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小西 潤子さん 3/4

3. 視点を変えて大学を見る


interviewer_music修士課程で書かれた祇園祭の論文は,どのような内容だったのしょうか。

小西 当時は,「サウンドスケープ」という言葉が世の中に出始めた頃でした。中川先生がそれに注目されて,何か新しいことを京都でやってみようということになり,そのプロジェクトに参加することになったんです。

 大阪音大時代に大阪の天神祭の調査をお手伝いしたことがあり,お祭というものは,メインの見せ場だけではなく,周辺部分まで含めて,色々な要素が同時進行して出来上がる複合的なものだと知りました。都市祭礼研究のブームでもあったのです。祗園祭の調査隊の一員としては,お囃子の録音をしたり,お祭の関係者にインタビューを行ったりしました。

 調査を進めるうちに段々と,「人々に記憶されている祇園祭の音」が気になるようになりました。京都にいる人はもちろん,京都から離れた場所にいる人も,夏の祗園祭の時期になるとそわそわしたり,あの「コンチキチン」という響きが頭の中に蘇ってくると言うんです。その人達にとってお囃子の音は,とても大切な音なんだと気付かされました。そこで,修士論文は,京都という都市とともに形成され継承されてきた音の文化が,どんな形で人々の心の中に残り,そして,次の世代に伝わっていくのだろうかという観点からまとめました。

interviewer_music大学院を修了後,ご自身のキャリアの中での転機はどんなことでしたか。

小西 大阪大学の博士課程を修了後,大学教育への思いがますます強くなって専任職を探しました。それまでずっと関西で勉強していましたが,ポストがあればどこにでも行こうと決心しました。そんな時に,運よく静岡大学教育学部で採用されることになりました。専業主婦になろうとしていたのに,人生ひっくり返ってしまったようで…(笑)。毎週,車で片道4時間かけて大阪から通う単身赴任生活が始まったわけです。静岡での生活は,結局13年にも及びました。

 私は,研究成果をいかに社会に還元できるかを考え,実践する取組も行っています。民族音楽学では,こうした「応用音楽学」への関心も高まっています。静岡大学にいた当時は,市民を巻き込む形で文化を創造する試みをしていました。

 その一例ですが,お茶の産地として有名な静岡にちなんで,「静岡の新しいお茶の歌を創ろう」というプロジェクトを企画運営しました。市民から歌詞を募集して,優秀な歌詞にはそれに合う曲をプロの作曲家が提供し,プロの歌手が歌って披露しました。お茶への思いをつづった静岡の人たちの詩が,音楽になって,歌になる。そのプロセスをも楽しむ試みで,入選した歌詞には「カテキン賞」などユニークな賞が授与されました。

 静岡という未知だった土地と縁を持ったことで視野が拡がり,与えられた条件の中でどんな活動ができるか,どうすれば更に発展的なことが出来るかということに真剣に向き合っていました。

 また,振り返ってみれば,私自身が私立の音大から出発して,公立の芸術大学,国立の一般大学と条件の異なる大学で学んだことが,よりよい学生教育や大学運営を考えていく上で役立っていると思います。


パンパイプスの制作現場にて,完成品を海洋文化館に設置(2013)

interviewer_musicオセアニアの民族音楽の研究は,いつ頃からどういった経緯で始められたのですか。

 大学3回生で転学科した当時,LPレコードの資料を見ると,地理的に近いオセアニア研究事例が案外少ないと分かったのです。それなら私がやるしかないなと思い始めました。

 フルートを演奏していたので,最初はソロモン諸島のパンパイプスという楽器に関心を持ちました。しかし,当時ソロモン諸島は治安があまり良くありませんでした。そこで,行きやすくて調査が進んでいない場所を探したところ,ミクロネシアと出会ったんです。英語にも自信が無かったですが,戦前日本統治下にあったミクロネシアには日本語を話せる老人がたくさんいると聞き,日本人ならではの研究ができるのではないかと。

 その後,ソロモン諸島には,2014年太平洋芸術祭のときに行くことができました。また,沖縄の海洋文化館(本部町)のリニューアル(2013年)に際してアドバイザーとして携わることができたのですが,その際にソロモン諸島のパンパイプスを入れることができました。

 海洋文化館は,世界でも唯一のオセアニア文化を紹介する施設です。常設展ですからいつでも見ることができますし,音楽コーナーやダンススタジオも設けたりして体験を重視しています。近隣には美ら海水族館もあるので,足を延ばして是非行っていただきたいです。

interviewer_musicフィールド調査を行う際に不安などはありましたか。

 結構,怖がりなので,時間をかけて準備をするタイプです。昔はインターネットが無かったので,事前に現地に詳しい人と連絡を取ったり,島から帰ってきた人達一人ひとりを訪ねて話を聞きに回ったりもしました。

インタビュアー:稲谷祐亮(音楽研究科修士課程 作曲・指揮専攻(作曲)1回生*取材当時)

(取材日:2015年11月6日・本学大学会館にて)

Profile:小西 潤子【こにし・じゅんこ】大学教員

大阪府出身。1990年京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程修了。1998年大阪大学大学院文学研究科博士後期課程芸術学専攻(音楽学)修了。

専門は民族音楽学。主にオセアニアの民族音楽を中心に人々と音楽との関わりについて研究している。

静岡大学教育学部教授を経て,現在,沖縄県立芸術大学音楽学部音楽学科教授。