木村幸奈さん 4/4
4. 泥臭さを大切に
卒業後,デザインに対する考え方や意識に変化はありましたか。
木村 在学中は,プロダクトデザインとは,画期的に新しいことや周りと違うことをしないといけないということに捕らわれて,課題が苦しいことが多々ありましたが,今はもうちょっとピュアに考えてもいいんじゃないかと思える部分があるんです。
会社に入って車を作ってみて感じるのは,自動車というのはある意味すでに完成されてたプロダクトなので,それを更に「美しさ」を磨いていくみたいなところがあります。もちろん,最近注目されている電気自動車や,全く新しい移動手段のカタチを考えるのもデザインですし,それを否定するつもりは全くありません。ただしそれだけでなく,自分の心惹かれる美しさに執着して作ってもいいのかも知れないなと感じますし,学生時代にもっとそういう感覚を持っていたかったと今は思います。デザインの仕事は,ジャンルも内容も本当に様々だし,それこそ作るものによって考え方も全然違います。そう考えると,学生時代は時間もあったのだし,飛び道具的なことを適度にこなすのではなく,本当にやりたいこと、自分が考える美しさや作りたいものを純粋に突き詰めるようなデザインをやってもよかったと思います。
企業で働く側から見て,京都芸大の学生に対する印象はいかがですか。
木村 今までに会社で採用に関わったこともありますが,それこそ他大学にはプロデュース力に長けたデザインの学生はたくさんいます。プレゼンの見せ方も上手ですし,学校にもよりますが,アイデアだけに集中し,どこか企業と組んで実現するというような企画を作っている学生も多い印象があります。
その点,基本的に自分の手でつくることを良しとする京芸生は,そういう勝負には不向きですよね。むしろ,京都芸大で得られるような,モノ作りに対する素朴な感覚だったり,上手くいかなくても自分で作った経験だったり,モノと向き合って悩んだ経験みたいな泥臭い部分をもっと大事にした方が良いのではないかと思います。そうでないと京芸生の良さが死んでしまうような気がしますし,そこをアピールしないと他校に勝てないのではないかと感じます。
今はパソコンの技術が向上していて,一見すごくよく見えるようなポートフォリオも多いのですが,ある意味没個性的です。その中で光る京芸生の良さとはそういう部分なのではないでしょうか。
余談ですが,クルマのデザインに関していえば,すごくシステマライズされた世界かと思っていましたが,実はそうでもなくて,ぼんやりとなにか良いものないかな,とふらふら探して拾ってそこから使えそうな素材を集めてコラージュしてみたり,このアイデアいつか使おう,今使えるな,なんてそんな中からデザインに繋がっていくこともあります。カラーデザインだけでなく,スタイリングデザイナーも同じで,アイデアを探してさまよっていることはよくあります。出来上がるものが大きな完成された「商品」なのでそういう感じがしないかもしれませんが,意外に地道で泥臭いんです。その点,京芸生のなんでも拾うという習性はこんなところに生きてくる(笑)。
CX-3オートカラーアワード特別賞受賞時
車のカラーデザインの仕事に興味があるのですが,カラーデザイナーを目指す上で,ビジュアル・デザインを学んだ場合とプロダクト・デザインを学んだ場合とでの違いはあると思われますか。
木村 どちらでも大きな違いはないと思います。ただ,自動車メーカーの色に対する認識は変化してきていて,一昔前はカラーコーディネーション的な感覚で車をデザインしていたように思いますが,最近はカラーデザインも成熟してきていて,どこの会社も車の色を単なる色だけの事とは認識しなくなっていますから,多少プロダクト的な知識があった方が良いように思います。それに,キャリアは不変のものではなく,カラーデザインで入ってもスタイリングの仕事をする可能性もありますし,その逆も然りですから,視野を拡げる意味で苦手なことや知らないことに挑戦した方がよいのではないでしょうか。自分が将来何者になるかもわかりませんしね。
気分転換にしていることなどはありますか。
木村 気分転換は服を見ることですね。買うというよりも服を見に行くことが好きなんです。まぁついつい買っちゃうことも多いんですが(笑)。気分が沈んでいる時は,ファッションビルに行って全フロアを見ます。服ってとても移り変わりが激しくて,店頭にはいつも違うものが並んでいますから,それが気分転換になっているのかもしれません。それに服は,それこそ着た瞬間に気分が変わる,ある意味で世界観を持ったものともいえると思います。また最近は仕事のせいか,素材には敏感でこの質感でこの発色,この価格でもこの仕上げ,この加工方法おもしろいな,どうやるんだろう?耐久性は?と色々考えるようになりました。直接仕事を意識しているわけではありませんが,楽しんでいますね。
今後やってみたいことはありますか。
木村 漠然としていますが,カラーデザインで世の中に製品を送り出せたので,次は現在関わっているブランディングの仕事でも世の中に何かを届けることができればと考えています。私を突き動かす原動力は,誰かに喜んで欲しいという気持ちなんですが,今はそれが会社に向いているんです。自分が頑張ることで会社がよくなれば,一緒に働く人たちの喜びに繋がる。そうしたら自分も嬉しいし,この循環をずっと回したいと思っていて,それができるのであればカタチにはこだわりません。
受験生・在学生に向けて一言お願いします。
木村 受験生の皆さんはとにかくデッサンに真剣に取り組んでください。上手ければ上手いほど受験に役立ちますし,ひたむきに取り組むこと,集中力を養うことの練習だと思います。入学後もそれが役に立たなくなることは絶対にありません。京都芸大には色んな人がいますし,そんな懐の深さが自分を変えることに繋がる可能性を持った大学です。入って損はないですし,他校には無い味わいがある大学ですよ。
在学生の皆さんの中には,今自分が何をしたいか分からなくなっている人もいるかと思いますが,絶対にその人なりの個性はあります。周りと比べて悩まず,自分の好きなことややりたいことを見つけたり,目の前のことに一生懸命取り組んでいれば自分が出来てきますよ。私は在学中,自分は劣等生だなとずっと感じていましたが,どうやら自分らしい良さは何かあるらしく,今は仕事を色々与えてもらえて,世の中にモノを出せて充実しています。学生時代はあくまで通過点ですから深刻に悩みすぎることはないですよ。
あとは,英語はやっておいた方がよいと思います。私の場合,海外出張もありますし,車はグローバルプロダクトですから開発の際に海外拠点のチームとのやりとりも必要です。それに,デザインの仕事にはコミュニケーションは不可欠ですから,通訳を通すよりも,要点だけでも自分の口で喋れた方がいいと思います。京芸のあの易しい授業でもよいので真剣に受けましょうね。
インタビュー後記

木村さんは終始笑顔で場を和ませる雰囲気をお持ちで,会社のホームページなどから当初思い描いていたデザイナーのイメージを,良い意味で裏切られました。
カラーデザイナーを目指す私にとって,学生時代の話だけでなく,仕事内容など興味深い話をたくさん聞かせていただきました。特に,木村さんはカラーデザインという仕事に誇りを持っておられ,楽しそうにお話されていたことが印象に残っています。
今後の学校生活,そして将来の目標を明確にしてくださった木村さんに感謝しています。
土屋さおり(デザイン科1回生*)*取材当時の学年
(取材日:2016年11月4日・下京区役所にて)
Profile:木村 幸奈【Yukina KIMURA】マツダ株式会社 デザイナー

1989年,滋賀県生まれ。京都市立芸術大学美術学部デザイン科プロダクト・デザイン専攻卒業。2011年,マツダ株式会社入社。カラー&トリムデザイングループのスタッフとしてアクセラの開発に参加し,その後CX-3,デミオ等のカラーデザインを担当。現在はブランドスタイル統括部にてブランドデザインの監修を担当。