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木村幸奈さん 2/4

2. 自分は何者なのか

interviewer学生生活を振り返ってみて思い出されることなどはありますか。

木村 画塾の先生をはじめとする周りの人の期待に応えるために,いつの間にやらアニメーターの道は忘れつつ,画を仕事にできたらいいなというぼんやりした目標で入学してみたら,周りは画の上手い人ばかり。どうしようと迷い始めたのが大学生活のスタートでした。これって京芸あるあるだと思うんです。大学に入るまでは皆それなりに画が上手かったりするけれど,入学してみると,それ以上に上手い人や変わり者が集まっているから,自分が凡人のように感じてしまう・・・。やっぱり美術というのは,新しいことや人と変わったことをしないといけないという強迫観念があって,総合基礎実技の授業を振り返っても,京都芸大は入学生に対して特にそういう感覚を与える学校のような気がします。

 でも,今の私はそれが京都芸大のいいところだと好意的に受け止めています。そういう風に悩むからこそ,相談したくなる。意見の違う他の人と議論してみたくなる。周りにいる人たちは,今まで出会ったこともないような不思議で面白い人たちで,何を話しても新鮮でとても刺激的でした。みんなそれぞれ悩んでいるから,話が尽きることがなかったのも面白かったです。ですから,そんな友達との交流こそが京都芸大で学んで最も良かったことだと思っています。具体的に何を学んだかということよりも,人と話すことで,その時々に自分が考え意見したことが,徐々に自分を作っていったという感覚です。そんな時間をたくさん持てたのは良かったと思いますね。

 それは車作りにも生かされていて,カラーデザイナーの仕事は目に見える部分は多いですが,車の開発全体でみればほんの一部で,1台の車が出来るまでに本当に多くの人が関わります。しかもカラーデザインは最初は姿かたちも正解もないものですから,自分のやりたいことを相手が理解してくれないと前に進まない仕事です。それだけに,対話を通して自分の想いを伝えることが重要になりますが,そういう点で学生の時に学内の多様な人と話をしてきた経験が,カラーデザインの仕事に生きているのではないかと思います。


芸祭の模擬店にて

interviewer印象に残っている大学行事はありますか。

木村 印象深いのは芸祭です。皆の打ち込みようが半端じゃないですよね。当時サッカー部にマネージャーとして所属していて,玉屋(※)の模擬店が私の時代にキャプテンの発案で2階建になりました。単管を組めば出来るでしょみたいな話になって,組み始めるんだけど,なんでみんな組み方知ってるの(笑)とか,持ち物に書いてあるノギスって何?とか(笑)。

 突如として芸祭には謎の才能を持った人が現れるんです。理想を叶えるために皆で知識を出し合って,最終的に作り上げてしまうのが不思議です。模擬店にこたつがあって密なコミュニケーションが図られる。他大学の学祭にはないですよね。キラキラはしてなくて泥臭いんだけど,記憶の中で一際輝いている思い出です。

(※)玉屋…大学祭期間中にサッカー部が出展する模擬店

interviewer芸祭からは離れますが,どうして卒業式はあんなに仮装するんでしょうね。

木村 あんなことできるのって京芸だけじゃないですか。最後に自分たちは普通の大学生では終わらないぞとアピールしたいというか,みんなが自由な事に誇りに思っていることの表れが京芸の卒業式なんじゃないでしょうか。私は普通に袴でしたけど(笑)。個人的にはコスプレや仮装も大好きなので,なんかやろうと思っていたものの,どこか真面目な自分がいて,成人式に買った振袖を袴にしたらどうなのみたいな親からの期待を感じた結果,袴での卒業式となりました。

interviewer学生時代にはファッションショーのための服飾づくりの経験もあるとのことですが,どんな活動をされていたのでしょうか。

木村 学校の授業ではなく,個人的な趣味の一環として,芸祭や学生ファッションイベント向けに服を作って出品していました。高校時代はアニメーター志望でしたが,紆余曲折があって,途中でファッションデザイナーやメイクアップアーティストになりたいと考えたこともありました。もともとファッションが好きで,高校時代は演劇部で役者以外に衣装も担当していました。大学時代は京芸の自由な雰囲気の中,普段も色々と派手な格好をしていました。

 そうした経験も今の仕事に繋がっているように思います。車づくりにおけるカラーの仕事は,素材と質感のコーディネーションの側面があり,シートのファブリックも一から作ることが多いので,服を作ることが好きということがうまく繋げられています。学校では家具を作って,趣味で服を作って,人とコミュニケーションを図ることが好きだという3つの円が重なったところにカラーデザインの仕事があった感じですね。

interviewer大学時代にやっておけばよかったなと思うことはありますか。

木村 せっかく大学が京都にあるのだから,史跡,寺社仏閣等には行っておいて損はないと思います。私は特別歴史に興味があるわけではなかったので,あまり足を運びませんでしたが,デザイナーになってみて,特にマツダの車づくりがアーティスティックなものを要求する部分もあるせいか,必然的に日本の美意識といったことをとても考えるようになりました。学生時代に京都の街でそれとなく暮らしていた中で見て知ったものがここに繋がっていたのかと再認識することもあるし,今まで全然意識していなかったのに,社会人になってから,あそこの石庭をもう一度見に行ってみようとか思い立ったり,建造物や庭の構造に込められたコンセプトを再発見することもあります。そうなってみて,今更ながら京都は最高の土地だったことに気付くんです。学生の時は意味までは分からなくていいですから,まずは知っているとか見たことあるという経験を多く積み重ねておくことが重要で,それが引き出しに入っていれば,いつかそれが生きてくることがあります。

インタビュアー:土屋さおり(デザイン科1回生*)*取材当時の学年

(取材日:2016年11月4日・下京区役所にて)

Profile:木村 幸奈【Yukina KIMURA】マツダ株式会社 デザイナー

1989年,滋賀県生まれ。京都市立芸術大学美術学部デザイン科プロダクト・デザイン専攻卒業。2011年,マツダ株式会社入社。カラー&トリムデザイングループのスタッフとしてアクセラの開発に参加し,その後CX-3,デミオ等のカラーデザインを担当。現在はブランドスタイル統括部にてブランドデザインの監修を担当。