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森田りえ子さん 4/4

4. 京都の魅力に触れること

interviewerこれまでの作品の中で,印象に残っているものは何ですか。

森田 1986年31歳で描いた「白日(150号)」でしょうか。和歌山県主催の第1回川端龍子大賞展で大賞ををいただいた作品です。余談ですが,その年の元旦に出かけた初詣で,引いたおみくじが「大吉」-龍が天に上るがごとき運気―とあり,大喜びをした2か月後に龍子大賞ですから。「現実は小説より奇なり!」です。

interviewer今後挑戦したいことはありますか。

森田 学生時代,私を魅了した天然岩絵の具,群青や緑青,朱の鮮やかな原色をバックに,現代をアクティブに生きる少女たちを表情豊かに描くこと。日本古来より脈々と受け継がれる日本画の技法で,コスプレに身を包むアグレッシブな少女をいかに表現できるかチャレンジしたいです。


「粧Ⅱ」198cm×130cm/2002年

interviewer森田さんの描かれる女性の顔は,目に力がありますね。

森田 人物を描くときは,目力を意識して描いています。それは白目と黒目のバランスが大事だと思います。目を描くときには瞳の下に少し白目を残すようにしています。その方が,目にぐっと力が出るんです。最近は,黒目を大きくするカラーコンタクトレンズが流行していますが,真っ黒な目を見るとアニメの一コマみたいで,どこを見ているのかわからないので苦手ですね。バランスが大事でしょ。

interviewer森田さんにとって,日本画の魅力はどういったところですか。

森田 アートの効力の一つに,見る人の目に心地よい刺激を与え,生きる活力を呼び覚ますことがあると思います。

 日本画を描くプロセスは煩雑で気難しいですが,岩絵の具はもとより,胡粉の白や墨の深さ,美しさは他の素材には類を見ないものと確信しています。

 じっくり腰をおちつけて,日本画と立ち向かってください。いつか自分らしい表現を見い出せると思います。

interviewer受験生に向けて,一言お願いします。

森田 京都芸大の入試,特にデッサンは奇抜なモチーフが出題されることで有名です。身の回りのいろいろなモチーフを手掛けることです。「生き物」も要注意。何が出てもおじけづかない精神状態で臨むことが大切です。そうはいってもどうしてもあがってしまうのが人生ですが・・・

interviewer在学生に向けて,一言お願いします。

森田 制作も大事ですが,大学にこもっていたらだめだと思います。もったいない。京都の街は「ウォーキングタウン」,歩いて色んな場所に出かけましょう。良い意味でこじんまりしているから,街自体が博物館でありタイムカプセルみたいなものです。お寺の仏像や襖,庭園の植物も手入れが行き届き魅力的です。寺社だけに限らず美しいもの,洗練されたものに触れることが,学生時代には大切だと思います。私が学生の時は大学が東山七条にあって,動物園,博物館,美術館も近かったので,色んな世界にアンテナを張って,「未知との遭遇」を求めて,毎日のように歩き回っていましたね。それは良い経験で勉強にもなりました。

 皆さんも,羽を伸ばして街に出て,色んなものを吸収してはいかがでしょうか。すぐに役に立たなくても,心の引き出しは多いほど,のちの人生にヒントを与えるかもしれません。学年・学部・専攻に関係なく,色んな人と遊ぶことも大切です。そしてアート以外のジャンルの方,例えばミュージシャンや伝統文化の担い手の方々の話にも耳を傾けること,異文化交流は刺激的だと思います。

 大学時代は,それまでもまたこれから先にもないほど「ゆとりの時代」です。窮屈に考えず,学生時代をたっぷり謳歌してみてはいかがでしょうか。

インタビュー後記

 初めはとても緊張していたのですが,前校舎時代の学生の和やかな風景をお話してくださったり,楽しい冗談も交えながら,森田さんは私たちの拙い質問にも一つ一つ丁寧に答えて下さいました。

 森田さんの語られた,「とにかく迷わないで,自分を信じて,良い意味で勘違いすること」という意識は簡単なようで意識しようとして持てるものではなくて,お話からも継続して日々積み上げてこられた自身の経験に裏付けられた自信から得られるものなのだろうと思いました。

 またプロになるためには人より抜きん出ているなにか,自分がこれなら勝負できるという武器を徹底的に磨き上げることをするべき。与えられたチャンスはどんなに困難と思えるものでも絶対に生かす気持ちで常に勝負に立っているという意識で臨む。そのためには多少自惚れることも大事なことだ。と,わたしたち学生のお尻を叩いてくださるような力強いお言葉には,プロを目指すものとして持つべき自覚のようなものも教えて頂き,身の締まる思いを感じました。

 インタビューを通して頂いたこれら森田さんのお言葉を心に置いて,いずれ訪れるであろうチャンスをその時しっかり受け入れるための準備を残りの学生生活で積み上げていこうと私自身も改めて思いました。

インタビュアー:木田菜摘(修士課程絵画専攻(日本画)1回生*)*取材当時の学年




 実際にお会いした森田さんは,明るく艶やかで潔く,まさに女性が憧れる女性でした。その印象は同じようにご本人が描く絵にも感じます。作家自身が美しく輝いているからこそあの豊かさとエネルギーを持った美しい作品が生まれるのだと思いました。森田さんの描く,燦々と光を浴び太陽という明日に向かって力強く咲き誇る花々は人々の背中を押し,前を向いて生きていこうと思わせてくれます。

 自分が感動したもの,これだ!と思ったものに躊躇いなくぶつかっていく瞬発力を持つこと。そして,自然,人,作品との対話を大切にすること。今回のインタビューでは,私自身も絵を描いていく上で,吸収させていただきたいことが沢山ありました。

 笑顔に溢れた素敵な時間をありがとうございました。

インタビュアー:出口義子(修士課程絵画専攻(日本画)1回生*)*取材当時の学年




(取材日:2014年12月15日・個展会場(大丸ミュージアム京都)にて)

Profile:森田りえ子【Rieko MORITA】日本画家

兵庫県神戸市生まれ。1980年京都市立芸術大学日本画専攻科修了 2000年京都市芸術新人賞,2011年京都府文化功労賞受賞。2013年から京都市立芸術大学客員教授。 四季を彩る花々や,京都の伝統文化を受け継ぐ舞妓達,エキゾティックな女性像等卓越した描写力で表現する日本画家。現在の日本画壇において,次代の日本画を託される画家として注目されている。