windows 95以後(95年−)

グラフィックユーザー・インタフェースやネットワーク機能を強化したOS,Windows95の発売を一つの象徴として,情報革命の波が押し寄せる。それとともに,デジタルテクノロジーが社会・文化を支える基盤となりはじまる。広範な情報共有の時代が訪れ,プログラミング技術や電子工作などデジタルテクノロジーのさらなる民主化が進む。特に、従来高度な知識が必要とされてきたプログラミング開発が,90年代後半より,プログラミング言語をわかりやすくした簡易プログラミング言語と呼ばれるスクリプト言語やビジュアルプログラミング言語が登場することにより,一般レベルでのデジタルテクノロジーの活用と応用が広く進む。

視覚的な図像を扱うことに特化したビジュアルプログラミング言語MAX/MSPやスクリプト言語Processingは,その簡易さと直感的な操作性の高さからプログラミング技術を芸術領域に大きく拓いた。これら簡易プログラミング言語は,国内外の多くの大学において情報系の初学者教育に取り入れられ,00年以降のメディア・アートの基本ツールとなっている。また,Arduinoなど,センサーやアクチュエータを制御するための廉価なI/Oモジュールが登場したことにより,物理的な挙動を伴った対話型の作品の制作が容易になる。Arduinoは,Processingとの共通性も多く,同様に初学者教育に用いられ,今日のデジタルテクノロジーを介した作品の主要な構成要素となっている。加えて,プログラミング環境や電子工作技術の民主化が進むと同時に,3Dプリンタやレーザーカッターなどを代表とし,数値制御によって加工や切削,立体造形を行なうデジタルファブリケーション技術も,広く普及し始める。このように,プログラミング,電子工作,立体造形技術が,従来の専従的な領域から,一般的な次元に降りてきたことによって,高度な技術力を持ったエンジニアの手を介さず,アーティスト自身の手によって構成要素として取り入れられた作品が登場し始める。

例えば,2009年に文化庁メディア芸術祭で,グランプリを受賞したDavid Bowen「Growth Modeling Device」。作品内に設置された玉ねぎの成長を画像スキャンし,そのまま3Dプリンタで出力していくという,民生化されて以降の,プログラミング,電子工作,デジタルファブリケーションを取り入れた動的インスタレーション作品である。この作品の,3Dプリントを行なう機構は,「RepRap」という3Dプリンタのオープンソースプロジェクトを技術的背景としており,作者自身がプログラマ/エンジニアとして,制御プログラムの作成からセンサーや3Dプリンタなどの機器の組立てを行っている。

今現在使われている技術環境が今後どのように淘汰され,また作品の管理システムをどのように構築,一般化すれば良いのかは早急な議論の必要性がある。現在は,オープンソースカルチャーの後押しもあり,使用されている技術情報へのアクセス,ソフトウェアのバージョン管理や情報の共有がすすんでいることから,作品情報の管理システムの構築が容易になっているが,将来的に,修復可能性といった面で必ずしも保証されているわけではない。

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