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山本あいみさん 2/4

2. 漆工専攻時代

漆のこと

interviewer漆工専攻に進むことは最初から決められていましたか。

山本 大学に入って工芸基礎で漆工、陶磁器、染織と一通りやってみてからです。漆の制作過程が一番馴染んで、漆がいいかなぁって思いました。

interviewer漆工専攻は3回生から木工、きゅう漆、乾漆、加飾の4つの専門に分かれますよね。きゅう漆に決められた理由はどこにありますか。加飾などは結構細かい作業とか多そうですが。

山本 私は割と細かい作業を粘り強くするのが好きで、きゅう漆だったらシンプルに塗りだけで見せられるから、飾りがない分、形や仕事の丁寧さにこだわれるというところで決めました。飾りをつけるのは苦手で、何をつくってもシンプルになってしまうんです。色漆もあまり使わず、真っ黒の作品が多かったです。

interviewerやっぱり漆の黒の綺麗さを出したかったんですか。

山本 ぴかっとした感じに仕上げたかったんです。

interviewerそうすると、作品を作る時はシンプルな作品を目指してたのでしょうか。

山本 試行錯誤しているうちに結局、シンプルになっていくという感じです。オブジェ的なものを作ってみたり、小さい器を作ってみたり、パネルもやったし、順々にいろいろなことを繰り返しやっていて、あまり一貫したテーマはなかったです。

interviewer2回生の工芸基礎の時にカブトガニをモチーフにした作品を作られて、卒業制作のときもカブトガニを作られたというエピソードをお聞きしたのですが、何か思い入れがあるんですか。

山本 漆で作品を作っていくなかで、固い鎧を持った甲虫類や甲殻類の形や質感が好きだと気付いたんです。それで、1回生の時はカブトガニを選んで作ったんですけど、納得できていないところがあったのでもう一度4回生の時にも作りました。

interviewer漆を塗った表面って濡れたようなツヤだし、カブトガニは水の中にいるから、その雰囲気はマッチしていますよね。作品は、自分の好きなものを題材にして作っておられましたか。

山本 基本的にはそうだと思います。3年間という短い時間のなかで、今回はちょっと使えるものを作ってみようとか、大きな作品に挑戦しようとかいろいろやってみました。でもモチーフはいつも好きなものだったと思います。

interviewer最初の下地を塗る、漆を練る工程、艶上げの工程、どれが好きでどれが嫌いというのはありましたか。

山本 塗っては研いで、塗っては研いでという繰返しの作業は好きだし、それを「錆び」で繕うのも好きですね。発砲スチロールの成形はね、正直嫌いでした。

interviewer私は工芸基礎と漆工の授業を取って実際に漆の制作をしてみたんですが、乾漆の発砲スチロールの成形が難しいですよね。四角い発砲スチロールから出来上がりの形に頭の中から変形できなくて、削るのがすごい難しいなと思いました。発泡スチロールの白いのもいっぱい付いて取れなくて大変だし。

山本 確かに大変な作業ですよね。発泡スチロール自体は柔らかいし、いっぱい飛ぶし。

interviewer漆の工程はすごく地道ですよね。下地の時から丁寧に平らにしておかないと、最後の塗りの時につまづいてしまう。かなり根気のいる作業だと思いますが、そういう点から今の自分につながっていると思うことはありますか。

山本 学んだことは、計画的に作らなければいけないということです。学んだというより、最後までそれができなかったから課題だとも言えるんですけど。漆は小さい作業の積み重ねで作っていくから、最後に大きなチェンジができない。最初から、最後にこの形にするためにはと逆算して、作業工程を組まないといけない。でも私はあまり計画的なタイプではないので、ドタバタでした。今も計画不足な面は多々あって、正直苦手なままです。

大学生活

interviewer毎年の作品展に向かって仕上げるのは大変だったと思いますが、思い出はありますか。

山本 2週間前ぐらいからかな、全員大学に泊まり込み状態で、お風呂に3日間入ってないとか(笑)先生がご飯を作ってくださったり、いろいろお世話してくださるのに搬入が間に合わなくて。結局自己搬入ということもありました。

interviewer作家になりたい子達がまわりにいると、学外でグループ展に誘われることもあると思いますが、出展されていましたか。

山本 グループ展に出したのは1回だけです。漆って一つのものを作るのにすごく時間がかかるんです。年に1回の制作展と、「漆工展」という漆工専攻全体の展覧会と、漆の中でもきゅう漆だけでやる「きゅう漆展」の3つの展覧会があって、それに向けての制作だけで精一杯なところがありました。

interviewer芸大祭委員やアルバイトなど、制作以外の部分はどうでしたか?

山本 アルバイトもしてました。スーパーのレジ打ちとか、お好み焼き屋さんとか。

 芸大祭はイベント企画セクト(※部門)でした。芸大祭すべての企画のスケジュールを組んだり進行管理を担当するセクトです。

interviewer漆工では細かく積み上げる作業が好きだと言われましたが、芸大祭のセクトの中でも大変なイベント企画は向いてましたか。

山本 そうですね、私はイベント企画の中で主に進行管理をする役割が大きかったんですが、向いていた方だと思います。京都芸大って“京芸時間”っていう言い方があるんですけど、かなり時間に自由なところがあるので、一つの物事をスケジュール通りに動かしていくのがすごく難しい部分があるんです。その中で、物事がスムーズに進むように、細かく動くってことをしてました。仲の良かった友達が、イベント企画のセクト長だったし、私はタイプ的にはキャプテンじゃなく副キャプテンなので、その役回りが一番楽で向いていたと思います。前に立てと言われるとしんどいですけど。

interviewer「前に立てと言われるとしんどい」というのは、なかなか教員から出ない言葉だなと思ってびっくりしました。

山本 実は、教壇に立って大勢の前で話すとかっていうイメージがあまりないままに教員になってしまいました。自分の教師像は、先にお話ししたお二人の先生との関わりから、生徒との1対1の関係の理想像だけを持っていたところがあるので、最初はとてもじゃないけどダメで、「みんなめっちゃこっち見てる」ってひるんでました。

interviewer教育実習の時もすごく緊張されましたか。

山本 しましたよ、かなり緊張しました。緊張するとすぐ声が震えるので、それがイヤなんですよね。自分でも前に立つことは向いていないなと思いつつやっています。

インタビュアー:美術学部 総合芸術学専攻2回生 濵野志織

(取材日:2012年3月3日)

Profile:山本あいみ【やまもと・あいみ】高校教諭

2009年3月京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業、4月から京都府の北部にある府立高校の美術教諭として勤務。