閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

沓野勢津子さん 2/4

2.スランプからの復活


四芸祭(現在の五芸祭)にて

interviewer_music京都芸大ではマリンバだけをされていたのでしょうか。

沓野 打楽器研究室なので,打楽器を全般的に練習しました。オーケストラの定期演奏会に出演するためのオーディションが2回生くらいから始まりました。それまでは,上級生が出演していたのですが,実力主義でいこうということで学年に関係なくオーケストラ・スタディのオーディションで出演者を決める方法に変わりました。

interviewer_music私は,4回生の初めのソロのオーディションでソリストに選ばれたのですが,その頃から,依頼演奏などやらなければいけないことがいっぱいありすぎて,機械的にこなすようになり,次第に何で音楽をやっているのかわからなくなって,気持ちが落ち込んでいます。沓野さんは,在学中に音楽をやる意味がわからなくなる時はありましたか。

沓野 それは,贅沢な悩みです。卒業したら,仕事はありません。どうやって仕事を作り出すかということに困るから,学生時代に仕事があるのはありがたいことだと思います。一度,ぶらっと森に出かけてみるとか気分転換した方が良いかもしれませんね。

 私も,在学中にすごく落ち込んだ時期がありました。2回生の時に,某プロオーケストラに呼ばれてエキストラでトライアングルをやっていました。その時に,団員の打楽器奏者の方に,一音出すたびに,「タイミング遅いから!そんな音色じゃダメ!」とすごく怒られました。エキストラでオーケストラに参加すると,すごく緊張するじゃないですか。その状況で,一音出す度に,「違う,違う」と言われて,トライアングルだけじゃなくて全ての楽器で音を出す事が怖くなってしまいました。

 だからマリンバを弾いていても,魂が抜けた演奏になってしまって,みんなに「どうしたん?」と心配されていました。打楽器研究室で必死でトライアングルを練習していても,山本毅先生に「沓野ってトライアングル似合わないよね」とか言われて,余計に落ち込んでいました(笑)。

interviewer_music山本先生は笑顔で言われますよね(笑)。

沓野 ひどいよねー(笑)。それでどうやって立ち直ったかというと,良い演奏者,つまりこの人は“音楽モンスター”だと思う演奏者にレッスンを受けたりしました。それで刺激を受けて,少しずつ音が出せるようになって,本番を繰り返し,少しずつ良い評価をもらうようになるにつれ,立ち直っていきました。


卒業式にて,打楽器の同級生と

interviewer_music私が弾かなくても代わりはいるんじゃないかと塞ぎ込んでしまう時があるんです。

沓野 演奏する時に「自分を見て」という感じではなくて,曲の良さを紹介するのが演奏者の仕事だと思います。ただ,自分でなくて良いということはなくて,あなたにしかできない紹介の仕方みたいなものがあると思います。それは誰にもできないから安心してください。

 でも,やっぱり1番早く立ち直る方法は,すごい人に会うことだと思います。京都芸大では,山本先生と種谷先生に,もちろん演奏面でも大いに助けてもらいましたけど,それ以上に精神的に本当に助けられました。先生のお人柄,生き方そのものに沢山のことを教わったのです。あと,ピアノ専攻の上野真先生も大好きです。上野先生が京都芸大の教授陣コンサートで弾かれたシャコンヌを聴いて涙が止まらなくなりました。京都芸大の先生はすごい人が多いので,いろんな先生と仲良くできたら素敵だと思います。

interviewer_music私も京都芸大の先生と,オーケストラに御一緒させて頂いたりする時があるので,先生の凄さを実感しています。

沓野 そういう“音楽モンスター”を見るべきです。

インタビュアー:高田汐莉(高は“はしごだか”),樽井美咲,藤田もも

(いずれも音楽学部 管・打楽専攻4回生*)*取材当時の学年

(取材日:2014年11月5日・京都芸大音楽棟打楽器研究室にて)

Profile:沓野勢津子【くつの・せつこ】マリンバ奏者

京都市立芸術大学音楽学部を首席で卒業。卒業に際し音楽学部賞・京都音楽協会賞受賞。

ロームミュージックファンデーションの奨学生として米国ボストン音楽院大学院に留学し,グラデュエイト・パフォーマンス・ディプロマ科マリンバ専攻を卒業。現在は日本に完全帰国し,北海道札幌市在住。

2009年イタリア国際打楽器コンクールマリンバ部門第1位受賞。2010年米国南カリフォルニアマリンバコンクール優勝。2014年第31回日本管打楽器コンクールマリンバ部門第1位および文部科学大臣賞,東京都知事賞を受賞。他多数のコンクールで優勝。 2013,2014年札幌市民芸術祭奨励賞受賞。

これまでに打楽器・マリンバを奥田有紀,種谷睦子,山本毅,坂上弘志,小森邦彦,ナンシー・ゼルツマン,布谷史人の各氏に師事。 2012年にソロCD「子供の領分」を発売。日本最大のマリンバメーカー「こおろぎ社」アーティスト。札幌大谷大学芸術学部音楽学科非常勤講師。