府生まれ。2017年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程美術専攻メディア・アート領域満期退学。現在、滋賀県在住。2022年「PLANARIA」PHD Group(香港)、2021年「Zniknij Z Ziemi」Trafostacja(ポーランド)(以上個展)、2022年「ドリーム/ランド」神奈川県民ホールギャラリー(神奈川)、「Reborn Art Festival 2022 -利他と流動性-」旧つるの湯(宮城)、「Rendering」PHD Group(香港)、2021年「水の波紋展2021」渋谷区役所 第二美竹分庁舎(東京)、「まみえる -千変万化な顔たち」丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)(以上グループ展)など、国内外で精力的に活動。2023年から京都精華大学特任講師。京都府文化賞奨励賞、咲くやこの花賞、Kyoto Art for Tomorrow 2019―京都府新鋭選抜展―最優秀賞など、受賞多数。