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河内仁志さん 4/4

4.「教える」ということ

「教える」ということ

interviewer_music人に教えるとき,京都芸大の先生の影響を感じますか。

河内 京都芸大時代の先生の教えが自分の中でしっかり生きているので,「先生があのとき,こうおっしゃっていたから,自分も生徒にこうやって教えよう。」と思うことがよくありますね。先生のイメージが染みついていて,人に教えるときに参考にしています。

 教えることは,自分にとってもすごく勉強になります。生徒を見ていて,自分だったらどうするかということをすごく考えるし,自分で弾いているとき以上に,隅々までその曲を見て,その曲について考えるようになります。教えるようになってから,逆に勉強した事もたくさんありますね。それと同時に,改めて京都芸大の先生のすごさを感じました。

interviewer_music今はどういう年齢層に教えているんですか。

河内 子どもたちばかりで,ほとんど小学生です。実家の近所でも小学5年生の子を教えているのですけど,この間,その子がある全国コンクールで優勝したんですよ。確かにすごくできる子なのですけど,あれよあれよと予選を進んでいったと思ったら,そのまま優勝して。すごく嬉しかったですね。「一緒に頑張ってきて良かった。」と思いました。高校生がやるような難しい曲を5年生のその子が見事に弾くんですよ。今度,シューマンのコンチェルトをオーケストラと演奏する予定になっていて,その子よりも自分の方がプレッシャーを感じてしまっています。

interviewer_music教え子の上達を見るのは楽しいですか。

河内 楽しいです。僕も遊びに行っている感覚なので。僕は,レッスンできついことを言ったりしなくて,「ここはこういう風にしたらいいんじゃないかな。」という感じでアドバイスをするだけです。でもそれを素直に吸収してくれる子だったから,優勝できたんだと思います。

interviewer_musicその子は将来,京都芸大に来るのでしょうか。

河内 「せっかくなので音楽家の道を目指したらどうか。」と勧めてみましたし,本人も「音楽大学に行きたい。だからその前に音楽高校に行きたい。」と言っています。でも親御さんが離れたくないみたいで。「寂しいから家の近くがいいです。」みたいな話をされていましたね。その気持ちもすごくよく分かりますし,少し複雑な心境です。

interviewer_musicこれを機会に指導者の道に進もうという思いはありますか。

河内 「いつか京都芸大の先生になれたらいいな。」と思うこともありますが,今は特に考えていません。と言うのも,今は,神戸市混成合唱団での活動がすごく楽しいですし,子どもたちにもっと音楽のことを伝えて行きたいと思っています。でも,京都芸大の先生はみなさん演奏家として一流の方ばかりで,もしそこに加えていただけるなら,すごく名誉なことだと思います。

interviewer_music将来,お子さんができたら,音楽の道に進んで欲しいと思いますか。

河内 家に楽器がある環境なので,それで興味を持つか,逆に親と一緒は嫌だ,となるのか,どちらかわからないですよね。もし,子どもが興味を持てば,させてみたいとは思いますが,興味を持っていないのに何が何でも,とは思わないです。自分で決めさせてあげたいですね。

interviewer_musicもし,お子さんが楽器を始めたとしたら,大学を選ぶときに,京都芸大をお勧めされますか。

河内 どうでしょうか。少し家から遠いので,もっと近くにいてほしいと思う部分もありますね。でも良い先生がいらっしゃったらそこが一番良いと思います。大学というよりはやっぱり先生ですね。そういった意味では,京都芸大はすごい先生が多いので,良いのかも知れないですね。

受験生と,京芸生へのメッセージ

interviewer_music受験生へ

河内 音楽を続けていれば,頑張っていれば,なんとかなる。続けることが大事。迷うんだったら,とりあえず自分の思うことをやってしまえばいいんじゃないかな,と思います。

 あと,コンサートや入試など,大事な場面に向けては,怪我をしないことですね。僕は,京都芸大の受験前に手の指をはく離骨折したんですよ。入試の演奏中もずっと「痛い。」と思いながらなんとか耐え抜きました。それで合格できたのは,本当に運が良かったのだと思います。

 怪我をしないで,体調管理をしっかりとする。基本ですよね。受験は一発勝負なので,そのときにベストが出せるように自分で自分をメンテナンスする。これは演奏家として,その後もずっと大事なことです。僕も受験のときの経験があったから,本番前の体調管理にはすごく気を付けています。

interviewer_music京芸生へ

河内 「少しでもやりたいと思うことがあるのだったら,思い切ってそれをやってみる。」自分の思った事で迷っている事は,とりあえずやってみるって事ですね。何事も挑戦。そして,ドントギブアップの精神で,とにかく続ける。それが大事ですね。

 あと,レッスンとは関係ありませんが,学生の間に是非やっておいた方が良いと思うのは,京都観光ですね。せっかく京都にいるのだから,この機会に色々とまわっておいた方が良いと思います。京都は伝統のある寺院や街並みが多くて,気持ちが落ち着きます。僕は京都が好きで,学生のときからよく一人でふらっと観光したりしていました。この間も,醍醐寺に行ってきたんですが,すごく良かったですね。醍醐寺はオススメです。

インタビュー後記

インタビュアー:北端祥人(音楽研究科修士課程 器楽専攻(ピアノ)平成25年修了)

(取材日:2012年11月30日)

 これまで,河内さんのコンサートやリサイタルに足を運んだことはありましたが,じっくりお話をさせて頂くのは今回が初めてでした。

 河内さんは,独特の優しい雰囲気を持っておられ,とても物腰が柔らかい印象でした。その一方で,音楽と向き合うこと,また,後進を指導することに対しては,妥協を許さない内なる情熱を持ち,自分の世界を確立しておられる方だと感じました。

 大舞台での演奏や,子どもたちに音楽を教えるときなど,いつでも有りのまま純粋に音楽に取り組んでおられるその姿勢にとても感銘を受けました。

 私は,将来のことや,音楽と対峙することについて,不安や焦りを感じたりすることが度々あります。でも,河内さんとお話をさせて頂くことによって,大好きな音楽に日々取り組むことができる大切さに気付きました。それは,一見当たり前なことですが,見失いがちなことです。これから,恵まれた日常に感謝し,地に足をつけて,等身大でピアノに向き合っていきたいと思います。

Profile:河内仁志【かわうち・さとし】神戸市混声合唱団専属ピアニスト

1984年兵庫県生まれ。2007年京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業。

2001年第55回全日本学生音楽コンクール大阪大会ピアノ部門高校の部第1位。2006年第75回日本音楽コンクールピアノ部門第1位。併せて野村賞,井口賞,河合賞受賞。2009年第12回モノーポリ国際ピアノコンクール(イタリア)第3位,聴衆賞受賞。

これまでに,坂本恵子,徳末悦子,佐藤俊,田隅靖子,神谷郁代,坂井千春,Jacques Rouvier,Buruno Rigutto,Gerard Wyssの各氏に師事。

2013年から本学非常勤講師。