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森村泰昌さん 4/4

4. アーネスト・サトウ先生とのご縁

アーネスト・サトウ先生とのご縁

interviewer絵本作家としてうまくいかなかったことで、また京都芸大に非常勤講師として戻ってくることになってくるんですから、タイミングの妙ですね。

森村 アーネスト・サトウ先生とも、卒業してからは特別やりとりはなかったですからね。僕が京都芸大にいくのも、サトウ先生と写真教室をずっと一緒にやっていた、京都芸大の版画の卒業生の、橋本文良(はしもとふみよし)さんが名前を出されたからなんです。橋本さんは、病気がちだったサトウ先生の分までずいぶん頑張っておられたんだけど、別な仕事をされることになって、新しい人を探されてたんです。何人かに声を掛けた中に僕が入ってたんです。

 橋本さんはその後、故郷の富山の砺波市美術館で、版画家として活動しながら美術館のキュレータをされてるんです。2005年にそこで僕の展覧会をさせてもらったんです。で、僕は2012年に富山の高岡市美術館というところで展覧会をやるんですが、そこに橋本さんが砺波市美術館から移られて、副館長になっておられているんですよ。何というか、アーネスト・サトウ絡みの不思議な縁があるなと感じます。

 縁と言えば、僕の作品づくりをずっと手伝ってくれている、写真撮影の福永一夫は、僕が非常勤講師で京都芸大にいたときに映像教室の学生だったんです。日本画専攻だったんだけど、写真をやってみたらものすごいうまくて、彼もそれを自覚して、写真をやるようになったんです。それで、今も僕の作品を手がけてくれている。いろいろ繋がっていて面白いですね。

interviewerアーネスト・サトウ先生の元にいた人達とのつながりは、長い間生きているんですね。

森村 僕自身は、同じ大学の人を抱えようっていう気はまったくないんですけどね。でも、写真について言うなら、手伝ってくれる写真担当は、誰でもいいことはないんですよ。共通の、ある美意識というか、共通の写真世界を持ってないと、僕が「こうしてほしい」と言っても、その人にはそれが何のことかわからないっていうようでは、制作が成り立たないのでね。そういうことからすると、アーネスト・サトウという一人の先生のところで育った感受性が共有できているんでしょうね。言わなくてもわかる部分があるんですよ。そこがあるから、「もうちょっとこうちゃうん」って言ったときに、他の人が「えっ、なんだろう」ってわからなくても、その人は「そうですね」って動けるとか、そういうことはあるんですよ。

京芸生と未来の京芸生へのメッセージ

 制作をする上で、言葉にしなくても同じ制作感覚を共有できているっていうのは大きいです。自然と出来上がるものを精神的に共有できる部分があるからこそ、いろいろと面白いことが卒業しても出てくるんです。

 僕は、京都芸大は基本的には少人数制、つまり少ない学生とたくさんの教員の研究機関だと思います。教育を含む研究機関として、そもそも歴史がありますしね。世間的に見栄えのする部分は別の大学に委ねて、自分の中にずっしりしたものが欲しい人が来たらいいなと思う大学です。研究機関として、じっくりいろんなことができたり、じっくりというのは、僕なりに言うと“だらだら”なんです。何でもすぐに結果が求められる時代ですからね。そこで京都芸大は、芸術家の量産ではなく、時間のかかる研究に特化させていってほしいです。

 だから、そうだな。京都芸大は、「来てみりゃわかる」っていうのはどう。ダメかな。面白いところも自由なところも、実際に来てみたらわかりますからね。

 大学に来ると、いろんな人との間で自然と培われる共通する「空気」が身につくと思うんですよ。同じ場所にいて、自然と出来上がるものを精神的に共有する部分ですね。誰でも4年もいたらその場所が持っている「空気」に染まると思うんですけど、京都芸大という場所での染まり方は“悪くはない”って思います。

インタビュー後記

インタビュアー:大学院美術研究科修士課程 芸術学専攻2回生 増田愛美
(取材日:2012年2月15日)

 大学院から京都芸大に来た私から見て、京都市立芸術大学は、のびやかで、仲間の多い大学だと思います。基本的に自由主義だけれど、構ってほしいときは何故かどこからか人が集まってくる、そんな場所です。

 今回の森村さんにインタビューをさせていただいて、恩師、学生、現在の制作スタッフなど、森村さんが京都芸大を中心として出会った方の話題が多くあがりました。 森村さんは、在学中はもちろんのこと、卒業後は非常勤講師として大学に戻られているので、今も京都芸大出身者との交流の機会は多いそうです。同じ環境に身を置いた者同士だからこそ、制作に対する「共通の感覚」がいつの間にか染み付き、匂いをたどって集まってくるのかもしれません。そのような人々との出会いが、現在の森村さんの制作を支えているのだと感じました。

 森村さんがお話の合間に何度か「京都芸大っぽい」という言葉を口にされていましたが、その言葉が表す悪くはない「っぽさ」を、京都芸大で3年間すごした私も感じるところです。私にとっては心地よい空気感でした。森村さんの「来てみりゃわかる」というメッセージを読まれて、何かピンとくるものがあったら、その方はきっと「京都芸大っぽい」空気の心地よさを共有できると思います。

Profile:森村泰昌【もりむら・やすまさ】美術家

1975年、京都市立芸術大学美術学部デザイン科卒業、同大学美術学部専攻科修了。1985年、ゴッホの自画像に自らが扮して撮影するセルフポートレイト手法による大型カラー写真を発表。1988年、ベネチアビエンナーレ/アペルト部門に選ばれ、以降海外での個展、国際展にも多数出品。古今東西の有名絵画のなかの登場人物になる「美術史シリーズ」、映画女優に扮する「女優シリーズ」、20世紀の歴史をテーマにした「レクイエムシリーズ」などの作品で知られる。2011年度秋の紫綬褒章を授与。