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森田りえ子さん 3/4

3. 個展がモチベーション


interviewer28歳の時に個展をするまで,何か他の仕事をしていましたか。

森田 カルチャースクールの講師のアルバイトをいくつか掛け持ちでしていました。

 あとは,似顔絵を描くアルバイトをしていました。化粧品会社とタイアップして,お客様の顔を色紙に墨で描いて,水彩絵の具でさっと色を付けて「ヘアスタイルもこういう風にしたほうがいいですよ。」などと言ってアドバイザーのようなことをしていました。そこではスタイリストのような名刺も作りましたが,絵描きとして生きていくと決めていたので,本業と副業をしっかり分けるという意識から,ペンネームにしていました。そんな副業でコツコツとお金を貯めて,マンションを購入しました。内装をリフォームして寝室以外は全部フローリングのアトリエにしました。20畳の広さで,150号の大作も十分に制作できました。

interviewer明確な目標があったから頑張れたんですね。

森田 とにかく迷わないで,自分を信じて,良い意味で「勘違い」することです。まず,際立つ自分を磨くことが大切です。私の場合,デッサンは幼い頃から好きでした。「デッサン力を養うこと。」と思い,人体と花のデッサンを繰り返しました。人体デッサンは,大学の後輩に,毎週来てもらって3時間ぐらい描いていました。あとは野外に出かけて,花を一日中描いていました。花の時期は短いでしょ。だから一つの花のシーズン中,続けてそこに通うんですよ。花の蕾の頃から,満開を経て,実を結ぶまで描き続けていると,様々な物事に気付きます。鳥のさえずりや昆虫たちの羽音,風のそよぐ音に耳を傾けながら,一心に描いていると,いつしか「自分が自然の一部である。」と実感し涙ぐんでしまうほどの幸福感に満たされるのです。


interviewer制作を続けていくにあたって,意識していることはありますか。

森田 私は,2年に一回は個展を開催すると決めていて,それをモチベーションに制作をしてきました。作品がたまるまで個展はしませんという人もいますが,それではいつまでたってもできないと思います。個展でいろいろな方々に作品を見ていただき感想に耳を傾けることは,とても緊張感があり勉強になります。個展のオファーがあれば,たとえまだ作品が2点しかなくても,もう半分くらいはできていますというふりをして,受けてしまいます。

 36歳の時に,高島屋で屏風の作品の個展をしました。屏風は額装画とは違い,幅が4メートル以上の大画面になります。それまで自分の作品の中で,上下に広がる空間に物足りなさを憶えていて,横へ繋ぐ構成を求めていたことに気づきました。

しかし,いざ無地の屏風の横長のパノラマの前に立った時,空間構成,余白の取り方等,今までにない大きな課題をたたきつけられたように感じました。それからは格闘の日々の連続でしたが,私の中の日本人としてのDNAに創作意欲を奮い立たせられたような気がします。 

 それから,屏風は折りたたむととてもコンパクトになります。幅4mの大画面が,1m以内に折りたため,作品を床に置いたり,また壁に立てかけたり,一人で軽々とできてしまう。素晴らしい日本人の柔軟性のある知恵を実感しました。

 36歳のまだまだ若手のアーティストが20数点の屏風絵を,デパートの画廊の全スペースで発表させていただくことは,デパート側では異例の決断だったと思います。おかげさまで,日本文化の伝統ともいえる屏風にチャレンジできたことは,自分にとってもとても貴重な経験になりました。

interviewer作家としての喜びや楽しみは何ですか。

森田 それは,作品を発表した時ですね。見に来てくださった人と心のキャッチボールができることが嬉しいです。美術館で個展をしたときに,会場に入っていかれる人と,出てこられる人の表情を見ていたんです。入っていかれるときは普通の顔をしているのですが,出てこられるときには顔が高揚しているんです。それを見ると,私の絵を見て何か響いてくれたんだなと思い嬉しい気持ちになります。ある時アンケートに「私は癌と闘っていて,いつ死ぬかわからないけれども,森田さんの絵を見られて,今まだ生きていてよかったと思えた。次の展覧会に来ることを励みにします。」と書いてくださったのには胸が熱くなりました。そういうことが画家としての喜びですね。

interviewer気持ちが乗らないときは,どのように気分転換しますか。

森田 気分を替えたいときは,南国の花が好きなので,よく東南アジアに旅に出かけます。南国の自然はたくましく,生命力にあふれていて,それらに囲まれていると,こちらまでエネルギーがわいてきます。

 京都府立植物園の温室も種類が豊富で楽しいですよ。アトリエの立地条件は,植物園まで1km以内という点で,今住んでいる場所を決めました。植物園を庭のようにしたいと思ったからです。

 最近猫を飼い始めたのですが,とても癒されています。動物はすごくかわいいけれど家を長時間開けられないので困っていますが・・まだ子猫なんですが,ユキヒョウみたいでとても優雅で美しい猫です。一つ一つの動作に日々目が釘付け状態です。飼いはじめてまだ4か月ですが,そのうち作品に登場することでしょう。感動は創造の母ですね。

インタビュアー:木田菜摘,出口義子(いずれも修士課程絵画専攻(日本画)1回生*)*取材当時の学年

(取材日:2014年12月15日・個展会場(大丸ミュージアム京都)にて)

Profile:森田りえ子【Rieko MORITA】日本画家

兵庫県神戸市生まれ。1980年京都市立芸術大学日本画専攻科修了 2000年京都市芸術新人賞,2011年京都府文化功労賞受賞。2013年から京都市立芸術大学客員教授。 四季を彩る花々や,京都の伝統文化を受け継ぐ舞妓達,エキゾティックな女性像等卓越した描写力で表現する日本画家。現在の日本画壇において,次代の日本画を託される画家として注目されている。