パフォーマンス

これまで美術館でイベントやパフォーマンスが行われることは少なくなかった。ヨーゼフ・ボイスのフェルトの衣装のように,パフォーマンスに用いられた衣装や小道具を展示してパフォーマンスを示唆したり,写真や映像記録を使ってイベントの様子を伝えたりするという方法が行われてきた。また,アラン・カプローのハプニングのようにインストラクション(指示)が行為を示唆する場合,指示書が展示されることも多い。近年は,戦後美術の回顧展などの機会が増えるにしたがって,美術家やダンスカンパニーによってイベントやパフォーマンスの再演が行われる機会が増えてきている。

美術家によるパフォーマンスだけでなく,これまで舞台を作品の発表としてきたダンサーやダンスカンパニーも,美術館やギャラリーでの発表の機会が増えてきている。トリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニーは,1970年代に構築されたオフ・シアターのダンス・メソッドを,若いダンサーたちに継承し,その再演を2007年のドクメンタをはじめとして,各地の美術館で行ってきた。近年は,「ミュゼ・ド・ラ・フランス」のように美術館など劇場とは異なる場所でのパフォーマンスをメインとしたダンスカンパニーも登場してきている。イベントやハプニングの要素をもったアートを「ライブ・アート」と呼び,その歴史についても多く検証がなされてきている。そこから写真や映像記録だけでなく,パフォーマンスそのものをどのように美術館が保存し再演できるのかという問題に大きな関心が集まっている。

2004年にテートは,はじめてスロバキア人のローマン・オンダックのパフォーマンス作品「Good Feelings in Good Times」(2003)を購入したように,パフォーマンスは購入され美術館のコレクションの対象になりはじめている。テートは,ティノ・セーガルのインスタレーション《This is propaganda》(2002)を例に挙げながら,美術家が,物質的な痕跡や作品の記録をすべて拒絶するケースについても述べている。セーガルは,証明書や指示書,写真やビデオなどすべてを作品にとって代わることはできないと拒否した。にもかかわらずセーガルの作品は,所有者が口頭で習うという方法で購入することができる。熟練のダンサーが若いダンサーにダンスのステップを身をもって教えるように,「身体から身体への伝達」が重要視されるのである。どのような空間を選択してどのように作品をインストールするか,作品を再演する「解釈者」のオーディションの方法,良いインスタレーションを行うための出演者のペース配分などといったことが,口頭の内容に含まれている。この場合には,作品の保存は,記憶が中心となり,保存・修復の方法は美術家からどのように作品をインストールすべきかを学び,どのようにその知識を後に継承するかの方法の探求にある。

2014年には世界最大規模を誇るアートフェアであるアート・バーゼルで,「14の部屋」という企画が行われた。この催しは,2011年にマンチェスター国際芸術祭で行われた「11rooms」に3人の作家による新作を加えたものである。期間中,2週間に渡ってそれぞれの部屋で14人のアーティストがパフォーマンスを実演した。

このように美術館やギャラリー主導のパフォーマンスは,特別なイベントとして行われるほか,展示期間中に定期的に上演されることもあり,劇場と異なる収益構造や過重な上演スケジュールによるパフォーマーの負担をめぐる批判的な見方もなされている。今後,美術館によるコレクションの収集・保存方針とあわせてパフォーマンスの展示のあり方も含めての議論は課題となっている。

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