映像

商業的な物語映画とは異なる美的表現の探求のひとつとしてフィルムを用いたアートが発展し,アヴァンギャルド・シネマや実験映画とも呼ばれたその歴史は,半世紀以上におよぶ。インスタレーション・アートの一要素としてフィルムが用いられる場合,適切な映写機を用意し,展示期間中に入念なメンテナンスが必要とされる。プログラムが組まれて上映されたり,展示場でフィルムの映写がループされたりする場合がある。他方で,フィルム作品は,フィルム専門の修復家や技術者の貢献が不可欠であるが,経年による劣化や損傷,機材や技術者の減少という問題を抱えている。フィルムで制作された作品が,デジタルで修復されてリマスタリングされ,ビデオやDVDでソフト化される機会も増えている。また流通したデジタル化バージョンがウェブ上にアップロードされて閲覧できるものもある。それによって作品へのアクセスは容易になっているが,これらはマスターとは異なるフォーマットやヴァージョンであることに注意すべきである。

1996年に視覚詩や実験音楽のアーカイブとして立ち上げられた非営利のUbuWebは,現在もっとも包括的に実験映像も含めたウェブ上の映像アート・アーカイブとして活動を継続している。映像作品は,シングルチャンネル・ヴィデオと同様にデジタル情報の再生を通して展示・視聴されることもある。フィルムの物質性やシングルチャンネルとは異なる映像の時間性や物語展開は,1960年代のエクスパンデッド・シネマの興隆のなかで重要な要素として認識され,1970年代からヴィデオカメラの流通の結果、ヴィデオ作品が多く制作されるようになった。1990年代のヴィデオ・プロジェクターの民生化以後は,プロジェクターを使って上演されるマルチチャンネル・ヴィデオ作品が多く展示されるようになるが,フィルムを用いた作品はその後も制作され改めて注目されている。

ページトップへ戻る