スライド

スライド・プロジェクターは,写真フィルムに光を透過させて,映像をスクリーンに拡大投影する。映像を小さなフィルムに収めて,利用・保管することができたため,プレゼンテーションや教育の場で主に使われた。1950年代以降,家庭でも普及して一般的に使われるようになった。有線リモコンや自動切り替えにより,写真を一枚ずつ順送りにすることができ,その利便性から1970年代に写真のインスタレーションの手法としてありふれたものになったが,2000年代以降,ヴィデオ・プロジェクターやコンピュータで作成されたプレゼンテーションが主流になるにつれて廃れていった。2000年代にコダックの主流だった製品の製造が中止された。一部のコダックや富士フィルム製品について製造やサポートの取り組みがつづけられているが,デジタル写真の発展によって,その技術は廃れつつある。
写真スライドは35mmフィルムと同様に扱うことができるが,収納がコンパクトであるという利点に対して,湿気や熱や光や化学物質に弱く,複製にコストがかかるといった欠点をもつ。保存には,低温度で,化学的影響を与えない素材で作られたコンテナーに暗い環境で保存されることが推奨されている。また乾燥しすぎたり,密封されていたりすることも劣化の原因になる。長期間展示しつづけることは,極端な熱や光にフィルムを曝す環境に置くことになり,劣化を早める。展示には,保管用のマスターではなく,サブ・マスターを複製した展示フォーマットを用いるべきだとされている。しかし,複製にかかるコストの増大という問題が残る。
これまで慣習的にアナログの複製が行われてきたが,スキャナーを使用してデジタル化して,美術家が満足できる質感を実現する新たな複製の手段が模索されている。フィルム映像のデジタル化は,映画産業でも発展してきている分野であり,それらの知見を活かしながら低コストで確実な方法が確立されることが待たれている。
「実験工房」のメンバーは,1953年にソニーの前身である東京通信工業から,テープレコーダーと教育用装置オートスライドを借りて,スライド写真の映像にともなうミュージック・コンクレート作品を発表した。
ナン・ゴールディン《性的依存のバラード》では9台のスライド・プロジェクターを使って,ミックスされた音楽に合わせて写真が投影される,映像のディゾルブや同期に注意が払われている。

ページトップへ戻る