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鎌田 邦裕さん 2/2

3.やるべきことに向かって 進み続けること

卒業後、京都芸大の大学院に進むことを決めたのはなぜですか?

鎌田 将来的に大学で教員として教えたいという思いがあり、そのために大学院での学位が必要だと思いました。京都芸大の大学院にした理由としては、学部の4年間では学びきれていなかったことを同じ先生方に教えていただきたかったからです。また、私のレッスンを受ける生徒さんがいたり、いろいろな人とのつながりができていたりしたので、京都の地を離れたくなかったということもあります。

大嶋研究室での集合写真(後列左端、大学院時代)

大学院ではなく、留学することは考えなかったのでしょうか?

鎌田 もちろん留学することも考えました。その下調べも兼ねて、大学3回生の夏休みにドイツとオーストリアを3週間かけて一人旅で回ったんです。その間、現地の大学の先生にレッスンを受けて回りましたが、そのときは自分にとってピンとくる先生がいなかったんです。私の場合は学部生の頃からありがたいことに日本でオーケストラの仕事にも呼んでもらっていましたし、日本で学ぶこともまだまだたくさんあると思って、最終的には大学院に進学することにしました。
ただ、海外での経験はとても貴重な財産になるのは間違いありません。昨年、ドイツで開催された国際コンクールに初めて参加したのですが、日本とヨーロッパとの気質の違いとか、コンクールに対する考え方の違いとか、とても刺激を受けて得るものがたくさんありました。大事なのは、自分が何をやりたくて、そのためには何をしなければいけないかが見えていることだと思います。

どんな進路を選んでも、前に進み続けるという意識が大切だということですね。

鎌田 そうです。自分がやるべきことが見えていないと、「何のためにやってるんだろう」とか、「何をしたらいいんだろう」と苦しくなってくると思います。現在の自分の演奏と理想としている演奏に乖離がある場合にその理想に近づけようと努力するのと同じで、自分の人生を考えたときにこうなりたいという理想像があるのなら、それを実現するためには何が足りていないのかを考えてみると、今するべきことが見えてくるのではないでしょうか。そのためには、とにかくやってみる、動いてみるというのがすごく大切だと思います。

私は将来、オーケストラで演奏できるようにはなりたいですが、それだけにとどまらず室内楽などいろいろなことができる演奏家になりたいと思っています。でも、生活のことを考えるとオーケストラ奏者になれば安定しますよね。

鎌田 演奏家として生計を立てることを一番に考えれば、安定という意味ではそうかもしれません。しかし、フルートの場合、ほかの管楽器と比べるとソリストとしてやっていける可能性も多少はあるように思いますし、活動の幅はオーケストラに限らず、ほかの楽器よりも広いと思います。学生のときには、オーケストラに就職しないといけないんじゃないかという固定観念というか、脅迫観念みたいなものに駆られる気持ちになるのも分かります。音楽で生活していくためには就職しないといけない、だからその就職先としてオーケストラ、という発想ですよね。しかし、だれかに雇ってもらうことだけを考えず、そうではない道も探して仕事を自分で作っていかないといけないとも思うんです。

自分で仕事を作っていくのもアーティストということでしょうか?

鎌田 そう言えるかもしれません。特に音楽家にとって、今の時代はYouTubeなどを使って自分で仕事に繋がる表現の場を作り出しやすいのは確かですよね。でも、結局は何をしたいかが一番大事なんです。みんながオーケストラ奏者になりたいと言っているからという理由でそれを目指す必要はないし、流行っているからといってYouTubeで活動しないといけないということもありません。繰り返しになりますが、他人の言うことに惑わされることなく、自分が何をしたいかを常に分かっていることが大切なんだと思います。

4.演奏以外のこともできるように

学生の頃から積極的に活動されていますね。

鎌田 私は20歳の頃から故郷で毎年リサイタルを自主開催し、今年で山形では10回目を迎えました。リサイタルを始めたきっかけの一つは演奏の機会を増やすためで、レパートリーを広げるためにも、本番を経験することが必要だと考えたんです。そのほかにも学生時代からオーケストラでエキストラの仕事をいただけたのは、人とのつながりやご縁が大きいですね。というのも当時、関西のオーケストラに私と同じ山形出身のフルート奏者の方がいらっしゃって、お声がけいただいたお仕事をきっかけに知り合った方々から、次第に声をかけてもらえるようになったんです。そういった学生の頃からの活動が今もずっと続いています。

今後の夢や目標について聞かせてください。

鎌田 「文化の地産地消」ということを大事にしなければいけないと思っています。これまで応援してくださった方々への恩返しの気持ちだけでなく、聴き手となるお客さまの感性を豊かにし、さらに地元で活躍できる音楽家を育てていきたいです。そして、音楽は本来、だれにでも平等に与えられるはずのものですが、幅広い方々に興味を持ってもらう機会が少ないように感じています。もちろん演奏家として一流であることは必要ですが、そういった機会を作るためには演奏以外のこともできるようにならなければいけません。例えば、リサイタルの中でさらに音楽に関心を持ってもらえるようにトークを取り入れたり、お客さまを巻き込んだワークショップをしたりすることで、お客さまと演奏家が同じ世界を楽しめるようにするなど、いろいろな方法が考えられると思います。

京都芸大を目指す受験生に一言お願いします。

鎌田 受験生の皆さんはきっと音楽を学ぶために京都芸大を目指していると思いますが、大学に入学したからそれで終わりというわけでもなければ、卒業すれば望む仕事が用意されているわけでもない、想像以上に厳しい世界です。しかし、それでも本当に音楽が学びたいという覚悟や熱意がある人なら、京都芸大はとても良い環境だと思います。厳しさ以上に音楽に対する気概があれば、きっと道は開けますし、京都芸大にはそのチャンスがあるので、ぜひチャレンジしてみてください。

 

日本音楽コンクール受賞記念演奏会にてセントラル愛知交響楽団と共演

小学校でのアウトリーチ活動

インタビュー後記

渡邊桜子(音楽学部管・打楽専攻(フルート)3回生*)*取材当時の学年

音楽家である前に人間としての価値観をしっかりと持っていらっしゃる方なのだと感じました。そんな鎌田さんのお話はどれも胸を打たれるものばかりでしたが、中でも印象的だったのは、「いかなる状況下であっても、歩みを止めず進み続けることが大切」という言葉です。学生時代から沢山の経験を積み上げ、等身大の自分を正確に捉えるということを続けてこられた鎌田さんだからこその言葉だと思います。
今回お話させていただいて感じたものを大切に、私も堅実に自分自身や音楽と向き合い、一人の人間として魅力のある演奏者になれるよう日々邁進していきたいです。

 

松本拓也(音楽学部管・打楽専攻(ファゴット)3回生*)*取材当時の学年

京都芸大に入学する前から今に至るまで、「今の自分に足りないものは何だろう」と常に自らを客観視することを大切にされていて、その結果が現在のご活躍であることを知りました。
若くして成功を手にした音楽家の存在を目にすると、どうしても自分と比較し、焦燥感に駆られてしまいがちになりますが、鎌田さんのお話には「人それぞれ違った人生の歩み方がある。周りを気にすることなく自分自身としっかり向き合うことが最も大事なんだよ」というメッセージが込められているように感じました。目標に向かって一歩ずつ着実に進むことを大切に、これからも精進しようと思います。

(取材日:2023年1月19日・本学にて)

Profile:鎌田 邦裕【かまた・くにひろ】 フルート奏者

1993年山形県鶴岡市生まれ。2018年京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。第23回びわ湖国際フルートコンクール一般の部入選、第17回仙台フルートコンクール一般の部第3位、第91回日本音楽コンクール フルート部門第2位および岩谷賞(聴衆賞)など、受賞多数。2014年から出身地の鶴岡市にて毎年リサイタルを開催。2021年、2022年には京都・東京・鶴岡の3都市にてソロリサイタルツアーを開催。2023年3月には庄内町で山形での開催10回記念公演を行った。現在は京都、鶴岡、東京を拠点に、オーケストラへの客演や、ソロ・室内楽の演奏、後進の指導に力を注いでいる。2023年京都市文化芸術きらめき賞受賞。鶴岡市から「鶴岡ふるさと観光大使」を委嘱され、故郷の魅力を発信している。
https://www.kamatakunihiro.com/