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三瀬夏之介さん 3/4

3.震災により突き付けられた問い

interviewer学生と一緒に専攻の垣根を越えて活動する中で,影響を受けたことはありますか。

三瀬 「東北画は可能か?」のプロジェクトの一環で,2011年の秋に,気仙沼にあるリアス・アーク美術館(※)で発表できることが決まり,学生と共同制作で方舟の絵を描くことになりました。方舟ということで,次の時代に持っていきたいもの,今の時代に置いていくものについて,勉強会を開催して,学生と何度もディスカッションをしました。それで「さあ描こう」という段階まできた直後の3月に東日本大震災が起きてプロジェクトは止まってしまったんです。自然災害をどう捉えればいいのか?原発は必要なのか?など,震災により本当の意味で方舟の問いが突き付けられました。震災前には,もちろん真剣にディスカッションをやっていたのですが,その中に原発や津波の話は出てきませんでした。平和な状況だったとはいえ,表層的な議論しかできていなかったことに気付かされ愕然としました。

 その後,学生達は,被災地ボランティアに行ったり,ワークショップをする中で,「方舟計画」という共同制作を立ち上げました。津波で親族が行方不明になった学生もいましたし,まだまだ強い余震が続く状況の中で,きついことを忘れられるものなら忘れたかったと思うのですが,学生達は,「描きたい」と言い,震災直後はまだ自粛傾向があった「波」や「水」を含むこの絵を描きました。

 「描くこと」,「発表すること」,「残すこと」,そういうものを突き付けられた中で,彼らは実行力を持って作品を作り上げました。また,津波で多くのものがさらわれ,学生達は,自分達の風景や記憶材がなくなるということの恐ろしさに気付かされ,「自分達の知っている東北の風景や記憶などを残したい。伝えたい。」と切実に作品を作り,発表したのだと思います。

 ※ 宮城県気仙沼市にある美術館。地域における文化創造活動の拠点施設として,圏域の住民に質の高い芸術文化に触れる機会を提供している。

interviewer震災を経験して,三瀬さん御自身の作風や考え方に変化はありましたか。

三瀬 震災のような惨事は,当事者でないと触れられないデリケートな部分があると思いますが,そういうものを,自分事として考える力,想像力を,アーティストは持つべきだと思います。

 例えばピカソのゲルニカは,ゲルニカの空爆という歴史的な事件から生まれた作品ですが,今,あの作品を見た時に,歴史性や時事問題とは全く違う感銘として,受け取れるものがたくさんあります。いつかはピカソのゲルニカのように,多くの人々が民族を超えてある出来事を自分事として感じて共有できるような,大きな壁画のようなものを作りたいと思うようになりました。

 もう1つは,地域型のアートプロジェクトへの取組についてです。現在,地域型アートプロジェクトはまちおこしなどの目的で,全国各地で盛んに行われています。しかし,そのミッションとして,地域との関係の薄い独りよがりな作品を作っていては駄目ですし,逆に,地域に寄り添い過ぎて,地域の看板絵みたいになってもいけない。ある地域に入っていくと,その地域の良いところばかりではなく,負の遺産や隠しておきたいことも見えてしまいます。愛と覚悟を持ち,自分の衝動と地域の様々なものとをギリギリまでせめぎ合わせて,その問題の根っこにある,人間関係や凝り固まったどうしようもない課題を露出させて,風通しを良くし,未来を展望するということも,アートというか,美術作家の役割だと思うようになりました。

「東北画は可能か?」
会津・漆の芸術祭2011 東北へのエールでのトークイベント風景

「東北での野外制作風景 撮影:瀬野広美(FLOT)」

インタビュアー:河合正太郎(日本画専攻2回生)
(取材日:2014年1月29日)※イムラアートギャラリー(京都)にて

Profile:三瀬夏之介【みせ・なつのすけ】 Natsunosuke MISE 日本画家

1973年奈良生まれ。1999年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(日本画)修了。

既存の日本画の枠にとらわれない,多様なモチーフや素材,時にはコラージュを施した作品の圧倒的な表現力が高い評価を得ており,多くの展覧会等で受賞している。2002年 第2回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展(豊橋市美術博物館/愛知) 星野眞吾賞受賞/2004年 第2回東山魁夷記念 日経日本画大賞展(ニューオータニ美術館/東京)入選/2006年 五島記念文化財団 美術新人賞受賞/2009年 京都市芸術新人賞受賞/2009年 第16回VOCA展2009 VOCA賞受賞/2012年 第5回東山魁夷記念 日経日本画大賞展(上野の森美術館/東京)選考委員特別賞受賞/2014年 第32回京都府文化賞奨励賞受賞。東北の芸術大学等で後進の育成にも力を注いでいる。