ロジックの保存・修復

コンピュータを基軸として計算や生成,相互作用を行なう作品の変遷を60年/80年/95年と三つの時代区分に分け年代毎におってきた。保存・修復においては,いずれの時代区分においてもそれぞれ異なる技術的な問題点を抱えている。しかしながら、その焦点はいずれも共通してリアルタイム性にあるといえる。なぜなら,すでに述べてきたように,コンピュータを用いた制御を構成要素とする作品は,基本的にリアルタイム処理を基調としている。そして、そのリアルタイム処理が作りだす《時間》こそが、コンピュータを介したタイムベースドメディア作品の《オリジナル性》を特徴づける大きな要因となっている。無論、その《オリジナル》のリアルタイム処理の機微は、制作された時点における作者や技術者の逐次的な判断,そして選択された各種構成要素のスペックによって決定される。すなわち、作品はその時代の環境や作者・技術者の身体性と結びついたものであるといえる。そのような作品の保存・修復において,全ての技術的構成要素の厳格な保存はもちろんのことであるが,その上で,今までその限界性もすでに見てきたことからわかるように,〈オリジナル〉を形作る技術的かつ意味的ロジックの機微を伝える,精緻で詳細な記録が必要であるといえる。保存・修復を行なう際は,テックライダーなどによって技術要件を詳細に記載するとともに,その機材の選択が作品にとって文脈的な判断の行われているのか,また,別の機材ないしはソフトウェアにエミュレートした場合,どのような質の時間性を作りだすことが最も適切なのかなど,意味的な論理の記録を行なうことによって,将来的に,再制作やバージョンアップがより確実な判断のもと行われるよう,これら統合的な作品ロジックの保全が望まれる。

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