閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

樫木知子さん 4/4

4. 画家として

画家として



「草を食べる」
copyright of Tomoko Kashiki, courtesy of Ota Fine Arts

interviewer画家としての喜び、楽しみ、逆に辛いことはありますか。

樫木 喜びを感じるのは、絵が完成した時です。絵を見た人から感想をもらうというのも喜びではあるんですけど、画家としての喜びはそういうものに依存していないです。

 作品が出来上がるまでは、本当に出来上がるのかという怖さを感じています。完成した後に1時間くらい眺めるのですが、その時が至福のときです。

interviewer絵には完成はないという人もいますが。

樫木 完成はあります。こうしたいっていう完成図が頭の中にあるので、その通りに絵の中に配置していって、思っているのと実際描いているものの違いを調整していく作業なので、完成は確実にあります。

interviewer頭の中の完成図は、クリアにあるんですか。

樫木 クリアではなく、もやもやしています。全体的にもやもやしているので、はっきりしているところをなんとか見付けて描いていきます。最初は分からないけど、描いていくうちに足りないものが浮き彫りになっていって、最終的には描くべきものがはっきりしてきます。

interviewerイメージがあって、それに向かって描いていくんですね。

樫木 そうなんですけど、頭の中にあるものと実際に描いたものが全然違うなんてことよくあるので、消したり描いたりを何度も繰り返します。ですので私の絵の画面にはその痕跡がたくさん残っています。

 パネルに関しても、イメージに任せて大きさを決め、途中で小さくしたかったらノコギリで切って修正しながらイメージに近づけていました。

interviewer気分転換のためにしていることやマイブームはありますか。

樫木 とくにありません。今のアトリエを借りて半年くらいになるんですけど、そこに籠もって制作していると、通学や友人との会話も気分転換だったんだと感じます。

interviewer一日の生活はどんな感じですか。

樫木 食事・睡眠など以外の時間は全て制作に使おうという気持ちでいますし、ほぼそういう一日を過ごしていますが、どうしても気分転換したい時は、インターネットをしたり音楽を聴いたり映画を観たりします。

interviewer美術館とか他の人の個展には行かれるんですか。

樫木 あまり頻繁に行くほうじゃないです。外に出ると何でもモチーフになっちゃって、情報があふれすぎて大変なんです。自分の中に入れて出してが制作の基本ですが、入るばっかりで、出し切れないんです。出せないと、貯まっていくものがいっぱいで苦しいんですよ。自分の貯めていたものが空っぽになったら行くと思います。インドアということではないのですが、基本的には“入れる”より“出す”ことに費やす時間の方が長いです。

理想を求めて

interviewer今後について、これからやりたいことや将来の夢などはありますか。

樫木 もっといい絵が描きたいです。

あと、先ほど言った通り、私は絵が完成した時に喜びを感じます。完成までは喜びや楽しみが一切無いかというとそうではありませんが、そのほとんどが完成のための長い長い道のりです。その途中段階を、強制的に自分の力で楽しいものにできないかなと思っています。現実的な課題として、より早く、より多くの作品を制作するっていうのがあるんですが、途中段階の道のりが楽しくなれば制作の速度も上がるように思うので。

 奈良美智さんのtweetにこのような文章がありました。『がんがん作れる環境にある時、悩んでばっかりで、全然進まない人は辞めた方がいい。もっと楽しい事を探した方がいい。ひとつ完成したら、次!次!って、自分が追いつかないように、手が動いていく奴は頼もしい。作れること自体に喜びを感じて、作りゃいいじゃん。』『悩んでも何しても、とにかく手が動き、常に何かを生み出したい欲求に突き動かされて作る人は、そのまんま作家になれるはずだ。無意識でそれが出来る人はいい。俺は、努力したけど』
これを読んで私は、強制的にでも“絵を描くことが楽しくて仕方がない人”になりたいという思いが一層強くなりました。体質改善みたいに、意識的に自分を変化させることも出来るんじゃないかなと思っていて、今はそうなることが理想です。

京芸生と未来の京芸生へのメッセージ

interviewer京都芸大を志す受験生へ一言お願いします。

樫木 頑張って入学してほしいです。京都芸大の良いところはまじめさだと思います。私は、いい絵を描くには、まじめに描くしかないと思っています。ですので、この京都芸大のまじめさは、これから大学で作品を創ろうとする人たちにとって、きっと大きな支えになるし、励みにもなると思います。

interviewer京都芸大のまじめさって何なんでしょう。

樫木 学校の雰囲気ですね。お祭り事でもくだらないことでも大まじめに取り組む姿勢があると思います。まじめさとは関係ないですが、少人数っていうのもいいです。先生との距離が近いので。あと、版画に行ったり、油画に行ったりと専攻間移動の自由さもいいです。私が版画基礎にいた時には総合芸術学科の人もおられました。

interviewer私も総合芸術学科ですが、油画をやらせてもらってて楽しかったです。油画研究室にもよく行きました。

樫木 そうなんですか。私は、研究室には用事がないとなかなか行けなかったです。緊張して。でも修士、博士と進む中で少しずつ慣れてきて、修了前には大学を出るのが嫌で仕方なかったです。大学を出るのが嫌だった一番の理由は、もう先生のアドバイスをもらえないということでした。これからは一人で考えて一人で課題を立てて行かなければならないと思うと不安でした。

interviewer在学生に一言お願いします。

樫木 在学生の皆さんの作品というのは、生々しかったり、ぶっきらぼうだったりすることがありますが、どれも活き活きしていて魅力的です。私自身、その魅力に嫉妬したり焦ったりすることがあります。そんな体当たりの作品をできるだけたくさん創るのが良いと思います。今の環境を最大限に使って頑張ってください。

インタビュー後記

インタビュアー:美術学部 総合芸術学専攻2回生 古田理子
(取材日:2012年2月21日)

 私が樫木さんとお会いしたのは今回が初めてでした。でも、陶磁器専攻のお友達がつくった湯のみでお茶を出してくださったり、学校で使っていた箱椅子がすごく便利だったから、今のアトリエでもオリジナルの箱椅子を使っているという話で盛り上がったりと、在学中の先輩とお話ししているような気分でインタビューを進めることができました。また、私自身が油画の授業を受けていたので、学校の制作室でのエピソードなどは聞いていてリアルに想像できて面白かったです。

 インタビューをしていて、樫木さんには「いい絵を描きたい」という軸が、まっすぐ通っている感じが伝わってきました。大学の時には、休みの日も学校へ通って絵を描き続けていたそうです。いい絵を描けるようになるためには、描くしかない。悩んでいる時間があるなら、描く。

 あれこれ悩んで時間を無駄にしてしまうより、今できることを一生懸命やる、そういう姿勢を私も見習いたいです。

Profile:樫木知子【かしき・ともこ】画家

京都市立芸術大学美術研究科博士(後期)課程美術専攻(絵画)修了。
2006年京都市立芸術大学制作展同窓会賞、2009年VOCA展奨励賞、2012年京都市芸術新人賞受賞。
国内外で活躍する注目の若手芸術作家。2012年4月から本学非常勤講師。