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木下敦子さん 4/4

4.京都芸大で学んだこと

「2台ピアノと打楽器によるコンサート」


interviewer_music木下さんにとって,ピアノの魅力はどんなところにありますか。

木下 いろんなことができるところです。ピアノで出すことが難しい音色もあるけど,例えば歌のように鳴らすとか絃のように鳴らすとか,そういう表現をいかに本物に近づけられるかを,探すことも楽しいです。他の楽器には全然目がいく機会はなかったけど,ピアノが1番好きです。これからもピアノを弾いていきたいです。

interviewer_music京都芸大で学んだことで,今のご自身に何が生きていると思いますか。

木下 いろんな曲をいろんなパートナーとやっていたことです。日本での経験があるから,ドイツで室内楽をやるときも,演奏家たちと曲の解釈の違いをすり合わせながら演奏することができています。これからピアニストとしてやっていく上で,京都芸大で随分と経験を積むことが出来ました。

 それに,京都芸大は,音楽だけではなくて,美術学部も同じ敷地にありますよね。私は,日本画家として活躍されている澤村 春菜さんと高校の同級生なんですけど,大学に入ってからも接点があったので,大学ギャラリーの展覧会や京都市美術館で開催される作品展を見に行っていたんです。彼女の作品が大好きだし,その表現力に随分と感化されていました。音楽だけにとどまらない,幅広い芸術の世界を見ることができて,たくさん良い刺激をもらうことができました。

 中でも,一番の出来事は,椋木先生に出会ったことです。先生の門下生になれたことが,今の私に全部つながっていると思うんです。先生が長くドイツで学んでおられたので,結果的にドイツ流のレッスンが受けられていて,そのおかげで,ドイツに来てからも,身に付けてきた基本はそのままに,自分の音楽性を高めることができたと思います。そして,椋木先生に基本を何度も根気強く教えていただき,自分をなかなか出せない私の固い土壌を少しずつ耕していただいたおかげで,ピアニストとしての芽を出すための十分な準備ができていたと思います。

 その芽はドイツに来てから見え始めたものだけど,京都芸大の4年間は,今の私の基礎を作ってくれた大事な期間でした。

interviewer_music木下さんがピアニストとしてここまで成長されていった姿が,このインタビューを通じて,受験生や在学生に年齢の近い先輩として,十分伝わったと思います。

木下 私は,ピアノを続けたいという気持ち以外,将来のビジョンがまだはっきりしてないんです。最近,マンハイムの友達に,「将来はどうしようかな。」ってつぶやいたのを聞かれて,「将来のことを考えても何もならないから,今やらないといけないことをやっていればいいのよ。」と言われたんですよ。それも一理あるなと思って,悩みすぎないようにしています。自分の中に将来に対する不安を解消したい気持ちは残っているけど,悩んでいても,目の前には多少なりともやることが必ずありますもんね。一つずつこなしていくことで,将来に近づいているんだと考えるようにしています。

 これからも毎日練習して,お客さんに素敵な音楽を届けることが,私のやることです。頑張ります。

「2台ピアノで野外演奏」

「フルートとのデュオ」

interviewer_music最後に,京芸を志す受験生と在学生にメッセージをお願いします。

木下 自分がやりたいと思うことがあるなら,先生や親に反対されたとしても,一度は挑戦してほしいです。

 私も,大学に入ったら室内楽をやりたいと思っていたので,椋木先生からソロの練習時間をもっと取るように言われていましたが,伴奏の練習に随分時間を割きました。反対されて諦めた方が良い結果につながるのか,自分のやりたいことを時間をやりくりしながらでも続けた方が良い結果になるかは,誰にもわからないですよね。自分でやると決めたからには責任を持たないといけないけれど,何でもやってみないと分からない。挑戦したことは,自分にとって無駄にはならないと思います。

 だから,京都芸大を目指している人の中には,京都芸大は募集定員も少ないし,入試のハードルが高いと思う方もいるかもしれませんが,頑張って挑戦してほしいです。京都芸大は少人数制で,同級生はみんな顔見知りでしたし,事務局の方も学生のことをよく知ってくれていて,大学全体がアットホームな感じで,とても居心地が良かったんです。レッスンは厳しかったけれど,私を成長させてくれました。私は人見知りな性格で,最初は友達ができるかどうかも心配でした。でも,ピアノ専攻では,自分が誰の伴奏者としてペアを組むのかを最初に決めることもあって,一人二人と,友達が増えていくんですよね。他の専攻のいろんな人と関われる機会がたくさんあって,美術の人の展覧会を見に行ったりしていろんな刺激をもらうこともできました。私を成長させてくれた京都芸大に感謝しています。

インタビュー後記

インタビュアー:泉麻衣子(博士課程器楽領域ピアノ専攻3回生)

(取材日:2013年12月6日)※スカイプでのインタビュー

 京芸に在学していた頃から,音楽に対する考え方など共感していた木下さんにインタビューさせていただき,とても刺激的で楽しかったです。自分自身のドイツ留学時代のことも鮮明に思い出すことができました。

 木下さんとのお話で,自身が如何に成長したかを常に客観的に意識しているところが印象に残りました。すべての経験を糧に,真っ直ぐに音楽と向き合っていこうと,改めて自身の姿勢を見直すための良い機会となりました。私も,長年お世話になっている京都芸大の先生をはじめ,皆様に,感謝の気持ちを忘れずに,ピアニストとして精進していきたいです。

Profile:木下 敦子【きのした・あつこ】ピアニスト

1987年 神戸市生まれ。京都市立芸術大学音楽学部卒業。

卒業後,ドイツのマンハイム国立音楽舞台芸術大学に留学し,マスター課程を最優秀の成績で卒業,現在ソリスト課程に在籍。

「第41回 東京国際芸術協会新人演奏会オーディション」 最優秀新人賞受賞。「第8回 宝塚ベガ学生ピアノコンクール」 第3位。「第10回 大阪国際音楽コンクール」 エスポワール賞受賞。「2011年ドイツ バーデン・ビュルテンベルク州ベヒシュタイン学生ピアノコンクール」 第2位。「2012年フランス ニース国際ピアノコンクール」 第1位。「2013年オーストリア ブラームス国際コンクール」 第1位。

ヒルデスハイム管弦楽団,カンヌ管弦楽団,バーデン・バーデン管弦楽団との共演にてソリストを務める他,ドイツ各地にてリサイタルを開催。ソリストとしてのみならず,リート伴奏や室内楽,ピアノデュオなど多岐に渡り活動する。また,Y.Menuhin財団奨学生として高齢者施設や病院など,さまざまな環境での演奏にも力を入れている。現在同大学で声楽科の伴奏助手を務める。マンハイム・ライオンズクラブ,ソロプティミスト奨学生。これまでにピアノを真鍋公子,菊地葉子,椋木裕子,Rudolf Meister,Ok-Hi Leeの各氏,リート伴奏をHeike-Dorothee Allardt,Ulrich Eisenlohrの各氏に,副科チェンバロを中野振一郎氏に師事。

その他にAndrzej Jasinski,Klaus Schilde,Jean-Pierre Armengaud 各氏のマスタークラスを受講。