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菊本和昭さん 4/4

4.妥協しない姿勢

練習の虫、妥協しない姿勢

interviewer_music大学時代のご友人から、菊本さんは練習の虫だったということをお聞きしていますが、練習していると落ち着くというのはあるんですか。

菊本 逆ですね。練習していないと落ち着かない。今もなんですけど、やっぱりやりたい曲がいっぱいあるんです。ソロの曲もあるし、アンサンブルとかもあるし。で、それ以外にやらなきゃいけない曲っていうのもある。そうすると時間が足りないんです。

 楽譜を読むだけで吹ける人もいるんですけど、僕はそんなに器用じゃない。楽譜を見るところから始めて、実際に音を出してみて、ここはこういう風に音がはずれやすいとか、この曲は最後の方にスタミナを残しておかないと、っていうのは実際やってみないとわからない。一つのコンサートで最後まで余裕をもって吹き続けるためには、普段から「通し」で吹いておかないとわかりませんからね。通す練習を僕はたくさんやるんですけど、その分時間がかかるんですよ。

interviewer_music本番で100出せることはないから、普段から100出せる練習をしないと、絶対本番では無理だって言いますよね。

菊本 そうです。本番で100出したかったら、140ぐらいやっとかなきゃできない。そりゃ、マグレでうまくいくことはありますけど、あくまでマグレですからね。

 自分の中のペース配分を考えていく中で、こういう風にやっていったら大丈夫だから、ここはがんばれるぞ、ここはセーブして、みたいなのも見えてきます。自分がその曲に対して、コントロール下にあると思えているかどうかで全然心の余裕が違いますよね。

 最近はちょっと神経質になりすぎていて、“ここで汗を拭く”とか考え出しちゃって。そんな時は自分でもちょっと行き過ぎだとは思ってるんですけどね。ある程度自然な流れの中でペース配分をしておくということが大事だなと思っているので、“いっぱいいっぱい”にならないように気を付けています。お客様にお金を払って聴きに来ていただいたのに、奏者がバテるようなことをやっちゃいけないなって自覚するようになってきました。今までにも途中でバテてしまって最後まで続かない!みたいな経験いっぱいありますからね。振り返ると怖いことしていました。

interviewer_music同級生の方から、菊本さんは演奏会の規模の大小に関わらず、準備に最大限努力されて臨まれる、「妥協しない姿勢」が印象に残っているというお話をお聞きしています。

菊本 うーん、カッコよく言ってもらうとそうなんですかね。プロフィールにいろんなコンクールだとか賞だとかを載せているんですけど、あれ自分で書いているんです。わかっていて書いているんだから、どんな場面でもそういうのを背負っていることを自覚しなければならない。下手な演奏をしたらいろんなところに迷惑がかかる訳です。そう思うから「準備しないと」という強迫にかかっています。賞は自分が欲しくて取ったものですけど、それが今強迫になっているところはあるんです。だから、妥協しないというか出来る限りの準備をして本番に臨みます。

京芸生と未来の京芸生へのメッセージ

菊本 僕から学生のみなさんに言ってあげられる事があるとしたら、大学にいる間はいっぱい失敗していいってことです。で、失敗した上でどうするか、自分が苦手なことを見つけたらそれに対してどう対処していくか。自分で解決策を見出すのは、結構苦しいですけどね。それに取り組むことを大事にしてほしいです。

 僕ね、大学院修了式の送辞で言いました。夏暑く、冬寒い京都芸大が大好きですって。京芸生はぬくぬく育たないっていう意味です。それに、京都芸大のこのコンパクトさ、僕はそれがいいと思うんですよね。がんばったら、自分の学年の音楽学部生全員覚えられるぐらい、1学年63人しかいないわけですから。美術の人からの刺激も受けられますし。そういう大学は、ここぐらいしかない。のびのび吹ける環境の中でいっぱい失敗しながら練習して、いろんなことを自発的に学んでいってください。

インタビュー後記

インタビュアー:音楽学部 管・打楽専攻(トランペット)4回生 石原 舞

(取材日:2012年1月29日)

 今回、菊本さんにインタビューさせてもらって感じたことは、とても自分に厳しい人だ、ということでした。それは、「本番で100%の力を出すために、140%の力で練習をする」という言葉を聞いた時の事です。
 「当たり前の事」を1から身につける作業はとても大変で、私はつい「わかったつもり」になり、怠慢になってしまう事がよくあります。でもその部分をしっかり見つめ、その時の自分にとっての課題と向き合って練習していく事は本当にすごい事だと感じました。
 ですがそんな菊本さんでも、大学生のうちは沢山の失敗をしたという話を聞き、少し勇気づけられました。
失敗をするのはとても怖い事だし、辛い思いも沢山すると思います。私は今までできる限り失敗をしないための練習をしていたし、失敗してもその事実から目を背けようとしていました。
 ですが今回のインタビューで、失敗を恐れずに受け入れ、そこから前進する事で、自分の新たな可能性を広げる事ができるという事を学んだように感じました。

Profile:菊本和昭【きくもと・かずあき】トランペット奏者

京都市立芸術大学音楽学部卒業。フライブルク音楽大学への交換留学を経て、2005年同大学院音楽研究科修了。京都市交響楽団のトランペッターとして活動し、
2012年3月にNHK交響楽団の首席奏者となる。今、若手No.1トランペッターとしての呼び声も高い、将来有望な演奏家の一人である。