インタラクティブ・アート

鑑賞者の動作や所作に相互作用しながら作品の体験が変化する美術作品をインタラクティブ・アートと呼ぶことができる。いかなるタイプの作品もなんらかのインタラクティブ(相互作用的)な要素を含んでいるという指摘もあるが,多くの場合センサーやスイッチやコントローラーなどのテクノロジーを介して,観客の振る舞いや入力情報に応じて異なる変化を見せるメディアアートやデジタル・アートの分野で発展してきた美術作品を意味する。

かつては高度な計算機システムであったコンピュータの領域で,1960年代にグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)を備えたツールとしての可能性の探求がはじまり,机上の空間をモニタ画面上に再現するシステムが,計算機科学者アラン・ケイによって構想された。1983年からアップルコンピュータによる商業用コンピュータに取り入れられ,デスクトップ・タイプのGUIが普及していった。

インタラクティブ・アートは,こうした電子情報機器の発展と普及に並行しており,電子回路やコンピュータで制御される人工の空間やオブジェと鑑賞者による物理的な振る舞いとのあいだに,相互反応を促すシステムを探求する。そこで特殊なインターフェース,情報表示の新たな形態やツール,人間や機械との新たなコミュニケーションの様態といった新しい体験がもたらされる。仮想現実(ヴァーチュアル・リアリティVR)や拡張現実(オーギュメンテッド・リアリティAR)を応用したアートもこの範疇に入るだろう。

メルボルンに生まれ,ロンドンで1965年にアーティスト・プレースメント・グループを共同設立し,1991年からZKMの設立にも携わったジェフリー・ショーは,この分野の第一人者であり,アルファベットで構成されたマンハッタン,アムステルダム,カールスルーエをモデルとした仮想空間を自転車のペダルを漕ぎながら散策できる《レジブル・シティ》(1988-91)は,ZKMでのタイムベースト・メディアの美術作品の保存・修復のモデルケースになった。また藤幡正樹《ビヨンド・ページズ》(1997)は,プロジェクターでテーブルに投影されたイメージに鑑賞者がペン触れる動きにあわせて,アニメーションや音が展開するインタラクティブな本をテーマにしている。

インタラクションのための入力情報デバイスとしては,手で操作したり自転車のペダルや自動ドアのように足元で作動する物理的なスイッチやコントローラーから,赤外線やカメラを通して人の存在や振る舞いを遠隔的に感知するもの,体温や脳波など生体情報を感知する装置,デバイスの傾きや位置情報などのパラメーターの変化に応じるものまでさまざまである。近年日本で提唱されているデバイスアートもインタラクティブ・アートの要素を多くもっているが,デバイスアートは必ずしも美術館やギャラリーなどでのインスタレーションの鑑賞を作品の目標に定めていないことで特徴づけられる。

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