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小倉幸子さん 2/4

2. 卒業後

苦手な“競争”

interviewer_music入学してみると居心地の良さがあって、大学生活を楽しく過ごされた時間もたくさんあったようです。

小倉 そうです、後ろ向きな気持ちで入った割には楽しい時間が多かったですね。 大学時代は練習には後ろ向きだったけれど、友達と楽譜を持って集まって室内楽をするといったことはけっこう楽しんでいました。

 物心ついた頃からずっと、人前に立つことや競争することが苦手でした。母はピアノ教師、姉も妹も音楽をやっているという環境だったので、競争意識からくる緊迫感が嫌で、今思うと、練習は嫌いと言いながら、実はその緊迫感を避けようとしていたんだと思います。そんなわけで在学中はオーディションやコンクールには一切出ていないんです。当時の先生だった木村和代先生にも不思議がられていましたね。

interviewer_music高校から大学に入っても、音楽との向き合い方はさほど変わらなかったんでしょうか。

小倉 変えたくなかったんでしょうね、すごく頑固に。音楽と競争を結びつけてしまっていたために、いつも恐怖と背中合わせで、特にプロを養成する大学ではなおさら構えてしまったというか、心から楽しめるものには,なり難かったんだろうと思います。

interviewer_musicまわりの演奏家の中には、迷いなく「音楽が大好き」という方もいますよね。

小倉 そうですね、それはそれでとても幸せなことだと思います。私は好きだからやっているというよりも、ジタバタ反抗しながら続けてきて、辞める理由を探しながらもどこかで「大好き」と思える方法を模索しているような感覚に近いですね。

未だにふと「なんでやってるんだろう」と思うことがあるぐらいです。でも音楽をやっていく以上、自分と音楽との関係を見つけて進んでいかなきゃいけないし、そこは他の人と比べてもしょうがないんですけど。

卒業後、フリーの期間を経て神戸市室内合奏団へ

interviewer_music自分が将来的に音楽とどう付き合っていくかというのは、大学の時のスタンスからすると、あまり前向きではなかったのでしょうか。

小倉 自分で稼いだお金で生活していること自体が楽しくて、特に「音楽家としてどうなっていきたい」ということは考えてなかったような気がします。卒業してどうやって食べていこうという不安や心配もしてなかったんですよ。当時はまだ結婚式やパーティーで生演奏をする仕事が多くて、それを週に何回かこなしながらアパートを借りて自活できていましたから。

interviewer_music卒業後にフリーで活動している中で、思い出に残っていることはありますか。

小倉 結婚式のパーティーで演奏の仕事をしたときのことなんですけど、会場の事務所の人に「小倉さんは“聴きなさい!”っていう感じで弾くから、パーティーのBGMだとちょっと押し付けがましくきこえてしまう」と言われたんです。楽器を持ったら全力で弾くことが当たり前と思っていた私は、かなりショックを受けました。

 そう言われてから、色々な場に相応しい弾き分け方について今まで考えたことがないなあと思い始めました。演奏する場所や聴衆、曲に合わせた弾き方ができるようになるためには、自分の思い込みの世界から一歩出て、客観的に聴く耳をもつことが必要だと学んだことを覚えています。

interviewer_music良いタイミングで、その言葉が御自身の心に響いたようです。

小倉 たぶんそれまでも、他の方から同じような事を言われてきてたんだと思うんです。初めて言われたときはちょっと立ち止まるくらいだけど、何度か言われているうちに「あれ?この前も同じようなこと言われたな」と気づいて、それが積み重なってやっときちんと受け止められることってあると思うんです。自分のそれまでの経験に、新たな出来事や知識がプラスされていきますよね。その上で、“ひっかかってきた”いろんな事が“気づき”の引き金になるんだと思います。

interviewer_musicフリーで活動されたあと神戸市室内合奏団に入団されますが、そういう経験をされて、気持ちの上での変化もあってのことでしょうか。

小倉 そういう部分があったと思います。それに、それまでの経験の中から弦楽合奏団という形態や活動内容に改めて興味がわいて、「ここだったらやりたいな」と思ったんです。

 大学のときに、地元の奈良で、奈良出身の京芸生と他大学の子と弦楽合奏団を始めて、室内楽を熱心にやっていたんです。年に2回コンサートを企画していたんですけど、自分たちで楽譜の準備や会場の確保まで全部手作りでやっていました。神戸市室内合奏団の選択には、大学時代に弦楽合奏の楽しさをどっぷりと味わった経験も大きく影響したと思います。

インタビュアー:大学院音楽研究科弦楽専攻(ヴィオラ) 2回生 細川 泉
(取材日:2012年3月24日)

Profile:小倉幸子【おぐら・ゆきこ】シカゴ交響楽団ヴィオラ奏者

1995年京都市立芸術大学卒業。神戸市室内合奏団で活動後、1998年ヴァイオリンからヴィオラに転向。2000年からシカゴ音楽院においてシカゴ交響楽団副首席奏者チャン・リクオのもとで学ぶ。シカゴ・シヴィック・オーケストラの首席奏者を務め、2001年5月にシカゴ交響楽団に入団。オーケストラメンバーとしての活動だけでなく、世界各地での室内楽の演奏会にも精力的に出演している。