閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

樫木知子さん 3/4

3. 良い絵を描きたい

描けたと思えた瞬間



「空のカーテンと虹色の石」
copyright of Tomoko Kashiki, courtesy of Ota Fine Arts

interviewer学生時代に悩んだことや葛藤はありましたか。

樫木 学部の時には「何をしたらいいか分からない」という悩みがありました。博士課程では論文と制作のバランスの取り方で悩んでいました。修士課程の時は“発表の場”を得て目標ができたので、葛藤はほとんど無かったです。

interviewer発表の場は公募展ですか。

樫木 公募展ではなく、個展やグループ展です。

 学部の卒業制作で同窓会賞をいただいたのですが、その作品は私自身、初めて“描けた”と思えた満足のいくものでした。それ以前は、合評や学内展などの際、「これで大丈夫なのだろうか」という気持ちで作品を提出していたんですけど、卒業制作展では「これすごいでしょ」というように、初めて堂々と展示できました。自分自身の「描けた」という感覚と周りの評価が一致した瞬間でした。この卒業制作の作品が、画廊の方の目に留まり、後の個展やグループ展での発表に繋がっていきました。

 「描けた」と思える瞬間を探してずっと制作してきたので、その作品が完成した時はゴールに到達したという感じでした。結果的にはスタートだったのですが。

interviewer在学中には、画家として生きていくことを考えておられたのですか。

樫木 けっこう能天気でした。将来のことは考えていなかったんです。「画家になりたい」というよりも「いい絵が描きたい」としか考えていませんでした。画家になるとはどういうことかも考えぬまま、いい絵を描けさえすればなんとかなるって思っていました。将来については能天気で、良い絵が描けるのかどうかということだけにビクビクしていました。ずっと描いていくっていうのは変わりようがなかったんです。

学生の間にやっておいた方が良いこと

interviewer学生の間にやっておいた方が良いことはありますか。

樫木 それは「先生の言うことを聞く」ことです。自由にしたいという気持ちは、自分もそうだったのでよく分かるんですけど、でも、そういうことは大学を卒業したらいくらでもできるんです。何かしらの制約を課されるというのはすごく貴重な経験です。自分では想像もつかない結果にたどり着くこともありますから。

 私は最初小さい作品を鉛筆で描きたかったんです。先生方にも「私は小さくていい」、「鉛筆でいい」って言っていたんですが、「大きな作品を描いてはどうか」という助言を受けて、無理やり作品サイズを大きくした経験があります。必然的に画材も鉛筆から絵の具に変わりました。自分一人ではあり得なかった変化です。

 とは言え私も、先生の助言を全て聞き入れることができたわけではありません。例えば「もっとドローイングの枚数を増やした方が良い」といつも言われていたのですが、それだけは何回言われてもできませんでした。やりたくないことをやるのって難しいですよね。その時やらなかったことを今でも後悔しています。もし何をすれば良いのか見当もつかなかったり、どうするべきか迷っている時は、「先生の言うことをとりあえずやってみよう」というようにシンプルにアドバイスに従ってみるのが良いと思います。きっとプラスになるはずです。

インタビュアー:美術学部 総合芸術学専攻2回生 古田理子
(取材日:2012年2月21日)

Profile:樫木知子【かしき・ともこ】画家

京都市立芸術大学美術研究科博士(後期)課程美術専攻(絵画)修了。
2006年京都市立芸術大学制作展同窓会賞、2009年VOCA展奨励賞、2012年京都市芸術新人賞受賞。
国内外で活躍する注目の若手芸術作家。2012年4月から本学非常勤講師。