山根明季子さん 3/4
3. 作曲家という職業
仕事として作曲家を選んだ理由
portrait concert "second menarche" photographed by SHIMIZU Toshihiro Sep. 11st 2011, Kyoto Art Center
Music Room vol.8「音の造形-作曲家、山根明季子の世界」より(京都芸術センター)
仕事として作曲家でやっていこうと決めたのはいつぐらいですか。
山根 大学院の時に、日本音楽コンクールやフランスで、自分の曲をプロフェッショナルな人に演奏してもらう機会があり、人々から需要として受け入れてもらえたことで、作曲をずっと続けていこうという気持ちを決めたってことになるのかな。本当は今も学生のときの気持ちとあまり変わっていなくて、誰からも頼まれなくてもやりたいことを追求していきたいという気持ちがすごくあります。もちろん頼まれたニーズに対して応えるというのはきちんとやらせていただきます。
学部生時代に進路を考えての葛藤はありましたか。
山根 京都に限らず、日本全体として、現代音楽が文化として根付いていないと感じていて、常に自分はどういうところに向けてどういう曲を発信していくのかっていうのは葛藤としてありましたね。ブレーメンだと、町を歩いている人が「あーコンテンポラリー、いいね。」っていう風に言ってくれるほどに文化として認められている。自分の中ですごく迷っていて、「売れないと文化として資格がないのか」とか葛藤がありました。けど、自分自身でアンテナをはって、いろんなところに行って、素晴らしい音楽を聴くことができたんですね。それで「あぁ、私はこれを信じてやっていこう」と思って作曲家になりました。
学校を卒業されてから最初にした活動はなんですか。
山根 私、東京に引っ越したんですけど、現代音楽のコンサートを企画していこうとエクスドットっていう現代音楽の企画を始めました。それで毎月コンサートをやっていて、どんどんそこで仲間ができたりして、うまく軌道に乗ることができましたね。自分の勉強のためにいろんなコアな企画をやりました。今も年に2回くらいやっています。
音とイメージ
いつから美術に関係する曲を書くようになったんですか。
山根 最初はそこまで自分が分かっていないし、みんなも音を聴いたら、なんとなく映像を思い浮かべていると思っていました。それが違うと分かってから、自分でそれをアイデンティファイしなきゃなと思って、意識して、そこをフォーカスするようになりました。
音を聴いたらイメージされるんですか。
山根 そうですね。頭の中でつながっています。「うねうねと動くオブジェ」は、オブジェがうねうねと動いている質感なんですけど、「Dots Collection」の「現れては消える」は、明滅のイメージです。それらは、全部自分の感覚内のことで、みんながそう感じるわけじゃないんですけど、人によって受け取り方が違うのがまた面白いですね。
曲を書くときに、音から想像するのか、水玉やオブジェというイメージから想像するのか、どちらが先ですか。
山根 両方あります。自分で楽器編成を選べるときは自分が創りたい音像を考えてから曲を書くことが多いんですけど、楽器編成が決まっている場合は、楽器を研究して、そこから引き出して、じゃあこういう音像を創ろうと、音から創ります。
なぜ音を聞いて感じるようになったか分かりますか。
山根 そこは自分でも分かりません。私の夫は、川島素晴という作曲家で、彼はアクションミュージックっていって、演奏を音からではなく行為から組み立てるっていうコンポジションの仕方をしているんですけど、彼は私が言っていることは理解はできるけど、感覚はまったく分からないと言います。分からないので客観的に話し合いができて面白いです。
感覚が繋がっているのがみんなじゃないと気づいて、そこにフォーカスしていったのはいつごろの話ですか。
山根 日本音楽コンクールの「水玉コレクション」の時には、やっていました。しかし、まだ皆さんに聴かせ方としてプレゼントできてなかったんです。きちんとできるようになったのは子どもが生まれてからですね。時間の制約があって、あんまり音数書けなかったっていう事情もあるんですけど、一つの音をどう聴かせるかっていう研ぎ澄ませ方は子どもが寝てる間に書くようになった時からです。
作曲のときに楽器を使われますか。
山根 ピアノで音を確認することもあります。でも料理するときと一緒で、どの楽器にどの楽器を組み合わせるかというのは、経験と想像力でなんとか今までやってきています。それは日々勉強ですね。
学生時代、学内コンサートとかでいろいろ作品を出しておられたと聞いているんですけど、そういった経験が生きていますか。
山根 京都芸大は、発表の機会がすごくいっぱいありました。在学生の演奏家もみんな協力してくれて、それは自分の成長にとってすごく大きかったと思いますね。それと学生数も少ないので、やっていることをみんな見てくれます。少し変わったことをするとすぐに目立っちゃう。その分かまってくれて、みんな鋭敏に反応しあって高めあうことができました。
創作力をかきたてられる瞬間はありますか。
山根 「孤独」だと思います。「孤独」といっても全てを拒絶しているわけじゃないし、夫も子どももいるんですけど、普段世界に対して、自分がこう発散しきれない何か、表現していないと生きていけないような切迫した動機があるんですよね。それが消えたら書かないかなという感じです。
インタビュアー:音楽学部 作曲専攻 4回生 藤原杏子
(取材日:2012年2月9日)
Profile:山根明季子【やまね・あきこ】作曲家
京都市立芸術大学作曲専攻卒業、大学院音楽研究科作曲・指揮専攻修了。
日本音楽コンクール第1位、芥川作曲賞など受賞。作品は国内外で上演されている。
現在は東京を中心にフリーランスに活動。代表作《水玉コレクション》等。