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松田洋介さん 2/4

2.留学で得たもの

ドイツでオーケストラの一員を目指す



ドイツ留学時代に参加した、クリスマスチャリティーコンサートの様子が掲載された新聞記事

interviewer_music学部卒業後は大学院に進学され、2004年に修了された後、ドイツ国立ミュンヘン音楽大学に留学されました。留学はいかがでしたか。

松田 京都芸大に入学する前から留学したいと考えていたので、どういう手続きが必要か、割と早い時期から調べていました。
ドイツを選んだ理由は、呉先生が勉強された国だからです。僕はもう、とにかく呉先生が染み込んでいます(笑)なんといっても、呉先生に演奏家としての土台を作っていただきましたから。演奏方法に限らず海外の音楽事情まで、あらゆる知識を先生から注いでもらっているうちに、「トロンボーンの勉強を続けるなら、やっぱりドイツに行こう」と思いました。ドイツ語は大学の授業で勉強していましたが、本気で行くぞと決めた時から、京都のゲーテ・インスティトゥート(ドイツ文化センター)のドイツ語コースで本格的に勉強したんです。

interviewer_music留学先へのコンタクトなど、準備は全部自分でされたんですか。

松田 僕より先にドイツに留学していた2つ上の先輩、織田貴浩さんの先生のミヒャエル・ユングハンスさん(ケルンWDR放送交響楽団バストロンボーン奏者)が日本に来られたときに、紹介していただいてレッスンを受けてみたんです。その先生に、「ヴォルフラム・アルントがミュンヘンで教え始めたよ。君はテナートロンボーンだからそこに行ったら良い勉強ができるんじゃないかな」と言っていただいたのがきっかけで、留学先の大学を決めることになりました。

 ヴォルフラム・アルント先生は、ミュンヘン音楽大学に来られる前は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で吹いておられて、演奏家としてはノリにノッている年齢30代前半に退団されて、教授になられた方なんです。

 そのアルント先生にアポイントを取るために、ミュンヘンの大学に行っている京都芸大の友達を頼りに連絡先の情報を得て、まず先生に手紙を書きました。

interviewer_musicもちろんドイツ語で。

松田 そうです。何年か後に下書きしたものを見たら、あきれるぐらい下手なドイツ語でしたけど、かなり頑張って書きましたよ。それから、すごく強引なことをしたんですけど、先生から返事が来る前にドイツに行ってしまいました。

interviewer_musicアポイントを取らずにですか!?

松田 「何月から1ヶ月くらい行きます。」って最初の手紙には書いていたので、手紙を読んでくれていたら何とかなると思ったんです。学校を訪ねて、「グーテン・ターク!(こんにちは)」と言いながら、思い切ってトロンボーンのレッスン室のドアを開けたんです。そしたら、「あっ、手紙読んだよ。来てくれたか。」とニコニコしながらアルント先生がおっしゃるので、拍子抜けしました。「返事くださいよっ。」と突っ込みそうになりましたね(笑)。

 笑顔のアルント先生に、「レッスンを受けたいのか」と聞かれて「はい」と返事をしたら、「じゃあ明日にでも来るといいよ」と言われて。次の日にレッスンを受けたら、「大学を受験したいのか」と聞かれて「受けたいです」と返事をしました。

 でも、自分が考えていたより事態の展開が早くて、慌てて「今回の滞在は1ヶ月だけなので、すぐに受けることはできないんです。来年必ず受けに来ます。」と伝えたんですよ。ドイツ語で必死に説明してね。でも、それがうまく伝わっていなかったらしくて、先生は、門下生の方に、「彼はいつ受けに来るんだ?」と1年近く言われていたそうなんですよ。

interviewer_music1年間、ずっと気にかけてくださっていたんですね。

松田 たった1回レッスンを受けただけなのに、うれしかったですね。僕もその1回のレッスンで、アルント先生の指導の厳しさに惹かれて教わりたいと思いました。

 終始なごやかな雰囲気で導いてくれる呉先生とは対照的に、アルント先生のレッスンでは、徐々に熱が入ってきて、終盤には“指摘の嵐”のような状況になることがよくありました。言われたことができなくて、情けなくてレッスン中に涙を流してしまったこともあります。でも、レッスンの一歩外に出ると、僕の慣れない留学生活をいろいろ気遣ってくださって、友人や下宿先で多くの人のフォローを受けて、集中的にトロンボーンの練習ができました。

interviewer_music留学期間中は、レッスン以外に旅行などもされましたか。

松田 演奏会はよく行ったんですけど、旅行はほとんどしていないです。2年間で、旅行は2回くらいかな。どこかに行くより、とにかく練習したくて仕方なかったんです。それに、アルント先生に「1日24時間しかないから寝ないで練習しなさい」と真顔で言われてましたしね。下宿先にいる僕のところに、時々電話がかかってくるんですよ、「練習してるか?」って。携帯電話だから名前が出るでしょ。ボーっとしている時に限ってかかってきて「うわっ、先生から電話だ」と焦って、急いでメトロノームをつけたりしていました。ピッピッピッって音が聞こえるようにです。そしたら「おお、練習してるな」って言われて、冷や汗をかいたこともありました。

interviewer_musicかなりトロンボーン漬けの日々だったようですが、留学先で「頑張ろう」というモチベーションを保てたポイントを教えてください。

松田 トロンボーンのクラスは全部で15人、ドイツ人以外の学生は4人で、ハンガリー、スイス、イタリアと日本から来た僕。みんな、僕と同じぐらい練習したい人たちで、そういうメンバーがずっとまわりにいる環境で彼らと一緒に練習できたから頑張れたんだと思います。練習だけではなく、お互いの話もよくしましたしね。

 それと、同級生の中には、学生ながらもオーケストラに就職して音楽家として生計を立てているクラスメイトも何人かいました。「自分も彼らのようになりたい」という思いが自然にわいてきて、自分を練習に向わせていましたね。

interviewer_music練習好きの松田さんでも、仕方なく練習するときもあるんですか。

松田 それはありますよ。自分の気持ちというか、心の状況に左右されます。レッスンの翌日は特に、「練習してできるようになるぞ」と思える時と、「昨日あんなこと言われたけど、自分には難しすぎるしやりたくないな。」と思って、なかなか練習に身が入らない時があります。本番が近いと、そういう気持ちと関係なく練習しなきゃいけないですけどね。

 その点、京都芸大での呉先生のレッスンは、先生に導かれてとにかく気持ちが盛り上がって、楽しさ一辺倒だったんですけどね。悩んでいても楽しく練習させてもらえる、幸せな時間でした。

インタビュアー:音楽学部 管・打楽専攻 1回生 景山須美子
(取材日:2012年11月8日)

Profile:松田洋介【まつだ・ようすけ】関西フィルハーモニー管弦楽団トロンボーン奏者

京都市立芸術大学音楽学部卒業、大学院音楽研究科修了。学部卒業時に音楽学部賞、京都音楽協会賞を受賞。ドイツ国立ミュンヘン音楽大学(Meisterklasse)卒業。トロンボーンを呉信一教授、Prof.Wolfram Arndtの両氏に師事。2010年9月より、関西フィルハーモニー管弦楽団トロンボーン奏者として入団。

オーケストラ以外でも、きょうと金管五重奏団、アンサンブル・プリンチピ・ヴェネツィアーニ(古楽アンサンブル)の各メンバーとして、トロンボーンとサクバットを用いて様々な演奏活動をしている。