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森村泰昌さん 2/4

2. 京都芸大~非常勤講師時代

非常勤講師時代

interviewer森村さんが非常勤講師をされていたときは、どんな先生でしたか。

森村 まあ、非常勤講師っていうより先生の助手だったし、教えるってことはほとんどしていませんでした。教えるどころか、ずっと学生に教えられてました。

 というのも、新しい美術の時代が来ていた時期だったんです。僕が非常勤講師として京都芸大に行ったのが1980年頃で、10年くらいいたのかな。その時僕は、30歳ぐらい。それまで高校とか短大とかの非常勤講師を掛け持ちで何箇所もやっていたり、いろんなことをしているうちに、写真が専門だったアーネスト・サトウ先生が、新しく「映像教室」なるものを開設するといって、京都芸大に助手として勤めてたんです。新しい美術の時代っていうのは、自分が学部生として在学していた時の70年代とは違う、80年代の芸術、関西ニューウェーブとか、今までになかったような面白いものが学生の中から生まれてきてたんですね。そこに建畠さん(建畠晢(たてはたあきら)京都芸大学長)とか篠原さん(篠原資明(しのはらもとあき)京都大学教授)などの若い美術評論家が学生の論理的なバックアップをして、新しい動きをみんなで盛り上げていた時代だったんですね。
僕はその時、学生たちがする新しいことに聞き耳を立てていたんですよ。新しいことをやるんだって話が学生から出てくるのを聞いて、僕は全然わからないから学生に聞くんですよ。「こっちがいいんじゃないか」と思って言っても、「それは古いですよ」って言われたてへこんだり。学生に「今は何々ですよ」って言われたから、「そうか今はそういう感じなんか」って思っていたら、2ヶ月ぐらいしたら、「何やらってもうだめですよね」とか学生言うのを聞いて、「えぇーっ、もうダメになったん!」とかショックを受けたりしてましたね。

 それで、僕はその頃は何もやっていない、何もやっていないっていうか、試行錯誤してました。人知れず発表しないで制作していました。学生たちに、森村さんも個展ぐらいやってくださいよーって言われて、そうやなって言ってはいましたけど。

 そういう新しい時代にきてましたから。教えるなんてとんでもなかったです。

京都芸大~横割りシステムの初期に立ち会う

interviewer写真に本格的に携わるのはアーネスト・サトウ先生に出会われてからだと思うんですけど、学部生時代にもデザイン科で写真を学ぶ機会はあったのでしょうか。

森村 広い意味で表現というのはデザインではないかなどと考えて、デザイン科に入学したんですが、確かにデザイン科では、幅広くいろいろな表現領域を知る各種の実技授業がありました。ですからデザイン科にも、実際に撮影したり現像をしたり引き伸ばしをしたりっていう写真の授業はあるんですね。他にも、印刷の歴史ですね。リトグラフとかシルクスクリーン印刷とか、それがどういったものなのかを、実際に実技で知る授業があるんです。

 それとは別に、ちょうど僕らが入学した1970年頃っていうのは、学年改革があって、縦割りじゃなくて横割りにして、専門間のつながりを持たそうという方針が出てきた。縦割りだと、例えば入学したときに日本画専攻で入ったら4年間ずっと日本画をやる。そうすると、それ一本になって横のつながりがないんです。でも、日本画をやる人でもカメラを使うこともあるし、油画をやってても版画とは関連がある。版画、写真の2つは美術をやる者には必要ですから。だから、その2つの部門について、どんな学科の人でも参加できる教室を設けたわけですよ。

 基本的には3回生以上が対象だったと思うんですけど、半年間は、例えば日本画にいても染織にいても版画を取ることができるんです。そうすると、銅版画、リトグラフなど版画をひととおり全部教えてもらうんですね。写真の場合は、半年間をずっと写真やるんです。

 ですから、僕が非常勤講師をしていたころに、いろんな学部の学生がその教室に来て、すごく面白かったです。中には、やっているうちに面白くなってしまって、写真を専攻するために他の学部から移ってきた人も出てきていましたね。

インタビュアー:大学院美術研究科修士課程 芸術学専攻2回生 増田愛美

(取材日:2012年2月15日)

Profile:森村泰昌【もりむら・やすまさ】美術家

1975年、京都市立芸術大学美術学部デザイン科卒業、同大学美術学部専攻科修了。1985年、ゴッホの自画像に自らが扮して撮影するセルフポートレイト手法による大型カラー写真を発表。1988年、ベネチアビエンナーレ/アペルト部門に選ばれ、以降海外での個展、国際展にも多数出品。古今東西の有名絵画のなかの登場人物になる「美術史シリーズ」、映画女優に扮する「女優シリーズ」、20世紀の歴史をテーマにした「レクイエムシリーズ」などの作品で知られる。2011年度秋の紫綬褒章を授与。