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藤井 浩基さん 4/4

4.音楽の引き出しをもつ


わらべ館(鳥取市)夏休み自由研究講座で子どもたちをサポート

interviewer_music研究活動の他にも何か取り組まれている活動はありますか。

藤井 山陰というフィールドで,音楽教育を通していかに地域貢献できるかを模索しています。たとえば鳥取県は,唱歌《故郷》で知られる作曲家の岡野貞一など,童謡や唱歌に関わりの深い音楽家を輩出しています。鳥取市にある童謡・唱歌とおもちゃのミュージアム「わらべ館」では,童謡や唱歌,鳥取県ゆかりの音楽家についての資料収集や情報誌編集に携わっています。夏休みには,小学生を対象に,同館所蔵の資料を用いて,「童謡や唱歌について自由研究をしてみよう」というプロジェクトを行っています。音楽の自由研究ってめずらしいでしょう。テーマに悩む小学生や保護者にも人気で(笑),毎年すぐいっぱいになります。


近著『日韓音楽教育関係史研究』

interviewer_music今後に取り組みたいと考えていらっしゃることはありますか?

藤井 「日韓音楽教育関係史研究」に取り組んでおり,今後も続けていきたいです。年度末に勉誠出版から同題の単著を刊行する予定です。

 また,最近は日韓の交流で生まれた音楽作品の復元なども手がけています。昨年の夏,戦前の舞踊曲《鶴》を復元上演しました。日本の作曲家・高木東六と朝鮮の舞踊家・趙澤元によって作られ,1940年に日比谷公会堂で初演されましたが,戦禍で楽譜が行方不明となり幻の作品となっていました。2年前に高木東六氏のご遺族から楽譜の整理・管理を依頼された折,高木氏宅で手書きの楽譜の一部を発見しました。日韓の研究者や舞踊家にも声をかけ,日韓協働で復元作業を行いました。この件について,私が韓国の研究所にこの楽譜を「寄贈した」と一部のメディアで報道されましたが事実ではありません。楽譜は今も私の手元で管理しています。復元上演は,鳥取市のわらべ館とソウルの国立劇場の二会場で実現しました。


朝鮮舞踊曲《鶴》復元上演でのカーテンコール(2016年・鳥取市)

interviewer_music今,ゼミ生は何人くらいいらっしゃるんですか。

藤井 12名の学部生・院生の指導教員をしています。

interviewer_music当時の同級生の方との交流は今も続いたりしているんでしょうか。

藤井 大学院時代の同級生に,私の学生の進路相談をすることもあります。また,前後の卒業生の方や先生方,中国から来ていた留学生とも,今でも交流があります。

interviewer_music学生の間にやっておいた方がよいと思われることがあればお聞かせください。

藤井 私は,自分が苦にならずに自然に身体が動いてしまうものを研究テーマにすることが理想だ,とよく学生に話します。そうでないと長続きしませんし,いい研究になりません。仮にニッチなテーマでも,自分だけの何かを見つけることが大事だと思います。やり続けているうちに意外なところで興味をもってくれる人がいるものです。

interviewer_music藤井さんが興味を持たれた韓国のことも,当時はそんなにメジャーではありませんでしたよね。

藤井 はい,隔世の感があります。当時は,言葉の勉強のために韓国語の本を買おうにも売っていませんでした。大阪に韓国専門の書店があったので,京都から買いに出かけたことがありました。

 1990年代,2000年代前半は,日韓関係も比較的よい時代で,2002年のサッカーワールドカップの日韓共催や韓流・日流ブームもあり,交流や研究もしやすい時期だったように思います。このところ,日韓関係が冷え込んでおり,今後の動向が気になっています。

interviewer_music在学生と受験生にメッセージをお願いします。

藤井 京都芸大は,落ち着いて勉強できる環境にあり,各分野の第一線でご活躍の先生方から丁寧な指導を受けられる大学だと思います。京都は,古今東西の芸術や文化が交錯し,多種多様な音楽を体験できる街ですから,音楽を学ぶ上で何よりの環境です。

 音楽の学生にとって,自身の専門を究めることはもちろん大事ですが,一方で「音楽の引き出し」をたくさんもっておいてほしいです。私が担当している音楽科教育学は,まさにたくさんの「引き出し」が必要です。さらに,引き出しから取り出した音楽の魅力を,いかにうまく子どもや一般の方々に伝えることができるかが問われます。京都芸大の卒業生で,音楽教育に携わっておられるすばらしい方を多数知っています。京都芸大で「音楽の引き出し」をたくさん作ってください。

インタビュー後記

 「学生時代に学んだこと,吸収したことが今につながっている」,藤井さんにインタビューさせていただいて,一番心に残った言葉です。藤井さんが京都芸大で学ばれたのは,大学院の2年間であったにもかかわらず,当時のことを鮮明に記憶されていることから,いかに密度の濃い学生生活を過ごされたかが窺えました。特に,大学院時代のノートを今でも持っておられることには驚きました。お話を伺いながら,豊富な経験は視野を広げるだけでなく将来における糧になると改めて感じました。

 また,学生のうちに「苦でなく続けられるものを見つけておく」という言葉が印象的でした。音楽を続けていく中で,自分はどのような道に進むのか,その先はどうなるのか,悩んだり不安に思ったりすることもありますが,学ぶということに終わりがない限り,追求し続けることが重要だと感じます。何かを継続できる力,続けてきたという事実が強みとなり,自信を生むのではないかと思います。

 卒業を控えている私にとっては残り少ない学生生活ですが,どんなことに対しても貪欲に,そして,ご縁を大切に貴重な時間を有意義に過ごしたいです。

真鍋実優(音楽学専攻4回生*取材当時)

(取材日:2016年10月18日・本学大学会館にて)

Profile:藤井 浩基【ふじい・こうき】大学教員

1967年鳥取県生まれ。1993年京都市立芸術大学大学院音楽研究科(修士課程)音楽学専攻修了。2003年韓国国立韓国芸術総合学校音楽院客員研究員。博士(芸術文化学:大阪芸術大学)。

専門は音楽教育学。日韓音楽教育関係史,地域の音楽の教材化をテーマに研究を重ね,著書に『日韓音楽教育関係史研究』(勉誠出版,単著),『島根の民謡』(三弥井書店,酒井董美氏と共著)などがある。

現在,島根大学教育学部教授(音楽科教育)。