沓野勢津子さん 3/4

２人の息子を子育て中

学年が上がっていくにつれて，練習する時間は増えましたか。

沓野　学年が上がるほど外から仕事の依頼をいただいたので，１・２回生の頃が1番練習していたと思います。授業後の１８時から２１時と，土日も練習していました。３・４回生は，外の仕事を結構していたので学校でゆっくり練習できる時間があまり無かったように思います。４回生になったら，仕事と学内の演奏会をこなすので必死でしたが，それをこなすことができたのは１・２回生の時に，地道に基礎力をつけていたおかげだと思います。最近，札幌交響楽団（以下，「札響」）などに出演していて思いますけど，ソロもそうですが，オーケストラで大事なのは基礎力だと思います。まず１つは，自分の中の拍感がぶれないで音色が綺麗であること。もう１つは，タイミング良く曲の流れに合った音が出せること。具体的にはこの２つだけです。

　卒業したら結婚したり，子供が生まれたりで，家事と育児に追われて自分の時間が取れなくなったりしますから，短い練習時間でも本番できちんと演奏できるように，学生のうちに基礎力をつけておいた方が良いです。そういう基礎的な音楽素養を学生のうちにマスターしておけば，あとあと主婦をやっていても，子育てをしていても，音楽活動と両立できます。

在学中に基礎力を高めるために具体的に何をされていましたか。

沓野　私は，音楽家としての基礎力を高めるためには図書館のＣＤを片っ端から聴いていました。こういう音楽が良い，こういう音楽作りをしたい，というイメージが自分の中に明確にあれば，それに向かって練習するだけですし，逆にそれがなかったら何に向かって練習しているのかわからなくなるので，まず耳を肥やすことが良いと思います。西洋音楽史や音楽美学，ソルフェージュなど，授業でもそういうことを教えていただいていました。特に，ソルフェージュの授業は，岡田加津子先生が，サンバとかもやってくれたので，すごく楽しかったです。

　１番技術的な基礎力がついたのは，基礎練台でのスティックコントロールの基礎練習です。山本先生が厳しかったから，自分ではできていると思っていても，先生からはご指摘を受けることが多く，すごく細かく指導してくださったのが良かったです。

札幌コンサートホールkitaraにてリサイタル（2013年）

どのようにしてマリンバ奏者としてのお仕事に繋げられたのでしょうか。

沓野　私は結婚後，主人の仕事の都合で札幌に移り住んだのですが，最初は本当に仕事がなかったんです。音楽をやっていない周囲の人たちは「マリンバって何？」から始まりました（笑）。そこから，どうやって仕事を作りだしていこうかと悩みました。さっき仕事が多すぎて悩んでいたあなたの悩みと真逆です。北海道では，全然ツテもなかったので，最初は，ボランティアで，町内会のクリスマス会や音楽祭などイベントでも何でも出て行きました。そうしたら，聞いてくれた人から「今度うちでもやってください」という依頼をちらほら頂き出して，そこから，ボランティアだけじゃなくて，ちゃんと出演料を頂いて演奏できる機会が増えてきました。また，札幌コンサートホールkitaraという北海道で1番大きいホールでデビューリサイタルとして自主公演をしたら，少しずつファンが増えてきて，ファンの方から「うちの病院でリサイタルをやってください」という依頼を頂きはじめて，今は仕事が増えてきて，楽になってきています。仕事は待っていても絶対こないから，最初は自分から動いてください。