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谷村由美子さん 4/4

4.今に生きる京都芸大での経験

今に生きる京都芸大での経験

© Palazzetto Bru Zane-Photo Michele Crosera

interviewer_musicこれまでの軌跡を振り返られて,今に生きている京都芸大での経験はありますか。

谷村 当たり前かもしれませんが,真面目に勉強することですね。目標に向かってきちんと準備して作り上げていく。たとえば細かいことですけど,レッスンを録音したり,ピアニストさんの分まで楽譜を製本して,すぐに音が出せるような準備をした上でレッスンに行くこと。練習やレッスンに集中できる環境を自分で作っていける力は大事だと思います。日本ではこのようなことは普通に皆がしていることだと思いますが,フランスでは普通ではなかったんです。コピーした楽譜をバラバラと持ってきて,きちんと並べるだけに数分もかかるという感じです。カルチャーショックでしたね。

 あとは,学部2年生のときだったでしょうか,学科のテスト前で忙しく,曲の大意は掴んでいたのですが,個々の単語の意味を把握していないままレッスンで歌い,先生から単語の意味を質問されたときに答えられず,「図書館行ってきて」とレッスンを切り上げられてしまったことがありました。その時は,そんな中途半端な準備しかできなかった自分が恥ずかしく,先生に対して申し訳なく「穴があったら入りたい」という状態でしたが,そのような指導を受けて,自分で何を言っているか深くまで理解せず,「言葉」ではなく「音」で歌っている人が意外と多いことに気づきました。日常生活の中でも,自分が何を言っているのか理解して言葉を発しているのと,靄がかかった状態で言葉を発しているのでは説得力が違いますよね。自分が何を言っているのかが頭の中でクリアな時は,心の底からストンと感情が言葉を通して出てきて,伝わるものが何倍にもなるということを実感しました。

 大学で学んだそのような基本的な部分が土台として今に生きているように思います。

interviewer_music私は大学の授業の中でも語学がすごく苦手なんです。

谷村 私も決して語学が得意だった訳ではないですけど,わかりだすと楽しいですよね。先ほどお話ししたように,意味を深いところで理解して,それが歌を通して伝わることの喜びを感じ始めれば,マスターするまでの道のりが楽しくないときも乗り切れますよ。そういうことも,京芸時代に学びました。

interviewer_music学生時代にやっておいた方が良いことは,やはり語学でしょうか。

谷村 大学時代は,どんどん視野を広げて自分の価値観のベースとなるものを作る時期なので,音楽はもちろん,大切な友達作り,そして社会勉強も含めてアルバイトができると良いですね。

 学生時代から色々な音楽を聞いて,大いに刺激を受けることはとても大事だと思います。そして,頭がまだまだ柔らかくて,時間を自由に使える学生時代に1つでも外国語をマスター出来れば理想的です。

 また,学生時代にしか出来ないことがあると思います。私は,大学時代に出会った仲間と,泣いて,笑っての熱い日々を過ごしました。今でも,彼ら,彼女達とは素晴らしい友人関係です。社会に出たら,音楽の世界では,皆「我が,我が」と競い合っている中で,本当の意味での友達は出来にくいような気がします。そういう友人は,社会に出てからはなかなか巡り会えないように思います。

 アルバイトも,音楽とは違う世界の人の視点でものを見ることができ,自分の中のバランス感覚が培われるような気がします。当時アルバイト先で友達になった人が,今では本当の姉妹のようですし,そういう本当の友達は,皆,大学時代からの友達なのです。

 音楽が中心の生活ですが,決して音楽だけをやっていれば良い音楽ができるとは思いません。

 京都芸大で勉強したことや,何事にも真剣に取り組む姿勢,今に繋がる価値観,そしてそこで得た友人が私のとても大きな財産となっています。

interviewer_music今後チャレンジしたいことはありますか。

谷村 フランスは現代音楽が比較的盛んで,今を生きる作曲家さんと一緒にお仕事をさせていただく機会があります。既に亡くなった作曲家が残したレパートリーを自分なりに掘り下げるのとは違って,その曲を書いた人が目の前にいて,何をやりたいかということをダイレクトに聞いて話すことができるというのは,すごく面白いですね。そういうチャンスが今後もあれば良いなと思います。またそれとは正反対に,今までからたくさんの方が歌われている作品を,自分なりのアプローチで深めたいという思いもあります。

受験生と,京芸生へのメッセージ

interviewer_music受験生へ

谷村 京都芸大の気さくな雰囲気はとても居心地が良いですよ。学生数が少ないとおのずと周りの人との関係が密になります。教員や事務員の方々も学生一人一人の顔と名前を覚えてくださって,親身に相談にも乗ってくださるのでとても心強いです。

 あと私は中央棟の1階入り口の芸大ギャラリーが好きでした。美術学部の先生や学生の作品がこうして身近にあるのも京都芸大ならでは。違う分野で頑張っている,エネルギーいっぱいの同世代の人たちと触れ合うことが出来る環境は貴重です。京都芸大はこういう恵まれた環境の中で音楽に没頭できる大学ですから,受験生の方にはぜひ頑張ってほしいと思います。

interviewer_music京芸生へ

谷村 まずはよく学び,自分と真剣に向き合ってほしいです。そのなかでいろいろな壁に突き当たることもあるでしょうが,学生時代,大いに悩んで良いと思います。そこからきっと本当の自分や自分のしたいことが見えてくるような気がしますから。

 また,よく遊ぶことも大事ですね。学生時代にしか出来ないこと,例えば,海外音楽旅行とか。いろいろな異なる分野の人たちと出会う中で,とても良い刺激がもらえるのではないかと思います。

 それと,何かしら「夢」を持ってほしい。まわりの目や既成の固定観念にだけとらわれて小さくまとまりすぎず,素晴らしい環境で,素晴らしい仲間と,素晴らしい音楽をやって,それを社会に還元する,発信する,というような主体的でアクティブな学生さんになってほしいですね。

インタビュー後記

インタビュアー:伊藤黎(音楽学部 声楽専攻 4回生)

(取材日:2012年12月17日)※ビデオチャットでの取材

 谷村由美子先生とお会いするのは今回が初めてで,先輩から素敵な先生だと聞いていたので,お話できることをすごく楽しみにしていました。お会いしてみると,初めてとは思えないほど気さくな先生で,先生のお話の一つ一つが私の心に染み込んでいき,インタビューが終わった直後はとても興奮し,多くのことを吸収できたことですごく満たされていました。

 20代は失敗しても構わない,無駄なことは何もない,学生時代から視野を広く持ってどんなことにでも興味を持ち,経験をして,感じることが自分の進む道を開拓することになることを教えていただきました。

 また,私自身,卒業が近づくにつれ友人の大切さを感じていたので,学生時代の友人は一生の財産だという言葉もとても印象に残りました。

 一番印象に残ったことは「声楽(音楽)には果てがない。」とおっしゃったことです。改めて考えるととても深いお言葉で,衝撃を受けました。

 音楽には完璧は存在しない。だからこそ,いつまでも自分の求めているものを求め続けられる最高の喜びだと思いました。

 今回のインタビューはとても貴重な経験になりました。このような機会を頂けたことを感謝しています。

Profile:谷村由美子【たにむら・ ゆみこ】声楽家

1999年京都市立芸術大学・大学院音楽研究科修士課程声楽専攻首席修了。

びわ湖ホール声楽アンサンブル専属メンバーとして活躍後,2001年よりパリ高等音楽院(CNSMDP)声楽科大学院課程に留学。その後パリ国立地方音楽院(CNR)では古楽演奏のディプロムを取得。

バロックから現代まで幅広いレパートリーをもち,主にリサイタル,宗教曲のソリストとして活躍。

「ピエール・ベルナック声楽コンクール」,「リリー&ナディア・ブーランジェ国際コンクール」,「リヨン国際室内楽コンクール」で優勝,「エリザベート国際コンクール」セミファイナリスト,「日本音楽コンクール」入選など数多くのコンクールで優秀な成績を収めるとともに,「京都青山音楽賞」,「京都市芸術新人賞」を受賞するなど各方面から高い評価を得る。

京都市立芸術大学専任講師を経て,現在は拠点をフランスに移し,ヨーロッパと日本を中心に音楽活動を展開している。